第44話 答え合わせ

「あ……久しぶりですね!元気にしてますか?」


『いきなりなに……?それに先週話したばっかでしょ……』


 暗い部屋の中、机に置いた水晶玉には呆れ顔の美少女が映し出される。


「そ、そうでしたね……」


『で?何の用?』


「あ、いえ……なんか、話したいなー、なんて……思っちゃって……」


 綺麗な銀色の毛先をいじり、私の言葉に迷惑そうな顔を浮かべる。


『もう直ぐ消灯なんだけど……用無いなら切っていい?』


「え……!?ま、待ってください!最近どうですか!?勉強とか……!分からないところがあれば、お姉ちゃんが」


『暗くない?』


「へ……!?な、何が!?いつも通りですよ!?私は別に何も」


『部屋』


「あ……へ、部屋……」


 何かを察した様な視線に、思わず息が詰まる。


『……私が分からないところ、お姉ちゃんが教えられる訳ないでしょ」


「あ、ああ……!そ、そうですね……そ、それでどうですか?学校、楽しいですか?」


『……別に、普通』


 頬杖をしてはそっぽを向き、冷たい声色で呟かれる。


「友達とは……仲良くしてますか?」


『必要ない』


「え?」


『馴れ合いに来てる訳じゃないし……意味ないから』


「……でも、付き合いは大切ですよ?」


『それ、本気で言ってる……?』


 冷たい横目で見詰められ、身体が強張ってしまう。


「ど、どういう……」


『お邪魔しまーす!』


 突然、明るく可愛らしい女の子の声が水晶玉から聞こえると、スノウは酷く慌て始める。


『ちょ、ちょっと!勝手に入ってこないでよ!!』


「お、お友達ですか……?」


『あー!また使ってる!ティティア様は何しても許されるんだぁ!?調子乗ってるなー!?』


『……もう手伝ってあげない』


『きゃはは!もしかして本気にしちゃった?ごめんね?せんせーには黙っていてあげるから……ね?』


『……さっさと準備して』


『はーい』


 水晶玉に映らない外の誰かと話し始めて、居心地が悪い。


『で、誰と話してるのー?お姉さん?』


『だから勝手に……!』


「あ……」


 水晶玉の端から現れたのは、綺麗な金色のツインテールに、妹に引けを取らない程の美少女だった。


『んー……?何にも見えない……なんで?』


 大きな深紅の瞳が水晶玉いっぱいに映し出され、思わず口を塞いで息を止めてしまった。


『や、やめて……っ!出てって!』


『おーい!!お姉ちゃーん!!昨日スノウが』


『ホントにやめて!!』


『きゃははははっ!』


 スノウは強引に金髪の女の子を押し出しては、扉が強く閉まる音が、水晶玉から響く。


『もう……っ、切るから……』


「あ……は、はい……」


『……お姉ちゃん』


 スノウは少しだけ頬を赤らめながら、目を泳がせる。


『お姉ちゃんには……凄く、感謝してるから……』


「す、スノウ」


『いつも……ありがと』


「……っ!」


 その一言に、初めて言われた言葉に、胸の中に絡み付いていた何かが、少しだけ取れた様な、救われた様な、そんな気がした。


『今度は……私から掛けるから』


「う、うん……」


『またね……』


「あ……は、はい……おやすみなさい……」


『……おやすみ』


 水晶玉が映し出していた妹の顔が、ぷつりと途切れて消えて、一人笑みを落とす。


「ほ、ほら……やっぱり、正しかったじゃないですか……」


 真っ暗な部屋で一人静かに、水晶玉へと呟く。


「友達……ちゃんと、いるじゃないですか……もう……」


 腹の音が静かに鳴り響く。


「あ……そういえば何も……」


 真っ暗な部屋から出て、赤く腫らした目を擦りながら、リビングへと辿る。


 明日から、また、頑張らないと……


 机に並べられたカレーの香りが、未だに漂い続けては私の鼻孔を擽り、食欲を誘う。


「……冷めてる」


 一人、椅子に着いては並べられたスプーンを一つ手に取り、丹精込めて作ったカレーを口へと運ぶ。


「ん……美味しい……」


 皿を鳴らしながら何度も口へと運び、咀嚼すると喉が酷く渇いては、目元が霞み歪み始める。


「おい、し……い」


 本当なら、みんな揃って食べる筈だったのに。


「ふぐ……っ、う、うぅ……っ!」


 本当なら、みんな楽しくお喋りしながら食べる筈だったのに。


「うぁ……っ、あ……っ!!」


 本当なら、今頃、みんなで星空を眺める筈だったのに。


「ごめ、んなさ……いっ!ごめんなさいぃぃ……!!」


 明日のこと、これからのこと、みんなでしたかったこと、沢山あったのに。


「ぐす……っ、はぁ……あぁ……」


 メイちゃんと沢山お話しして、ユースさんと、もっと仲良くなって、二人の事、もっと沢山知って……三人で外に出て……それから……


『短かったが……世話になったな』


「あ、ぁぁぁ……っ!」


 また、裏切った。


『ユース……早く行こ』


「うぐぅ……っ、うぅ……!!」


 守るって、言ったのに。


「私、だって……ッ!!私だってぇ……ッ!!」


 止めど無く溢れ出る悔しさを噛み締め、握り締める銀色のスプーンが震え続ける。


『お前のせいだ』


「ぐぅ……っ、うぅぅ……!」


『お前のせいで……みんな、死んだ』


 食卓に零れ滴る悲しみが、私を呪い、強く責め立てる。


「どう、して……っ、なんで、こうなるの……?」


 私……間違ってたの……?


「お姉ちゃん……正しい、よね……?私、間違って、ないよねぇ……っ?」


 暗闇は何も、誰も、答えてくれない。


「誰、か……教えて……っ」


 誰も居ない部屋に、私の声だけが響き続ける。


「合ってるって、言ってよぉ……ッ!!」


 響く静寂に耳を塞いで、私は叫び続ける。

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