第9話

なな子は多満子と玲花と共に昼休みから戻り教室に入ろうとした。すると、教室内からはなな子を話題にしたクラスメイト達の会話が聞こえてきた。


「鷹鳥さんって、喧嘩強いらしいよー」


「そうそう、さっきの大友に怒鳴ってたのも凄かったよなー」


「鷹鳥さんが喧嘩強いなんて…何かもったいなーい」


「喧嘩強いのって女らしくないよねー」


「らしくない、らしくない(笑)」


「美人なのになんか残念…(笑)」


なな子「・・・・っ」

玲花「ちょっとッ…」

多満子「…!!」


「…っっ」

玲花はそんなクラスメイト達の会話を聞いてすぐさま教室に乗り込もうとした。


するとすかさず、なな子が玲花を止めた。

「大丈夫。こういうの慣れてるし」


「でも…」

玲花は眉間に皺を寄せた。


すると…


「くだらねぇな」

突然、教室から悠佑の声がした。


なな子達が驚き教室を覗くと、悠佑が先程の会話をしていたクラスメイト達に向かって言っていた。


「強かろうが弱かろうが…それが女なんだったら、どっちも女らしさなんじゃねぇの?」


悠佑は普段の陽気な雰囲気とは異なり、真面目な表情で言っていた。


気迫の伴った悠佑の様子に、先程話していたクラスメイト達は息を呑む。


悠佑「女だっていう人間に、そもそも女らしくねぇ人間なんかいねぇよ。どんな奴だろうとな」


なな子「・・っっ」


珍しくクラスメイトに強い口調で話す悠佑の姿に、なな子はもちろんのこと玲花や多満子も目を見張る。


教室の片隅にいた苺花や優も、驚いたように悠佑を見ていた。


悠佑「女とか男とか、らしくねぇとか…人間そんなつまんねぇ型にハメんな。"らしさ"なんてのはなぁ…何通りもあんだよ」


悠佑は、鋭い眼差しで先程なな子について会話をしていたクラスメイト達を一瞥すると、自身の席へと戻って行った。


悠佑に言われたクラスメイト達は、何も言えずに呆然としながら悠佑を見ていた。


苺花と優も、それぞれ感慨深い様子で悠佑の言葉を聞きながら、悠佑を見つめていた。


玲花「良い事言うじゃん、アイツ」

多満子「感動したっっ」

なな子「・・・・」


なな子は悠佑の姿を見つめながら小さく微笑んだ。



涼太「香月ーっ、おまえと友達になれて良かったわ、俺…(涙)」

悠佑「なんだよ、気持ちわりいなッ」

吾郎「香月くん、良く言った。見直した」

悠佑「おめぇは何様だよッ」


ガラガラ…

そこへ、なな子達が教室に入って来た。


「・・っ!」


教室にいた生徒達は、タイミング良く入って来たなな子に驚き固まる。


なな子は教室に入るなり真っ直ぐ悠佑の元へ歩いて行った。


「…っっ」

悠佑はなな子を見るなり顔を若干赤くさせながら目を逸らす。


なな子「悠佑…」


悠佑「…?」


なな子「大好き」


悠佑「…っっ!!」


なな子が珍しく大きめの声で発した愛の言葉に悠佑は驚き目を見開くと、顔を真っ赤にさせながら固まった。

この時、悠佑にはまたもやなな子の恋雷が落ちていた。


なな子と悠佑はお互い愛おしそうに見つめ合った。


二人の一連の姿を見ていたクラスメイト達は、なな子と悠佑が素敵な恋人同士であるという事を認めざるを得なかった。


そんな二人を羨ましそうに見つめるクラスメイト達であった…。


ーーー


休み時間-


悠佑と涼太、吾郎の三人が廊下を歩いていると前の方から一年上の先輩達の会話が聞こえてきた。


「俺、駅前にある名門の 鷹ノ爪隠塾たかのつめいんじゅくに通おうと思う」


「マジ?私達も通う予定なんだけどー!」


「あの塾ってどんな難関な大学でも絶対に合格できるって有名だもんね!」


