第3話 悪魔か天使か

「運命感じた?」



昼間のバイト先であるカフェへ出勤すると、昨夜の女がまた現れた。


昨晩とは違って、真っ白のワンピースを着ている。

昼間見ると高そーなもんを身に纏ってるのがわかる。今日持ってるのは、レディディアールだよな……?

やっぱこの女金持ちだ。



「ご注文はお決まりですか?」


「カフェラテのホット」


「かしこまりました」



注文を通しながら、そっと女の方を見ると、カバーに梨のかじられたマークの入ったノートPCを開いて何かをしていた。



俺のこと調べたのか?

調べたんだよな。

昨日の今日で偶然なんてありえない。



「3番様」



その声に、キッチンカウンターに置かれた抹茶ラテと苺のソースがふんだんにかかったフルーツパフェをトレンチにのせ、テーブルへ向かった。


店内をめずらしく小さな子供が歩いていた。

本当にめずらしい。

あまり子連れが来るような店でもないのに。


その子供が、何かにつまづいて、テーブルの角に頭をぶつけそうになるのを見た瞬間、咄嗟に子供を支えた。


そして、子供を支えたばかりに、左手で持っていたトレンチのバランスに配慮が欠けた。


「あ!」と思った時にはもう遅く、上にのっていた抹茶ラテとフルーツパフェは、見事にあの女のテーブルにぶちまけられていた。


同時に、助けた子供は、すごいいきおいで店を走って出て行った。


それらは全て一瞬の出来事。


そもそも子供の親は?



恐る恐る女の方を見ると、テーブルの上のノートパソコンはどろっとした苺ソースとフルーツにまみれ、抹茶ラテの熱さで溶けた白いアイスがグリンになっていた。

更にそれが女の真っ白いワンピースに飛び散り、膝の上は見るも無残にグリンの大きなシミを作っている。



「買ったばかりのパソコンに、一点もののBELENCIEGEのワンピース、どうする? それから――」



女はドロドロの苺ソースとアイスにまみれたレディディアールのピンクのバッグを持ち上げた。



「これ、中まで抹茶まみれなんだけど?」



女は……嬉しそうに笑った。

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