第35話 憤怒されど勝る悲しみを超えた先
PM2:42 雨の中での崩壊した池袋駅付近上空
耳障りな年寄りの声を聞いた貴音は怒りに叫ぶ。
「ィ薬師寺〜ィイ゛イ゛ッッ!!!」
人生で確実に1番人の名前を憎しんで叫んだ貴音は凄まじい形相をしていた。だがそれに怒り返す余裕のある老害、何故ならリモート操作でありAIのサポートや準備があるからだ。
「敬称を忘れるなっ。私を敬えよォ、このマヌケがァ!」
そう言うと両腕から緑のビームが連射で放たれた、雨粒が反射し煌めく攻撃を貴音は理性的にそして合理的にビームの合間を縫って瞬間移動の様な高速移動で距離を詰めると背後に周り抱きしめる様にしがみつく。
「なっ!なんだぁ!??まさか直進するだとっ!?くそっ、振り解けん゛!キサマッ!何がしたいっ!」
「何がしたいだァ?逆にお前にッ!聞きたいことが山ほどあるぞッ!慈日会の上層部をどうした!俺と俺の周囲を何故ここまで恨み害するッ。そして彼女を......!
尋常では無い力でしがみつきアーマーのナノマシンを移して侵蝕を進める最中で死神はGSから刃を複数出し回転させた状態で、何十と言う数を貴音の背中目掛けて降り注ぐ、だが刃のない部分を殴り弾き死神に返しながら回避した貴音。そのタイミングでアーマーが解けてしまいチョーカーに戻ってしまうも、己の跳ね返った複数の攻撃で死神もダメージを受けて吹っ飛とびビルを貫通して行った。
「ッ!?......どうしたっ!??また私がやらかしてしまったか?」
「侵蝕度数85%達成。しかし、攻撃を受けた影響によりナノマシンが大凡10%消失した為にナノマシン残量約5%、アーマースーツの保持不可能の為チョーカーに戻ります。最後にチョーカーを相手にぶつけてください、そうすれば侵蝕が約90%達成し即時セーフティーモードに強制移行できます」
(彼女に敢えて伝えていないが、
「お前はどうなる?」
「消えます。最終的にはフェムトマシンの力には敵いません。その為に生まれました」
「仮にチョーカーを外した場合はセーフティーモードに出来ないのか?」
「いえ、ハッキングが数分遅れてしまうだけです。ですが、あなたを対策し尽くされた兵器相手に数分長引くの致命的です、早く!私を拳に巻いて殴り飛ばしてください!!」
バースデーは今までにない程感情的になった、貴音は無言でチョーカーを外す。
「やり遂げてください」
感情の籠った音声で最後にバースデーは告げたが貴音は違った。
「勝利の祝杯にお前がいなければ寂しい、俺はあんたをただのキカイと思って使い捨てにするつもりは無いぜ。勝ち筋あんなら粘ってやらァ!!」
「まっ!待ってダメでっ......」
そう言うとチョーカーの装飾部分を押してシャットダウンししまうといつもの改造変身装置を取り出す。
「やっぱり......こうなるか......。変身ッ!」
ベルトを装着しボタンを押すと黒い金属光沢のあるスーツを身に纏う。この判断は確実に間違いだが、貴音はもう犠牲を減らしたかった。使い捨てのキカイ相手でも。
こうしている内に死神がこちらに向かって高速で飛び衝突しようとする。
「例え姿を変えようがキサマは私には勝てないッ!!」
(なんだ?あれは............確か警察に勤務していた時のかっ。装備を全て回収しろと命令したのに見過ごしたかマヌケっ!これでは奴が更に何か隠し持っていてもおかしくないぞ!)