「あの塾通えば学年トップも夢じゃないかもなァ」


「そう言えば…学年トップで思い出したんだけどさぁ、この学校の1年で成績トップの鷹鳥なな子って子いるじゃん?」


悠佑と涼太、吾郎の三人は同時に耳をピクリと動かした。


「あぁ、最近実はめっちゃ美人だってのが発覚した子な」


「あの子のお父さんって元暴走族の総長だったらしいよーッ!それも、無敵で知られる有名な暴走族の総長だったって…」


「げっ、マジで??だからあの子、喧嘩も強いって噂なのかッ!こぇぇーっ。人って見かけによらないよなー」


「私の妹も1年にいるんだけどさぁ…鷹鳥って子にはあまり近づかないようにって妹に言っとこうと思って」


「俺も一つ下の学年に弟いるから言っとこー」


悠佑「・・・っっ」

涼太「・・・っ」

悠佑と涼太が何か物申さねばと思っていると、すかさず吾郎が口を開いた。


吾郎「先輩」


すると、なな子の噂話をしていた先輩達は一斉に吾郎を見た。

悠佑と涼太も驚いて吾郎を見る。


吾郎「先輩達、さっき鷹ノ爪隠塾に通うとか言ってましたけど…そこの塾で一番評価と人気の高い講師の名前、知ってますか?」


先輩「え、確か… 弘乃丞先生って呼ばれてる人だろ?」


悠佑「弘乃丞…」


吾郎「そう、鷹鳥弘乃丞さん」


先輩「鷹鳥…??」


吾郎「鷹鳥なな子の父上ですよ」


先輩「・・・え…。えぇぇーっっ!!」


悠佑「…っ!!」

涼太「!!」


吾郎「ちなみに…鷹鳥弘乃丞さんは鷹ノ爪隠塾の塾長ですよ」


先輩「え…」


吾郎「無知って愚かですね」


先輩「・・・っっ」


吾郎「あぁ…鷹鳥弘乃丞さんが元暴走族の総長だったってことは、その塾に通ってる人なら当然のように周知していることなので、さっきみたい騒いでると、かえって先輩達が恥かきますよ」


先輩「・・・っ」


吾郎「あと、鷹鳥弘乃丞さんはかなり人気あるお方なので…あまり偏見染みた事言ってると、ファンから総攻撃食らいますから気をつけた方がいいっすよ…先輩」


先輩「……っっ!!」


鷹鳥親子の噂話に花を咲かせていた先輩達の花を、一気に散らした男、松尾吾郎であった…。


悠佑「すげーっ!!なな子の父ちゃん、まじカッケーじゃーん!!」


涼太「ほんと、人って見かけによらないよなー」


吾郎「だな」


悠佑と涼太、吾郎はそう言うと、不敵な笑みを浮かべ先輩達を一瞥すると、先輩達の間を割って堂々と歩いて行った。


「・・・っっ」

噂話の花が枯れた先輩達は、ばつが悪そう俯いた。



悠佑「っつーか、松尾…なな子の父ちゃんの事よく知ってるなッ」


吾郎「まぁ、ずっと友達だからね」


悠佑「ふーん。ずっと…かァ…」


涼太「・・・?」


---


吾郎と玲花が教室の窓際で仲睦まじく話をしていると、その様子を見たクラスメイト達は口々に囁いた。


「それにしても松尾くんと逸ノ城さんが付き合い出したなんて…意外な組み合わせだよね…」


「逸ノ城も趣味が変わったのか?」


ガタガタガタ…


ビューーーー


すると突然、開いていた窓から一瞬だけ突風が吹き込んで来た。


「・・凄い風だったね、今」

玲花が髪を整えながら言った。


「いってぇーっ…目に塵入った…。ちょっとこれ持ってて…」

吾郎は片手で両目を覆いながら眼鏡を外すと玲花に手渡した。

するとすかさず、持ち合わせていた目薬を自身のポケットから取り出し素早く挿すと、天井を見上げ目をパチパチさせた。


吾郎は顔を戻すと、素顔のまま笑顔で玲花に言った。


「よし、大丈夫だわ。ごめん、眼鏡ありがとう」


・・・っっ!!!

