学校一可愛いと噂の美少女に相撲を挑まれる件
学校一可愛いと噂の美少女真崎撫子。
濡れ羽色の髪、整った顔、清楚な雰囲気を醸しながら、制服の下にはグラビアアイドル並みの肉感的な肢体を隠し持つ。
容姿端麗、品行方正、学業優秀、スポーツ万能。男子は到底高根の花と、遠巻きに眺めることしかできず、女子は羨望のため息を漏らす。非の打ち所が無い完全無欠の大和撫子。それが学校での彼女である。
だが、それはでっかい猫を被った仮の姿。プライベートでは無邪気で子供っぽい本性が姿を現す。
おやつに縁側で江川の水ようかんを三人仲良く食べた後のことだった。
「彩昂君! お相撲しようよ!」
「いやです」
「えー!?」
えー!? じゃねーよ! 相撲ってのは相手と組み合うんだよ? わかってる?
「みーちゃんとはお相撲したんだよね? 以前、帰ってきた彩昂君と相撲をとるのが恒例だって聞いたよ?」
「そういえばそうだった。やるか? あやた山」
立ち上がったみらいが、足を開きながら屈伸運動を始める。
ちょっと待てみらい海。
「やめとこう。もう子供じゃないしさ」
「相撲を挑まれて逃げるなんて男らしくないぞ」
男の子だから逃げるんですー!
確かに昔はよく相撲をとった。でもそれはお互い子供で、身体を密着させることに特に抵抗がなかったからだ。
しかし、成長した今のみらいは全身凶器である。
背は高くもなく、低くもなく。腰は括れ、それでいて胸や尻にはしっかり肉がついて、抱き心地が良さそうな身体をしている。
性を意識するようになった今、みらいと組み合うのは精神衛生上大変よろしくない。
撫子もだ。
「ふたり共いい加減自分の魅力を理解してくれ。その……あんまり触れ合うとね……」
「意識しちゃうってこと?」
僕はこくんと頷いた。
「昔は平気だったのに、初心な坊やに退化したのか?」
「分別ある紳士に進化したんだよ! 一応、僕にはクーもいるしさ。他の女の子との接触は控えたいんだ」
ふたり共今日はお泊まりなのだ。あまり僕の益荒男を刺激しないで欲しい。
「ふーん? ずっと負けてたのにいいの? 今なら勝てるかもしれないよ?」
「いいよ。僕の不戦敗で」
みらいとはもう結構体格差がついているから、負けることはないと思う。でも、ここで勝っても人生で大敗北を喫するように思えてならない。
「ふーん」
挑発するみらいに両手を上げて降参を示す。みらいはつまらなそうな態度を見せたが、諦めたようだ。
だが、ほっとしたのもつかの間。
「私には不戦敗禁止だからね!」
撫子はまだ諦めていなかった。
「昔、私と一度だけ勝負したの覚えてる?」
「一瞬で突き倒されたのを覚えてる」
好きな女の子の前で情けなく負けて、一時期トラウマになった。
「だって、組み合ったら女の子だってバレちゃうとおもったから」
「あの頃のなこは真っ平だったから気付かれなかったと思うぞ?」
「なにか言った?」
「別にー」
ぺろっと舌を出すみらい。
小学校4年生の時だから、そりゃ胸なんて無い。あの時僕は、マサキが実は女の子だなんて疑いもしなかった。
「リベンジしたいと思わない?」
「思いません」
「えー! 彩昂君とお相撲したいよー!」
あの時のマサキの方がよっぽど大人だったぞ!?
なんで幼児退行してるのこの子?
「ねえねえ、お相撲しようよ彩昂君。私これでも結構強いから、いい勝負になると思うよ?」
確かに撫子の形良く伸びた足には、しなやかな筋肉がついてるのが見て取れる。可憐なお嬢様と侮ると痛い目を見るだろう。
「撫子は何かスポーツしていたの?」
「剣道を少しだけ」
黒髪の剣道少女。なんていうか、似合いすぎる。どこまで大和撫子の権化を突き進んでるんだこの子は?
「何が少しだ。なこは剣道、柔道、空手の有段者だぞ」
マジかー!?
100メートルを13秒で走り、しかも武道の達人。いい勝負どころか普通に負けそうである。
「そりゃ凄い……部活でやってたの?」
「ううん。親戚が道場やってて腕前は嗜み程度だよ? 大会とか出たことないし」
「去年、出稽古に来たうちの中学の剣道部主将を瞬殺して泣かしてたよな?」
「あー、そんなこともあったねー」
「県大会優勝者だったんだぞ。北信越大会直前に心折りやがって、あの後フォローでこっちがどれだけ苦労したと思ってる?」
嗜みってなんだっけ?
