第7話 本性

「やっぱり、話しておいてよかったですね!

 シュンカちゃんの中のしえるさんに対するキ喪女メーターがゼロに戻りましたよ!」


 なんか、一つバッドステータスの種類が増えてるじゃないか。

 まあいっか。嘘じゃないし。『年齢=オタ女歴=彼氏いない歴』なのはさあ。


「あたしの場合、父が再婚して継母ができたんだけど、その人がほんと良い人でさあ。恵まれてたんだよね。

 でも、あたしと来たら、なんかその人を母として受け入れちゃったらママが消えちゃうって思い込んで意地を張っちゃって、最後まで打ち解けられなかったんだよね。」


「しえるさん、、、」


「でもさあ、シュンカちゃんの事情は酷過ぎる!

 絶対に許せない!!

 だから、あたしも協力したいのよ。そのためにそのリュックが役に立つんならあたしも、、、多分、ママも喜んでくれるはず。」


 シュンカちゃんの涙腺がまた決壊しちゃった。今度はあたしも無理っぽい。女神だけは全く変わらない笑顔だけどな。あの表情に中身なんて無いのさ。


「受け取って貰える?」


「はいぃ! だいじにじばずぅ!!」


 鼻水をすする美幼女。本物の天使だよ。それに引き換えこいつと来たら、、、


「では手早く進めましょう。私の時間は限られているのですよ。」


 多分、こいつらに感情なんて存在しないんだろうね。


「はい、もう一度被ってみて下さいね!」


 さっき、繋がらなかった時に女神に取り上げられていたHMDを、再び乱暴に被らされた。

 あれっ? 怒ってる?


「うわっ! 目線ひくっ!! 手ちっちゃ!!」


「あの、ちょっと恥ずかしいです。」


 シュンカちゃんの声が頭の中に直接響く。

 って、もしかして思考もモロバレ?


「はい。いっぱい、『はあと』って付いてます。」


「うわー、悪気も下心もないんだよおおぉ!!

 Yesロリータ、Noタッチを一生貫く所存なのだ!!」


「なんだか、わからない言葉が混じってますが、嘘の無いことだけはわかりました!

 しえるさん。これからよろしくお願いします!!

 えっ!? しえるさん!?」


 不覚にも一瞬、気絶してしまったよ。鼻血まで垂らしてさあ。聖なるオーラは私にはキツ過ぎたのさ。

 なんかさあ。もう諦めてたけど、女として終わってんなあって、追い討ち食らっちまったのさ。


「そんな事ありません! しえるさんは素敵な女性です!! 今もお母様のことを大切に想ってる。そんな人が終わってなんかいるはずありません!!」


 ありがたいよ。ありがたいけど眩し過ぎるんだよね。それにさあ世の男どもは、あたしなんざアウトオブ眼中なんだよね。


「すごいじゃないですか! しえるさんは古代語も堪能なのですね!!

 これまでにも難しい表現がいくつかあって、意味がわからない事もありましたが、高度な知識をお持ちなのですね。」


 ごめん。古代語じゃなくって死語。使われなくなった流行語たちなんだよ。それを敢えて使ってスベる自虐キャラでなんとかアイデンティティを確立しようとしたけど失敗して、変なクセだけが残ったのさ。


「おまえさあ!! いい加減にしろよ!!

 グジグジグジグジいつまでいじけてるつもり!?」


「女神様!?」


 先ほどまでのアルカイックスマイルはどこへやら。目を釣り上げて怒りを露わにする。


わらわには感情がないじゃと!?

 それなら、あんたたちを引き合わせたりはせんわ!!

 おまえらなら上手く協力して困難に立ち向かえると思ったから、いろんな無理をしてセッティングしてやったんじゃぞ!!

 なのに妾が無感情に作業としてやっておるとでも!!!」


「あ、あ、あ、あの、、申し訳無いっす。

 まさか、人間なんぞとは次元の違う高みにいる神様に、そんな熱い感情なんてあるわけないと思っておりやして、、、」


「あるわ!! むしろ、感情しかないわ!!!」


 それはちよっと、、、


「妾だって、人間たちがみんな幸せに暮らせる世界が作りたいんじゃ!! 

 それなのに、人間どもはどうにかして楽をしようとする。そのために、他者から奪おうとする。それをやめさせようとすると、また、別の手口で搾取を目論む奴が現れるんじゃ。

 何万年もそんなイタチごっこを続けて来た。文明などと抜かすものを築いて栄えたつもりになっておるが、根っこの部分は全く変わっておらん!!


 妾には製造者としての責任がある。希望が無いのなら駆除して別の存在に明け渡さねばならん。しかし、ずっと見守って来たんじゃ。情の湧いた者もおる。この世界を愛した者たちじゃ。あやつらの想いまで消しとうはない!」


「め、め、女神様! も、も、も、もうしわけ、」


「あんた! カッケェじゃん!!

 さっきまでのスカした、いけすかねえ美人さんの百億倍カッケェよ!」


「し、えるさん!?」


「ふん! 元気になったか!?

 分かれば良いのじゃ。お前に褒められんでも、妾はカッケェのじゃ。」


 おや? 顔を伏せて不貞腐れた風を装ってるけど、耳が赤いですな。


「でも、なんでキショい猫被りなんかしてたのさ?」


「キショいはやめい。

 おまえらがイメージするありがたい女神様を演じてやった方が受け入れやすいであろうが。」


「「ぜんぜん!!」」


 ハモった! ハモった! ハモンドオルガン!!


「もうよい。我ら三者はチームじゃ。我らでこの世界の腐れを蹴散らす。力を貸してくれるか!!」


「はい!」

「あたりまえだーーーーーーーーーー!!」


と、そこで思い出したことがある。


「でさあ。女神様の名前を聞いてないなあって思ったんだけど、いまさら聞いていい?」


「そうか。しえるの世界では知られてないのだったな。

 妾は最高12神の一柱『ベガ』じゃ。」




・・・・・・あたしは着いていく神を間違えたかもしれない。

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