その場にいたクラスメイト全員が、吾郎の素顔がイケメンであったことに驚愕した。


「・・・っっ…うん…」

玲花は顔を赤くしながら、眼鏡をしていない吾郎の素顔に見惚れていた。


吾郎は眼鏡のレンズを拭いている。


その場にいたクラスの女子達も、吾郎の素顔に見惚れていた。


そんな周りの様子に気づいた玲花は、吾郎にしがみつきながら言った。

「…コホンッ!まぁー、人は見かけに寄らないなんてこと、あるあるだからねぇ」


「・・・っっ」

その場にいたクラスメイト達は吾郎と玲花の二人を羨ましそうに見つめた。


「何だ…おまえ、良い顔してんじゃん…って、まさか…おまえまで伊達眼鏡なんじゃねぇだろうなぁ…」

悠佑がたじろぎながら吾郎を凝視する。


「度付き眼鏡だよッ」

純粋に吾郎の視力は悪かった。


「松尾くんの素顔、ななちゃ子ちゃんの次に驚いたッ」

多満子が笑顔で言う。


「たまちゃんも美人だよ」

涼太が多満子を見つめながら言った。


「・・・っっ」

多満子はどっと顔が真っ赤になり恥ずかしそうに俯いた。


「でしょ?原石だったでしょ」

なな子は涼太に微笑んだ。


「めっちゃ原石だった」

涼太が笑った。


「・・・原石?」

多満子はキョトンとしていた。


「ダイヤモンドの原石だよ、多満子ちゃんは」

なな子はそう言うと、多満子の肩をポンッと叩いた。


「え…」

多満子は驚いたようになな子を見た。


「でもよかったぁ…。松尾くんがたまちゃんと何ともなってなくて…」

涼太が苦笑いしながら言った。


「あ、それ俺も同感だわ…」

悠佑が真面目な顔してなな子を見た。


「そ、それ私も同感!!」

慌てて玲花も言った。


「アハハァッ!私達は同士みたいな感じだったもんね」

多満子は笑った。


「そうだね」

吾郎となな子は笑顔で頷いた。


「そもそも、私と松尾くんってなんか性格が似てるから恋愛なんて意識全くなかった」

なな子はキョトンとしながら言う。


「確かに。何か姉弟きょうだい?みたいな感覚かな…。鷹鳥さんって俺の性格そのまんまなんだよね。行動力と成績の差はあと一歩、鷹鳥さんには及ばないけど…」

吾郎は苦笑いしながら言う。


この時の吾郎は、まだ気づいていなかった。

後に社会人になってからの吾郎は論破の達人として、権力ある大人相手との口喧嘩には絶対負けないという才能があることに…。

種類は違えどケンカが強いのもまた、なな子に似ている吾郎なのであった。


「確かにおまえら、何か似てるなって思ったことあったわ…」

悠佑は、なな子と吾郎を交互に見ている。


「そうね…感じが確かにそっくりかも。何かドライな感じが…」

玲花も目を丸くした。


「まぁ、世の中には似たような人が三人いるって言うし…それは性別とか関係ないのかもね」

なな子は吾郎を見ながら言う。


吾郎「じゃあ…あともう一人はどこにいるんだろ?」


なな子「さぁ?」


そんな吾郎となな子の会話に悠佑達は和やかに笑う。


この時のなな子と吾郎は、まだ気づいていなかった。世の中にいるという似た三人の内のもう一人が身近な場所にいるということに…。


なな子「でも、小さい時から知ってるから…似ちゃったのかもね、私たち」


吾郎「あぁ、それはあるね」


悠佑「ん…?小さい時から…?」


玲花「知ってる…?」


涼太「え、どういうこと?」


なな子「あぁ、言ってなかったわね。私と松尾くんは、父親同士が知り合いなのよ。私の父さんが暴走族の総長だった時に、松尾くんのお父さんは副総長だったの」


悠佑「え…」


なな子「ちなみに、母さん同士も親友なのよね」


吾郎「ほんと、夫婦揃って仲良いんだよなァ」


そう、なな子の父親である鷹鳥 弘乃丞と吾郎の父親である 松尾まつお 大五郎だいごろうは当時、百戦百勝の強さで無敵と恐れられていた暴走族の総長と副総長の仲であった。さらには、吾郎の母である 松尾まつお 冨士子ふじこは高校時代生徒会長を務め、当時同じ高校に通っていたなな子の母である椿の大親友なのである。

ちなみに、吾郎の父、大吾郎と母である冨士子もまた、大恋愛の末結ばれた夫婦であった。


「えぇぇぇーっっ!!?」

悠佑と玲花、涼太は驚きの悲鳴を上げた。


多満子はニコニコとしている。


「たまちゃんは…知ってたの?」

涼太は目を丸くさせながら多満子を見る。


「知ってたよ!なな子ちゃんと松尾くんは感じがよく似てて、二人に話してると同じような反応が返ってくるから前に私、二人に言ったことあるんだァ。"なな子ちゃんと松尾くんってもしかして実は双子?それか前世で双子だったんじゃない?"って…(笑)その時に聞いたんだァ」

