ep.2-2 ドワーフのルト

「大将。開店前だが入っていいか?」



大将は声のする方向を見て笑顔になって答える。



「ルトさん。いらっしゃい、どうぞ」



大将の返事を聞いたドワーフのルトは扉と閉じて、カウンターに座った。



「開店前にすまないね」

「いえ、昨日の話でしょ」

「あぁ。そうなんだが……あの子は?」



ルトは一生懸命机を拭いているすずねの方をゆび指す。



「うーん……こっちも色々あってね」

「まぁいいや。先に伝えておかないといけないことを話しておくよ」



ルトは大将の方に顔を近づけて、周りに誰もいないことを確認してから小さな声で話す。



「昨日の放火の一件、怪しいやつが出てきた」

「誰ですか?」

「……あさぎりの店主、オルクだ」

「やっぱり」



ルトは大将の反応に少し驚く



「なんだ。知っていたのか?」

「その日の朝に色々あってね、そうかと思っていたからね」

「なるほど。心当たりはあるってことか」



ルトは大将から顔を離して話す。



「ただ、少し厄介なことになっている」

「どういうことだ?」

「あの店主、衛兵の上の奴に賄賂を渡してるようだ」

「……はぁ。相変わらずだなぁ」



大将はため息をつく。

ルトも同じくため息をつきつつ、話を続ける。



「この話は仲のいい衛兵から流れてきた情報だ。

 怪しい証拠とか出てきた瞬間に急に捜査を打ち切れって指令が出たらしい」

「まぁ、仕方ないよ。あっちは老舗だからね」

「どうだか。俺ら魔族は一切入れないし、最近はダメな噂しか聞かないけど」



ルトは首を振りながら大将に答える。

大将は少し驚いた表情で尋ねる。



「そうなのか?俺がこの町に来た時は大人気店だった気がするけど」

「それ、何年前の話だよ。あそこの店主が数年前に変わったときから

 全くいい噂は聞こえてこない」

「そうなのか……」

「お前なぁ……近場の店の情報ぐらい仕入れておけよ」

「まぁ、全く興味なかったからね。自分の店で必死だから」



大将はルトに笑いながら答える。

そして何かを思い出したのか神棚に置いていたヒビが入っている青い玉を取り、ルトに渡す。



「ルトさん。これを見てもらっていいですか?」

「あぁ。なんだこれ?」

「あの祠に昔からあった玉……なのですが」

「ぼろぼろじゃねぇか」



ルトは壊さないように慎重に持ちつつ、玉をぐるっとみた。

球は透きとおった青であることはかろうじてわかるものの、

ヒビがいたるところにある上、傷だらけのために透明性はなくなってしまっていた。

その様子を見ていた大将が尋ねる。



「これ、直すことってできますか?

 ドワーフの種族ってこういうの得意って聞いたんですけど」

「確かに得意ではある。何ならそれが仕事の一つだが……これは無理だな」

「あらら。どうして?」



ルトは青い玉の大きなヒビを指さして、大将に見せながら話す。



「……ここまで大きなヒビの入った玉を元に戻すには同じ材料が必要だ。

 ただ、この鉱物を俺は見たことがねぇ。おそらくかなりレアだ」

「そうですか……」

「すまねぇな」

「いえ、無理言ってすみませんでした」



ルトは申し訳なさそうに玉を大将に返す。

それを大将は受け取り、慎重に神棚に戻した。

その様子を見ていたルトが頭をかきながら話す。



「まぁ……その玉は直せないが、祠の外側ぐらいであれば直してもいいぞ。

 扉については装飾を覚えていないから、無理だが」

「本当ですか!?」



大将はカウンターから身を乗り出してルトに確認する。

それに笑って答えた。



「ガハハ!構わん!大将にはいつも夜ご飯を世話になってるからな。

 ただ、祠の中についてはわからんから、それは頼んだぞ」

「外側だけでも助かります。ありがとうございます!」



大将はルトに頭を下げる。

ルトはニコニコしていた。

そして大将は頭をあげて時計を見て、そのまま尋ねる。



「因みに、お昼食べました?もしよければ、一緒にどうですか?」

「本当か?なら、祠の代金ってことで頼んだ。ガハハ!!」

「いえ、祠の代金分はまた夜ご飯で出させてください」

「そうか。なら祠を直すのはもっとがんばらんとな!」



ルトは笑顔で笑う。

大将は炊き立てのご飯を用意する。



「すずねちゃん。そろそろお昼にしようか?」

「おひるごはん!おなかすいた~」

「今日はおにぎりにしようか」

「おに……ぎり?」



すずねは首をかしげた。

ただ、すずねのもふもふのしっぽは興味があるのか左右にぶんぶんと振られていた。

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