【Side】百目鬼 真紅郎(一条家執事)



 わたくし百目鬼どうめき 真紅郎しんくろう


 一条家に代々仕える、百目鬼どうめき家の長男として生を受けた。


 百目鬼の家は、代々【鬼】をその身に宿し、受け継いできた。


 特に、私たち三兄妹は、歴代でも最強とよばれる鬼3体を引き継いだ。


 私は血の鬼、吸血鬼。

 朱乃あけのは熱の鬼、酒呑童子。

 蒼次郎そうじろうは樹木の鬼、茨木童子。


 だが、強すぎる鬼の力を、我々は制御することができなかった。

 特に私は光に弱く、昼夜問わず、素肌を外にさらすことができなかった。


 弟妹たちも、鬼の特徴が色濃くでおり、その結果……市井の人々からは、【鬼】だの【悪魔】だのと、さげすまれてきた。


 でもそれは、私たちに限った話ではない。

 この極東の、寄生型能力者たちはほぼ全員、一部例外除き、異形の姿になってしまう。


 その結果生まれるのは、差別。

 あいつらはバケモノだ、悪魔だといって、周りから……さげすまれて生きてきた。


 百目鬼どうめき家はその点で言うと、恵まれている。

 一条家という巨大な権力が、生まれてからすぐに、我らを庇護してくれていたから。


 ……とはいえ、我々が生まれてからずっと幸福だったかと言われると、答えは断じて否である。


 我々の心は人だ。

 でも……体はバケモノ。


 一条家から一歩外に出れば、わかる。

 彼らの、私たちを見る目は、バケモノへ向けるそれだ。


 一条家の人……悟様、そして守美すみ様以外は、異形たる我々に対して冷たいまなざしを向けてくる。

 バケモノだと、心ない言葉を投げつけてくる。


 ……我々の心は、人だというのに。


 そんなある日、悟様の花嫁が、西の大陸からやってくることになった。


 正直……悟様も、そして我々黒服たちも、全員が花嫁に期待を寄せていなかった。


 極東の人々たちから、散々、我ら寄生型能力者たちは、虐げられててきたからだ。


 極東でこういう扱いを受けているのだ。

 西の……外の世界の人間が、我らをどう呼び、見るかなんて火を見るよりも明らかだ。


 どうせ……我らをバケモノだと蔑んでくるに、決まっていた。


 ……けれど。

 サイガ家からやってきた、レイお嬢様は……とても変わった御方だった。


 普通だったのだ。

 異形種である、寄生型能力者たちを、普通の人間のように、扱ってくださったのだ。


 ……無論、能力者がなんたるかを知らない、西の大陸からきた……という事情もあるだろう。

 だが彼女は、我に対して一度も、バケモノと呼んだことはなかった。


 何かをすると、ありがとう、とお礼を言ってくださる。

 作ったご飯を美味しいといってもらえて、うれしいと、言っていた黒服達も言っていた。


 レイお嬢様は、我らバケモノを前にして、怯えることも、蔑むこともなく、普通に接してくださった。

 弟妹も、そして、黒服達も、その時点でかなり好感度は高かったのだ。


 そして、決定打となる出来事が起きる。


 レイお嬢様に、【異能殺し】を付与する、【異能制御付与】と言うべき力の使い方があると判明した。


 レイお嬢様は、黒服達全員に、異能を制御する力を授けてくださった。


 見た目のせいで、我々は酷い差別を受けてきたのだ。

 まともになれて、うれしいに決まってる。


 ……でも、一番うれしかったのは、人間に戻っても、レイお嬢様の態度が変わらなかったことだ。


 あの御方は、我らを人間に戻してくださったあと、「良かったです」と、心から喜んでくださっていたのである。


 一緒に、喜びを、分かち合ってくださったのだ。


 ……普通、こんなに凄いことをしたら、「感謝しろ」だの、「私のおかげだからな」だのと。


 そう言って、調子乗っても、おかしくはない。

 これから、一生かけて仕えろとか言っても、大金をせしめてきても、全然おかしくはないのに、だ。


 むしろ、それが普通だろうに。

 レイお嬢様は……違った。


 異形化が解ける前後で、態度が全く変わらなかった。

 ……私たち黒服は、レイお嬢様の、その変わらぬ態度が……うれしかった。


 気づけば、我々黒服たちは、全員が、レイお嬢様に心から引かれていた。

 彼女の慈悲に深く感謝し、そして、皆決意したのである。


「悟ぼっちゃまと、レイお嬢様を、この先一生をかけて、お守りするのだ」

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