多満子は満面の笑顔で話す。


「そんな会話あったね」

吾郎となな子が笑った。


「マジかよ…」

悠佑は呆然としながら呟いた。


悠佑と玲花、涼太は目を丸くしてなな子と吾郎を見た。

まさか…なな子の父親だけでなく、吾郎の父親までもが無敵と呼ばれていた暴走族の副総長だと言う事実に驚き呆然としていた。


吾郎「ちなみに、鷹鳥さんの父上がやってる塾の名前って、族の名前から取ったらしいね」


なな子「そうみたいね…(苦笑)」


悠佑「・・・っっ」

涼太「・・・っ」

玲花「族…」

多満子「フフ…(笑)」


悠佑「・・っていうか…だからおまえも俺の事、あんまり毛嫌いして来なかったんか…」


吾郎「ヤンキーなんか何とも思わないよ。それ以上のものを小さい時から見てるし」


悠佑「・・・っっ」


ちなみに…以前四字熟語しりとりで、吾郎が即答する程に四字熟語が得意だったのは、吾郎の父親、大五郎が暴走族の副総長を務めていた時に任されていた四字熟語のスローガン作りによって、松尾家にはたくさんの四字熟語が溢れており、吾郎はそれらの四字熟語と共に育った為である。結局、大五郎が暴走族時代に考え抜いた四字熟語は…鷹鳥弘乃丞の鷹と、松尾大五郎の松を取って編み出した「鷹松無双たかまつむそう(造語)」であった…。


玲花「でも…そんなに小さい時からなな子と知り合いだったなんて…なんか妬けちゃう」

玲花がなな子と吾郎をジロリと見た。


「マジでそれッ!すげぇー嫉妬するぞッ、松尾ッ!めちゃめちゃ羨ましいわーッ!」

すかさず悠佑も同意し吾郎をジロリと見た。


悠佑「・・っつーか、じゃあ…松尾はずっとなな子の素顔知ってたってことかよッ!」


吾郎「もちろん」


悠佑「言えよーッ!俺がなな子の事ずっと好きだったの気づいてたんならもっと早く教えてくれよォーッ!」


吾郎「え。どのタイミングで言える時があった?」


悠佑「・・・っ」


なな子と吾郎はお互い顔を見合わせヤレヤレと呆れながら笑った。


なな子「でも松尾くん、小学校入学前から中学卒業まで外国行ってたから毎年、年に2回ぐらいしか会ってなかったよね」


吾郎「まぁね」


「え…。えぇーっ!!」

玲花はさらに初めて知る事実にまたもや驚き慄く。

涼太と悠佑は目を丸くしている。


「俺…こう見えて五カ国語話せるから」

吾郎は涼しげな様子で言う。


「えぇぇぇーっっ!!」

なな子と多満子以外の皆は絶叫した。


「…っっ、ゴクリ…」

この時…玲花は、とんでもない大物を捕まえてしまったのでは…と、さらに吾郎にときめいていた。


涼太「松尾くん…だから英語の成績だけはいつも、ななちゃんに勝ってたのか…」


吾郎「唯一、鷹鳥さんに勝てる教科だからね」


なな子「・・・っっ」


「いやー、人間ってほんと…話してみねぇと分かんねぇーもんだなッ!」

悠佑は目を丸くしながら吾郎を見た。


悠佑はさらに続けた。


「でもよぉ…さっきの穂積の話じゃねぇけど、もし前世があるなら俺はきっと前世でもなな子と恋人だったなッ」

悠佑はそう言うとなな子の肩に手を回した。


「えぇっ?そう?」

なな子はいたずらに笑いながら悠佑を見つめた。


「ぜってぇにそう!間違いねぇッ!違うはずがねぇッ!!」

悠佑が自信満々に言い、周りの笑いを誘った。


「じゃあ、それなら私もだわッ!前世でも吾郎と恋人同士だったはずッ!絶対っ!」

玲花はそう言うと吾郎の腕にしがみついた。


「・・・っっ」

吾郎は顔を赤くさせた。


「類は友を呼ぶ…か…。良い意味で」

涼太がニカッと笑いながら言った。


「確かに…」


なな子達皆ポツリと呟くと、お互い顔を見合わせ言った。



しばらくすると、なな子が静かに言った。


「類は友を"必然的に" 呼ぶのかもね」


すると周りにいた悠佑達は驚いたようになな子を見た。


「価値観や性格が似てたり、お互いの趣味や考え方を理解し合える私達が今こうして一緒に集まってるのは、きっと特別な何かで結ばれた縁かもしれないわね。知らず知らずのうちに引き寄せ合ってる。それが前世からなのかは分からないけど…。何てったって私達…ハイスペックな世界の者でしょ?」

なな子はそう言うとニッと笑った。


するとその場にいた仲間は皆、笑顔で頷き笑った。

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