1ー10 無罪放免
「おい、お前ら遅いぞ。これでやっと全組戻ってきたな、・・・どうかしたか?」
最後に戻ってきたゾム達は先程の出来事をセントに報告した。
「マスター、報告があります。僕達がモンスターと戦闘中にあそこにいるマンリーが割って入りモンスターを横取りしただけでなく、ゾムごと切って捨てようとしました」
「それは本当なのか、クオウ?」
「はい、これは冒険者規定に反する事項です。厳重な処罰を願います」
「私もその場にいたのでクオウの言う事は間違いありません」
ピシークもクオウの進言に同意する。
「マンリーよ、クオウ達の言う事は本当なのか?」
「あぁ、斬りつけた事は本当だ。たが、俺はわざとやった訳じゃない。コイツらが戦っていたモンスターはゴブリンだ。皆も見ればわかるがゾムの見た目はゴブリンそのものだろう。俺はゴブリン二匹を一片に片付けようとした、そしたらゴブリンの一匹がゾムだったってだけだ。それにゾムは死んだ訳でもない。それに、俺様は悪かったと思っているからドロップ品もくれてやった。故意ではない問題あるのか?」
マンリーは悪びれる様もなく言い放った。
「確かにあの見た目じゃ間違われても仕方がないんじゃないか?」
「俺も急に出くわしたら、モンスターと間違えて手を出してしまうかもしれん」
二人組の男もマンリーの意見に同調する。
(ふざけるな、ふざけるな・・・死んでないだと?俺は燃やされて死ぬところだったんだ)
「間違いだと?お前は俺を魔剣で斬ったんだ、その後で炎に包まれても助けようともしなかっただろ?」
今まで大人しく聞いていたゾムだが体を震わせて反言した。
「そりゃ、俺の武器は魔剣だ斬れば炎が上がるのは道理だ。だが、お前はどういう訳か服すら燃えてねぇじゃねーか。火傷もしねそんな奴を助ける必要が何処にあるんだ?」
「ふっ、ふざけるなー」
ゾムが叫びながらマンリーに殴りかかったが、セントが二人の間に飛び入りゾムの拳を抑えた。
「待たんかゾム、お前が怒っているのはわかる・・・が、お前には燃やされた形跡が見て取れん、これがどう言うことかわかるか?証拠がないと言うことだ」
この場の喧騒とゾムの発言の食い違いに、セントは一度この場を収めてギルドに持ち帰ってから話し合う事にした。
ギルドに戻り各パーティーは各々が稼いだドロップ品と宝箱の中身をギルドに提出した。
それぞれが合格基準を満たしていたため、フィアレスの本登録が受けれる事となったが、ゾムとマンリーのパーティーは会議室に呼ばれた。
「さて、ここに呼び出したのは先程の私闘が冒険者規定に反しているかの審議をするために双方に来てもらった。もう一度、ことの経緯を話してくれ」
ゾムはマンリーが斬りかかってきた事、その後の言い争いなどをもう一度セント達に説明した。
それを受けて、マンリーが再度、見間違が起こした事故だったと主張した。
「マスター困りましたね。双方が話した状況は一致していますが、見解がそれぞれ真逆で捉えていますね」
「そうじゃな、これだと双方痛み分けと判断せざるを得ない」
セントとルイスが判断に迷っていると
「いくら見た目がモンスターで間違えたと言っているが、敵か味方か確認せずに攻撃するのは明らかな違反だと思います。しかも、その後の態度などを見るとゾムがゴブリンと一緒に燃えてるのを助けないばかりか笑い飛ばしていたんですよ」
「待ってよ、それなら集合場所でゾムがマンリーに飛びかかったのは違反にならないの?」
シルバニアはやり返したゾムも違反だと訴える。
「アハハハハハハハ、もういいぞシルこんな茶番に付き合ってもしょうがない、時にクオウよ笑って何が悪いんだ?弱ぇー雑魚がモンスターと一緒に燃えたら笑うだろ。俺様がフィアレスになるのは遊びじゃねぇんだ。最強の強さと権力を持ったパーティーを作ってこの国に、このギルドにダンジョンの恵みを還元してやるって言ってんだ。それに今、高ランクのフィアレス共だって駆け出しの時はギラギラして、周りを蹴落としてでも這い上がったから今の価値があるんだろ?マスターだってそうだったはずだ、俺様は清廉潔白で弱いままなんて我慢ならねぇ、強くなるためには何だってするぜ。このギルドが求めるフィアレスはそう言う奴じゃないのか?」
マンリーは目を血走らせ沸騰せんばかりの熱量で吠えた。
「力こそが正義、確かにそれも一理ある。マンリー、お主の信念は"力"と言う事だな」
「そうだ、力が無ければ何も成せない。自らの生き様をを守りたいなら力を示す事だ。少なくとも俺様はこれから先もそうして生きていく」
