顔月
佐々井 サイジ
第1話
達也は線路沿いの道を俯きながら歩いていた。東京のような明るい夜とは違い、線路を照らす街灯と時おり見かけるコンビニの明かりくらいしか道を照らすものが無かった。スマートフォンの光が異様に眩しかった。
首が痛む。気づけば自宅アパートまでずっと俯いて歩いたようだった。ここから三階まで階段で上がらなければならない。ふと見上げたとき、月が煌々と黄色く光っているのが見えた。ちょうど黒い雲が風に薙ぎ払われて丸い輪郭がはっきりしていた。しかし、達也はその美しさよりも奇妙な気持ちを抱いていた。
月の模様は目や鼻、口といった人間の顔を彷彿とさせるものが出現している。どこか空中に浮かぶ黄色い顔が達也を見下ろしているような不気味さがあった。普通、月の模様と言えばうさぎである。達也としては月の陰影はあまりうさぎに見えなかったが、今の陰影はどう見ても顔にしか見えない。
周りを見渡すと、通行人の何人かも達也と一緒で月を見上げているようだった。
「なにあれ、月が顔になってんじゃん」
「ほんとだ。きも」
若い女の大きな声は他の通行人を見上げさせるのに絶大な効果があった。見上げる人々は波紋のように広がっていく。達也だけがそう見えているわけではないことはすぐにわかった。
達也は部屋のドアを開け、スマートフォンでSNSアプリを開いた。トレンワードは「月の顔」、「おっさん」、「世紀末」という言葉が並んでいた。「月の顔」をタップすると、無数のアカウントが顔に見える月の写真を撮って投稿し、タイムラインを連ねていた。また、ネットニュースも貼られていた。達也はニュース記事を親指でタップした。
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