綿密に作られた計画に慢心していた薬師寺は、想定外な出来事に勘繰り焦る。だが貴音はこれ以上隠し玉は無い為無意味に焦ることに。
「どうした、焦りが見えるぞ?私が怖いか?だがッ!止まらない止めてやるっ」
そう言い突っ込んでくる死神の両手を手と手で掴み、空中で動きながらも歯を食い縛り押し返そうとする貴音。
「お前がここで私を止めようと無意味だァ!Eシリーズの兵士に動物兵器とお前を殺す為に大量に多種多様に研究し用意したのだか......ぐわっ!!?」
そうウダウダ話している死神に頭突きをし、離れた手で奴の首を掴みもう片方の手で思い切り殴り飛ばす。
「グチグチうるせえんだよ。軍隊が押し寄せる前にテメェをぶっ倒してムショにぶち込むだけよ、それに私の為に幾つの犠牲を払った」
中身が自身ではない薬師寺は怯まず直様言い返す。
「そんな路傍の石共をいちいち覚えていられるか、お前もな。お前の抹殺は私の計画の序章に過ぎない......だから消えてなくれェ!避ければ辺り一帯が吹き飛ぶぞッ。さァ!どうするぅ!?」
(九条未来の顔を見させて繊維喪失させてやりたかったが何されるかわからぬ今は最大火力で消し飛ばす、確実にな。世界を掌握するのだ私は、恥かかせたガキ1人殺さずして皇帝にはなれん!)
世界で唯一
GSが空中で円状になり回転し何十の丸にもなり緑色に輝き始めた。その後ろで死神は腕をもう一対生やして4本の腕と足裏を突き出してエネルギー放射に特化した形に少し変わる。そうして何十丸になった円錐形に配置された先端にあるGSにエネルギーを撃ち放つと増幅してビームの大きさが増す。その間僅か数秒、貴音は街の為に回避を諦めたが戦いには諦めなかった。
「じゃあその石に躓くな......よッ!!」
そう言うと両手をキョンシーの様に突き出して掌を相手に向ける。貴音の身体は黒い稲妻が走り腕にはエネルギーが集中する。だが相手の体やGSに当てればエネルギーは吸収されてしまう、だからエネルギー同士をぶつけて相殺を図る。
「池袋諸共消えて無くなってしまえーッ!!!」
「消え失せるのはお前の邪悪なる野望だッ。はあああぁァ!!!!!」
技名に拘る貴音にも余裕は無く渾身の漆黒なエネルギービームを放つ。そうして相手が放つ緑のビームとぶつかり衝撃波が走り周囲のビルの窓ガラスは砕け、崩れていなかったモノ達も崩壊が始まる。
闇と緑の極太ビームは拮抗し押し合いが続くが徐々に貴音は押されていく。
「まだだっ!うおらあああああァァァ!!!!!!」
(マズい......気分が悪い、この身体になってからこんな不調は初めてだ。限界が近いのか............みんな......)
「ダメ押しにGSを追加だァ!!死ぃねぇえ!!」
そう言うと死神の背中から追加で何個かGSが放たれ貴音を囲みに来る。そう最初の不意打ちのバリアを動けない状態の貴音にするのだ。
「チッ、マズい......」
(この数この動きはバリアだ、最初のやつをやられてしまうッ。口からビームを放てれるが無意味ッ......吸収されてしまうっ)
かなり弱気に舌打ちして弱音を吐く貴音。本國は移動中、シュヴァルとフギンも撤退。孤立無援絶体絶命と思われたが貴音のスーツの下から声が聞こえた。
「だから無理だと言ったのです。ですが......私が勝機を、千載一遇の好機を作ります。自我のある私を単なる機械として扱わなかった事に感謝します」
そう言うのはバースデーだった。AIは自力で電源を入れて変形し貴音のベルトに引っ付くとブラックホールの模様の真ん中に真っ白に光る丸い石が出来た。
「なっ!?......そうか!開発元が同じ国製のナノマシンだからか!」
そう言うとオートで動きスーツのベルトからGSを模倣した様な小さいモノが何個か射出され、接近してバリアを張ろうとしていたGS達に引っ付き電源がOFFに強制的にされ落ちていく、それを見た薬師寺は困惑し怒る。
「なっ、何をした!だがもうお前は保たんぞ!!」
「クソっ」
「いいえ、もうハッキングが終了です」
と貴音が押し負ける寸前でバースデーが言う。その数秒後に死神から機械音声が鳴る。