「ではゾムよ、お前の掲げる信念は何だ?」
「信念ですか、俺は皆んなで楽しく冒険がしたい。こんな楽しい世界だ、色々な事を見たり経験したりして有意義な人生を歩みたい」
「そうか、お前の信念は"和"と言う事だな」
「はい」
セントは正反対な二人を見比べて判定を下した。
「それならば、マンリーは自らの信念を貫いたとして無罪とする。そして、マンリーに殴りかかったゾムは未遂だが自らの信念を貫けなかったと言う事で本日から三日間フィアレス資格を停止とする」
「えっ、それは」
セントの判定にマンリーとゾム以外のメンツは驚き不服な声を上げる者もいたが
「当たり前だな」
「わかりました、三日間謹慎します」
「これにて審議はお開きだ、ゾムよ自らの信念を全うするのだぞ。後、マンリー達はもう少し残ってくれないか」
「では、俺達はこれで」
ゾムは頭を下げてから会議室を出て一階に向かう。
受付のサシャの所でフィアレスの本登録を済ませて
「魔石のFランクが合計で20個、一つ1,000𝓓なので合計20,000𝓓となり金貨2枚になります。はい、これで手続きは以上になりますね。ゾムさん今日は散々な目に遭いましたね。大変だとは思いますが三日間はダンジョンに潜れませんから、無茶はしないで下さいね」
「サシャさんありがとう」
「私は納得できないわ。何でアイツが無罪でゾムはペナルティなの?」
「今日はこうして報酬も入ったし肉もあるから打ち上げを兼ねて夕食なんてどう?」
「それなら、味わい亭にしませんか?」
「あら偶然、味わい亭なら私が泊まっている宿屋よ。あそこの主人の料理は最高だわ、ボアのお肉で何か作ってもらいましょう?」
クオウとピシークは夕食の話で盛り上がっている。
「悪いが二人とも先に宿屋に戻っててくれ、ちょっと寄りたいところがあるんだ」
「わかりました、先に行って席を押さえておきます」
「遅くならないでね、もうお腹がベコベコで死にそうなんだから」
二人と別れたゾムは商業区に向かった。
「すみません、リャリャンさん。初めての冒険でもう短剣を折ってしまいました」
ゾムが頭を下げているのは[ウィン・ザ・ブレード]の店主のリャリャンシーだ。
売ってもらった武器を壊した事を謝りにきていた。
「何じゃい、そんな事か。血相変えて飛び込んできたから、わたしゃ何事かと思うたじゃ」
「そんな事じゃないです。せっかく選んでもらったのにもうダメに」
「わかった、わかった。普通こんな名もなき剣なぞ折れて使えなくなったらダンジョンに捨ててくるもんじゃ。それをご丁寧に持ち帰ってくれて、この剣も喜んでおるのじゃ」
リャリャンシーは折れた短剣を受け取り丁寧に黒い布に包み机の脇にしまった。
「ところで、ダンジョンの一階でコレを折るやつなんぞ居ったかの?」
「モンスターに折られたわけではありません。同じ受講者に折られました」
「どう言うことじゃ?」
ゾムは実技講習で起こった事をリャリャンシーに話した。
「そうか、そうか、魔剣か。魔剣と撃ち合って負けたのか、よし、よし、お前も頑張ったんじゃな。それにしても、あんたはよく怪我をせんかったの」
「あぁそうだった。そっちもお礼を言おうと思ってたんだ。シャシャンさんから頂いたこの手甲のおかげで防ぐことが出来たんです」
「あんたが装備して正解だったみたいじゃな、わたしゃの直感もまだまだ現役じゃな」
「はい。それでまた武器を選んで欲しくて・・・」
「二日後じゃ、どうせ武器を調達するまでダンジョンには入らんじゃろ。二日後の昼以降にまた来るのじゃ、それまでにあんた用の武器を用意しておく。それまで待っておるのじゃ」
「わかりました、リャリャンさんよろしくお願いします」
一方、会議室に残ったマンリー達は
「ルイス、下でマンリー達の事務手続きをしておいてくれ」
「わかりました、下で準備しておくので話が終わったら寄ってください」
ルイスは一階に降りて行った。
「マンリーよお前の進みたい道は理解した。だがこのままではお前達の道のりは険しいぞ。周りのお前達もよく聞いておくのだ、このまま進めばお前達を待ち受けているのは修羅か死神かの二択しかないぞ」
ゴクリ
シルバニアとマーキュリーはセントの言葉に息を呑んだ。
「上等だよ、俺様は修羅も死神もぶっ殺して進んでいってやる」
「ならばマンリーよ、お前達に合わせたい人がいるをだが・・・」
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