あなたが生きているかぎり

ひろ

第1話『弟』

 私の弟は笑顔がよく似合う少年だった。


 上品に切りそろえられた前髪に、大きくて丸い瞳。柔らかな頬は、私が指で軽く押すと、お餅のような感触がした。

 唇は淡い薔薇色で、お互いにまだ性別を意識しない頃、父と母の真似をして、私はその愛らしく小さな口にキスをした。幼い口づけを終えた後、弟は戸惑いながらも私の瞳に微笑みかけた。私はそんな弟が、どうしようもなく大切に思えて、両手できつく抱きしめた。

 

 幼い頃はよく、ふたりして遊んでいた。一緒に出かけた公園で、ジャングルジムから降りられなくなった弟を、私は懸命に手を差し伸べて助け出した。帰り道に突然雨が降り出して、弟の手を握り締め、ふたりで必死に走って帰った。私は、懸命に走る弟の肩を抱いていた。


 私が子どもから少女になると、以前は頻繁に行われていたテレビのチャンネル争いや、身体を押しつけあうような喧嘩はしなくなった。弟の身長も健やかに伸び始め、私たちが歩いていると、道を行く人には、仲の良い同級生に思えただろう。それが嫌で、あまり弟とは遊ばなくなっていった。私の少しよそよそしい態度に、弟は彼なりに何かを感じ取ったのか、以前のように私のお尻に付いて回るようなことはなくなった。

 中学生になると、私にとって弟は、たった一つの年齢の差にもかかわらず、まるで別世界の住人のように思えた。弟は、無邪気で何の悩みもなく、今日のような明日が当たり前のように続いていくことを、疑いすらしない。少し羨ましく、そしてまた寂しくもあるけれど、そんな弟と私の距離は、同じ家にいるのに、どうしようもなく遠くなった。

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