「セーフティプロトコル作動。GSを回収し複数の攻撃、防御システムオフ。E-4回収待機モードに入ります」
それをリモートでエラー画面と共に聞かされた薬師寺は台パンをして怒鳴り散らす。
「ふ、ふざけるなっ!クソッタレ、バグか?............いや、あいつの事だGSを無力化した様にハッキングをしたか?しかし、どうやった............考えても仕方ない、こんな時の為の最優先で行われる強制殺戮モードを発動し現在のAIからチェンジして分離だ」
そうしている間に貴音は渾身のビームでE-4を押し上げた。
「このまま再起不能になれぇえ!!!」
E-4は漆黒の光に包まれ極太ビームはそのまま空にぶち当たり雨雲を吹き飛ばし、太陽の光が差し込む。
「よっしゃ!バースデー!やったぞ!!」
天に片腕の拳を挙げ喜ぶ貴音。
「まだです、確認と捕縛を。そして私は活動限界が来ました。コアと記憶媒体だけの指輪になりますベルトに手を添えてください。そして......何があっても強い意志を持ってください......」
「あ、ああ?頑張るよ」
そう言われて困惑しつつ左手をベルトに押し当てると薬指に銀色の指輪が装着された。
「この指輪は本國さんに渡せばバースデーは
そう言い落ちた付近に飛び寄る。
「居たぞ!......っ!............え?あ、ああ......まさか、いやっそんな......」
倒れていたE-4はマスクの右上が割れ、虚な目と銀髪が露出していた。目の色や髪の色が変わろうと己の相棒を見間違う筈が無いのだ。
そうして貴音はショックのあまりふらふらとした足取りで近づき抱き寄せた。
「う、うぅ......なんとなくさ、流石に中身が貴女だって思ったけどマジでなるなよッ、私はいつも悪い運命を引き寄せちまう............」
いつもワンワン泣いている貴音はいつもと違い、歯をギリギリさせ強いショックのあまり涙すら出ずに顔が露出している部分に手を添えた。
「冷たい......畜生、チッ畜生ッ。このアーマーを剥がして早く病っグフっ!??がはぁッ......おぶっ、は、腹が............」
忘るる事なかれ抱き寄せたのは死神、これは貴音は自ら死に近づいた結果だった。エネルギーを纏った刃により腹部を貫かれて更に捻って引き抜かれた。それと同時にまた不快な声が流れる。
「じゃじゃ〜ん!正体はお前の大切な女だぁ!そして、お前が何をしようと先手を打つ、亀の甲より年の功。若気の至りでヒーローごっこをするからだ」
そう言い放ちながら貴音を蹴り飛ばして後ろの瓦礫に減り込む。苦悶の表情で抜けようとするが力が入らない、空はまた暗雲立ち込め雨が再度降り始める中で死神はゆっくりと近づき貴音にとって衝撃の真実を伝えた。
「ぐぁ......染みる............コンチクショウっ、力を入れると腹がイテェし熱いよ......」
「フハハハハッ!諦めろ。そしてだ、冥土の土産だ良い事を教えてやろう」
そう言い4本腕になり全ての手が刃に変形しつつ近づき続ける。
「九条未来はコアを胸と首の脊椎に埋め込まれE-4の生体パーツであり使い捨ての存在、貴様がここで何をしようが、結局は女の身体は結晶化して死に至る。そしてこれまで繰り返された虐殺は身体と意識を分離された九条未来は永遠に見続けていたのだよ。例えるなら狂った自分が畜生共を殺し続けるのを決して砕けないガラスのケースの中に入れられ、干渉出来ず無力感を覚えながら絶望している今もだ!そしてッ!!最期の締めくくりが相棒殺しだァ!!誰が見てもお前と分からないほどにズタズタに殺してやるッ!!」
そう言いながら貴音の恐怖を煽るようにとてもゆっくりと、だがしかし着実に近づく死。もう貴音はほぼ諦めていた、目に光は無く過去を思い出していた。
(来る......もう無理だ、それに普通の人なら即死の傷だ。......ああ、雨粒が当たる感覚すら薄れる......。なあ俺達いいコンビだったよな。思い返しよくよく考えてみれば悪くなかった、未来も俺も死ぬ......か。............いや!まだだ!
