讃岐うどん

 旅館に泊まると朝風呂があるのが良いのよね。それが温泉なんて最高だけど、筋肉痛にも最高だ。コータローも医者ならなんとかしろ、


「ああそれか。明後日には治ってるわ」


 そんなもの千草だってわかってるわよ。それから朝食だ。これも旅館の朝の楽しみなんだよ。


「これだけの朝ご飯は家では無理やもんな」


 それそうと今日の予定は?


「高松の三便やから十四時出航や」


 一便が一時で、二便が六時じゃ使いようがないものね。それでも十六時四十分には三宮着になるのか。とりあえず十三時ぐらいにフェリーターミナルに行くことになるけど、それまでは?


「ここからフェリーターミナルまでだいたい一時間半やんか」


 昨日もそれぐらいだったよね。どこかに寄るの?


「琴平からやったら丸亀とか善通寺もあるけんど、まずは高松に戻っとこ」


 それが無難だと思う。だったら栗林公園に行くとか。


「千草は歩きたいんか」


 ぐむむむ、バイクを跨げるかも自信が無いぐらい。でも香川まで来て栗林公園にも行かないのはいくらなんでもじゃない。


「たしかにな。そやったら十時までに栗林公園に着きたいさかい八時に出るで」


 相談もまとまって高松に。来た道を戻るのだけど、国道十一号線沿いに栗林公園はあるのよ。問題は定番のバイクをどこに停めるかだ。クルマの駐車場はセットのようにあるけどバイクっていつも微妙なんだよね。国道十一号なら東門から入るのが近いけど、


「この奥に停めれるらしいわ」


 自転車と共用で屋根まであるじゃないの。さらに料金無料は嬉しいな。入場券を買ってだけど、栗林公園は大きく分けて北庭と南庭で構成されていて、メインは南庭みたいだな。えっ、えっ、それって順路と逆だよ。


「せっかく来たんやから」


 コータローに連れて行かれたのは、これってまさか、


「これやったら歩かんでエエやんか」


 ウソでしょ、池を舟に乗って見て回るなんて。


「お姫様遊びみたいやろ」


 こういうのをいつかやってみたかったのよね。だってさ、昔の庭園って船で回るのがホントだって言うじゃないの。


「ここはどうやろ。舟でも回っとってんやろうけど」


 それにしても立派な庭園だ。まさにお殿様の遊び場だな。舟で見て回っても良さそうだけど岸にある建物から見ても感じが良い気がする。あれってお茶室もあるみたいだぞ。ここまでの庭園は兵庫にはないよね。


「神戸やったら相楽園ぐらいやもんな」


 栗林公園を楽しんだら、


「やっぱりうどんやろ」


 天下のうどん県だものね。なにしろコンビニよりうどん屋の方が多いって言うもの。それで、どこ行くの。


「今日は日曜やから休みのとこも多いんや」


 それは残念だ。栗林公園から連れて行ってくれたのは・・・そこってホカ弁屋じゃないの!


「その隣や」


 ああ、あれか。狭い駐車場が一杯だけど。


「行儀悪いけど道向かいに停めさせてもらお」


 そこはモンキーのメリットかも。少し並んだけど入ると食券方式か。何が美味しいのかな。


「かしわ天らしいで」


 メニュー表で番号を選ぶらしいけど、ぶっかけとざるってどう違うの?


「ぶっかけは麺にツユをかけるやつで、ざるはツユで食べるやっちゃ」


 かけとざるって事だな。かしわ天が美味しいらしいからかしわざるの大にした。だって大になっても百円高いだけじゃない。店内もシンプルと言うかクセあるな。厨房のところのカウンターはわかるけど、


「テーブル席はのうて窓際もカウンターやもんな」


 それぐらい狭いのよね。そうだそうだ、香川のうどん屋って美味しいとされるところはすっごくディープなんだよね。


「らしいな。それこそ製麺所の一角にうどんを提供するコーナーだけあって、ドンブリ、箸、醤油持参で行くそうや」


 ドンブリと箸はまだわかるけど醤油ってどうするの?


「麺にかけて食べるそうや」


 そういうところは薬味も欲しければ持参になるけど、なんか店の畑のネギを自分で取って来る店もあるらしいじゃない。


「あれも繁盛して、今はちゃんとした店らしいで」


 香川のうどん屋もサービス店、セルフ店があるらしいけど、


「セルフ店やったら麺もろうて、デボ使うて自分で茹でるんやて。千草はその手の店は行ったことないんか」


 話には聞いた事あるけどないな。だけど香川では高校の給食でもうどんが出て、デボ使って自分で茹でるところも多いんだって。うどん県民おそるべしだ。


「そやけどディープなところだけが美味いわけやない。これだけ競争が激しいさかい、生き残ってるいうだけで味は保証付きや」


 食べる方だって味にうるさいなんてものじゃないはずだものね。それとだけど、


「天ぷらに力を入れて売り物にしてるところも多いみたいや」


 そんな話をしているうちにかしわざるが出て来たけど、うん、これは美味しいよ。まさに讃岐うどんだ。香川に来てこれを食べなきゃ意味ないと思う。


「千草が喜んでくれて嬉しいわ」


 コータローが蘊蓄を教えてくれたのだけど、


「蕎麦は三たて言うて、挽きたて、打ちたて、茹でたてが美味い言うけど、うどんも打ち立て、茹でたてがやっぱり美味いらしい。そやから、より打ち立てを狙って製麺所で食うのが定着したらしいわ」


 なるほどね。ついでに言うと製麺所で食べるから安いのも人気になったぐらいで良さそうだ。香川のうどん通の世界はディープだよ。讃岐うどんを満喫したら、


「時間が中途半端やからフェリーターミナルに行こか」


 もう十二時を回ってるのか。帰りのフェリーの時刻もなんとかならないかな。


「フェリーの時間が長いからしゃ~ないやん」


 モンキーじゃ、瀬戸大橋も、大鳴門橋も、明石大橋も渡れないからね。それでも思ってたより楽しいお泊りツーリングになった気がする。


「また行こうや」


 素直にうんと言いにくい。フェリー乗り場に行こう。

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