「やけに詳しいな」
「みーちゃんも道場の門下生だよ。道場では剣道、柔道、空手を教えてて、みーちゃんは柔道やってたの」
「うっす」
柔道部員っぽい挨拶をするみらい。
そういえば、三姫市にそんな道場があった。昔、みらいに泣かされてばっかりだった僕を心配した祖母に勧められたけど、断固拒否したやつだ。
「みらいが柔道やってたなんて初耳なんだけど?」
「初めたの小5だからね。今は初段だよ」
黒帯だと!?
危ねぇ……もしも勝負受けていたら今頃投げられていたかもしれん。
「撫子も?」
「剣道は二段だけど柔道と空手は初段だよ」
「同じ初段でも、なこは小さい頃からやってるから、あたしより断然強いぞ」
「へぇ……」
「ねえ、やろうよお相撲! 本気出してくれていいからさ」
素足で庭に出て、腰を割った格好で挑戦的な目を向けてくる撫子。
そんな魅惑的な身体で、そんな目をされたら……
この少女を負かしたい──
組み伏せたい──
邪な思いが、鎌首を上げて来る。
駄目だ。絶対にたがが外れる。
「ごめんなさい。許してください」
割と本気で頭を下げた。
「むー。結構頑固だね」
「君は結構我儘だ」
強い言い方になってしまった。だけど気にしていないのか、撫子は頬を膨らませて何かを考えている。
「じゃあ、腕相撲」
「なんでそんなに力比べがしたいわけ?」
「だって、彩昂君と全力で勝負したいんだもん。だから腕相撲。お相撲は今度でいい」
ぷーっとむくれる撫子。相撲もまだ諦めていないらしい。
だからって、女の子相手に腕相撲っていうのも……
「諦めろあやた。この辺で手を打っとかないと、今度は何挑まれるかわからないぞ?」
「……それもそうか」
結局、僕は彼女の勝負を受ける事にした。
テーブルを挟んで向かい合う。最初の相手はみらいだ。
手のひらを合わせて握った手は、壊してしまわないか不安になるくらい小さくて柔らかい。
「れでぃ、ごー!」
撫子の可愛らしい声で力を籠める。みらいは思った以上に強かった。握力も強くて、痛いくらいの力で僕の手を握る。でも最初から最後まで優勢なのは僕だった。少しずつみらいの腕が傾いて、やがてテーブルに甲がつく。
僕の勝ちーとガッツポーズしかけた手がとまる。真っ赤になってむくれるみらいの顔があまりにも面白……可愛かったからだ。
「くそー! 負けたー! あやたのくせに、あやたのくせに、あやたのくせにー!」
「3回も言った」
「みーちゃんには大事なことなんだよ」
「あやたのくせに」を3回言ったみらい。昔の弟分に負けたのがそれだけ悔しいのだろう。とはいえ、女の子としては十分強い。たぶんクーと良い勝負だ。
スマホをいじり始めるみらい。大手の通販サイトを開いてダンベルをポチっている。
そんなに悔しかったのか……
きっとみらいの中では僕はいつまでも弟分なんだろう。
「次は私とだね」
唐突にパーカーを脱いでキャミソール姿になる撫子。
肩、鎖骨、くっきり浮かぶバストライン。
「ずるいぞなこ! あたしも下にキャミ着とけばよかった! あたしもキャストオフすればあやたなんかに!」
「腕力は変わらんから脱ごうとするな!」
撫子には色仕掛けという意思は無いだろう。やる気を表してるだけだ。
本気で競いたい。たぶんそれだけ。
撫子は長い髪を邪魔にならないようにポニーテールにすると、右手をテーブルに肘を着けた。左手はしっかりとテーブルの縁を握る。
お嬢様のくせに慣れてるよこの子。
「やるよ彩昂君。本気でやってよね」
「わかった」
テーブルに肘をつくと、細くて少し冷たい撫子の手を握った。
この瞬間、既にみらい以上の力を感じる。
レフェリーを務めるのはみらいだ。
「レディー、ゴー!」
「んっ……!」
「ぐっ!?」
強っ!? 撫子強っ!?
互角のまま動かない状態が数秒続いたが、限界が来たように撫子の力が弱まった。
流れがこちらに来たことで勝負を決めに行く僕。
最後の力を振り絞って必死に抵抗する撫子。
綺麗な顔に苦悶が浮かばせ、肌は朱に染まり艶を帯びて、大きな胸がぐわんと揺れる。
なんのこれしき!
色即是空、煩悩退散、邪念撲滅……喝っ!
ついに撫子の手がテーブルに着いて、僕の勝利が決まる。
「……負けちゃった」
「さすがのなこでも無理だったか。あやたのくせに」
お前は何回それを言うんだ。
「めちゃ強かったよ」
僕の腕はすっかり疲労してぷらぷらだ。
「男の子には腕力だけじゃ勝てないね。やっぱりお相撲しようよ!」
お前も何回それを言うんだ?
~~~~~あとがき~~~~~~
わたしは許されざる裏切りを行いました。
相撲させず、腕相撲に逃げました……
女勝ち至上主義なのに、男に勝たせました……
それを今ここで懺悔します。
相撲はクーニア登場までお待ちください。
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