そう言いながら両手をバンッと瓦礫に打ちつけハマった身体が抜け出すとエネルギーを片手の拳にチャージして手を上げる。稲妻は走らず僅かなエネルギーをも漏らさず着実に拳に込めていると薬師寺が言う。
「なんだ、降伏は両手を上げるんだぞ?もっとも......絶対に許さんがな、私の幸福の為だ」
「ははっ、テメェは他者の幸福を踏み躙り続けたんだ、私を殺しても報いは必ず受けるぜ、絶ッ対にな」
(九条さんのマスクは修復している、まだっまだこんなに余力があるのか......)
不敵に笑い強気だが口だけで冷や汗、脂汗が出ている。だが相手には幸い雨でわからない。そうしてとうとう4メートルくらいに近づき、フラフラの貴音にトドメを刺そうとするがアクシデントが発生する。
「これにてチンケなヒーロー劇は終幕だッ......っ!?うぐぉお!?雷かっ!一瞬、光が黒く見えたが......奴が手を上げた理由はそれなのかっ............なっ!姿がまた少し違うっ、こんのイレギュラーがッ!!」
轟く雷鳴は手を上げていた貴音に打ち当たり、E-4は距離を取り回避し貴音の方を見て驚愕する。
「なっなに?力が漲るっ!そうか!雷が私のエネルギーに変換されたのか!!......ん?でもそんな都合良く......いや奇跡だな!......じゃあ
髪が光輝き青い粒子の様なモノが出ており、雨も相まってかなり煌めいている。腹部の傷は損傷した内臓が治り抉れた肉も治り始めている。
「何度見た目を変えるんだクソカスがっ。もう生体パーツが死ぬまで目に入った物を破滅!破壊!殺戮!し続けるモードに変えてやる、お前の愛しの愛しの九条さんを殺さなければ死んでも守りたい愚民共が死ぬぞ!さあどうするゥ!」
それを言われた貴音はプッツンし激怒する。
「薬師寺ッ!!お前は何があっても赦さない、例え天がッ!神がッ!何者が赦そうと俺はお前を決して赦さなァいッ!!」
あまねく殺意が遠方にいる薬師寺にまで届き、鳥肌が立ち冷や汗をかき腰が抜けそうになる。
「くっ............だが、もう作動はした。精々足掻けこのマヌケ、私はこれから会見の準備だ。イキリたがりのマヌケのいないちゃんとしたな」
(クっクソ、たかが何十歳も下のガキ相手にビビり上がるな私。だがしかし困ったぞ、後でE-4の動画を見て倒された時倒した時、相打ちなど複数パターンの原稿の準備を始めないとだ。他の部下には頼れないとなると本國に電話をして何とかするか......)
そう言うと音声が消えて薬師寺本人はコントロールスーツを脱ぎ部屋から出ずに座り会見の原稿の作業を始めた。
一方で貴音は九条に強く話しかけた。
「絶対に貴女を救う、この未知なる漲る力でッ。フッ!ハァッ!!」
腕をクロスさせ力を上げると全身に漆黒の稲妻が走り、身体が動くたびに青い粒子の残像の様なモノが見える。
虚しい最終決戦が始まる。
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