あなたが生きているかぎり
ひろ
第1話『弟』
私の弟は笑顔がよく似合う少年だった。
上品に切りそろえられた前髪に、大きくて丸い瞳。柔らかな頬は、私が指で軽く押すと、お餅のような感触がした。
唇は淡い薔薇色で、お互いにまだ性別を意識しない頃、父と母の真似をして、私はその愛らしく小さな口にキスをした。幼い口づけを終えた後、弟は戸惑いながらも私の瞳に微笑みかけた。私はそんな弟が、どうしようもなく大切に思えて、両手できつく抱きしめた。
幼い頃はよく、ふたりして遊んでいた。一緒に出かけた公園で、ジャングルジムから降りられなくなった弟を、私は懸命に手を差し伸べて助け出した。帰り道に突然雨が降り出して、弟の手を握り締め、ふたりで必死に走って帰った。私は、懸命に走る弟の肩を抱いていた。
私が子どもから少女になると、以前は頻繁に行われていたテレビのチャンネル争いや、身体を押しつけあうような喧嘩はしなくなった。弟の身長も健やかに伸び始め、私たちが歩いていると、道を行く人には、仲の良い同級生に思えただろう。それが嫌で、あまり弟とは遊ばなくなっていった。私の少しよそよそしい態度に、弟は彼なりに何かを感じ取ったのか、以前のように私のお尻に付いて回るようなことはなくなった。
中学生になると、私にとって弟は、たった一つの年齢の差にもかかわらず、まるで別世界の住人のように思えた。弟は、無邪気で何の悩みもなく、今日のような明日が当たり前のように続いていくことを、疑いすらしない。少し羨ましく、そしてまた寂しくもあるけれど、そんな弟と私の距離は、同じ家にいるのに、どうしようもなく遠くなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます