第32話 電車を止めた野獣
GO―暴走する電車―
その日、山手線はいつも通りに運行しているように見えた。平日の夕方、乗客たちは仕事帰りの疲れを感じながら、満員電車の中で静かに揺られていた。しかし、その車両の運転席には一人の男がいた。
彼の名はGO。見た目はごく普通の性年男性だが、その目はどこか虚ろで不気味な光を放っていた。
「何だこの操作感は……最高や!」
彼は本来なら触れてはいけない運転席の機器に手を伸ばし、電車の速度を徐々に上げていった。その瞬間、異変を感じた車掌が駆け寄るも、GOは冷笑を浮かべて言った。
「大丈夫だ、問題ない」
そして――、GOは非常用のロックを解除し、電車を完全に支配下に置いた。乗客たちは異常な速度に気づき始め、ざわつきが車内に広がる。
「ファッ!? なんでこんな速いんですか!」
その声に応えるように、車内アナウンスが流れた。しかし、それは本来の車掌の声ではなかった。
「みなさん、こんにちは。今日からこの電車は『俺専用』になります。逃げられると思うなよ? GOisGOD。」
不気味な声が響き渡り、乗客たちは恐怖に凍りついた。GOの仕業だと気づいた一部の乗客が、なんとか電車を止めようと試みるが、扉はすべてロックされており、非常停止ボタンも機能しない。
「止まるんじゃねぇぞ……!」
そう呟きながら、GOは速度をさらに上げた。電車はカーブを猛スピードで曲がり、車体が大きく傾く。悲鳴が響く中、乗客たちはパニックに陥り、混乱が広がる。
――なぜGOはこんなことをしているのか。
彼の頭の中には、一つの執念だけが渦巻いていた。
「俺を……笑ったあいつらを……許さない。」
彼は過去に乗客として電車で何度も嘲笑されてきた。社会から爪弾きにされ、孤独に生きてきたGOにとって、電車は自分を虐げる象徴そのものだった。そして今、彼はその電車を暴走させることで、世界への復讐を果たそうとしていたのだ。
車内は地獄絵図と化していた。乗客たちは必死に助けを求め、携帯電話で警察や鉄道会社に連絡を試みる。しかし、なぜか全ての通信が遮断されていた。
「やりますねぇ! この完璧なシステム!」
GOは狂気に満ちた笑みを浮かべながら、さらなる加速を試みた。外の風景は一瞬で過ぎ去り、誰もが自分の命が尽きる瞬間を覚悟し始めていた。
そんな中、一人の若い男性――後輩の遠野が意を決して立ち上がった。
「GO! やめてくださいよ! 本当に危ないんですよ!」
遠野はGOに向かって叫びながら運転席へ向かう。しかし、GOは振り返りもせず冷たく言い放った。
「俺を止められると思うなよ。レシートリザード」
遠野はなんとかGOを止めようとしたが、彼の狂気と憎悪の前に立ち尽くすしかなかった。
「お前も俺を笑うのか? だったら……4ねぇ!」
GOは操作パネルを乱暴に叩き、電車はさらに異常な速度に達した。その時、車内に異音が響き渡る。限界を超えた車体が軋む音だった。
――そして、悲劇は起きた。
電車は次のカーブで制御を失い、線路から飛び出した。乗客たちの悲鳴が響き渡り、鉄とガラスの破壊音が夜空に轟いた。
現場は無数の瓦礫と、崩壊した電車の残骸が広がっている。その中で、GOの姿だけが見つからなかった。
しかし、GOはいなくなってもなお電車は暴走を続けているのだ。
一部の目撃者はこう証言している。
「事故の直前、GOは確かに笑っていた」
都会の喧騒の中、山手線が何事もなく走る昼下がり。乗客たちはそれぞれの目的地へと急ぎ、車内はどこかせわしない空気に包まれていた。しかし、その平穏を打ち破るかのように、一人の男が線路沿いに立っていた。
「遠野……。お前の無念、俺が晴らしてやるってそれ一番言われてるから」
その男——通称「野獣先輩」。なぜ彼がそこに立っているのか、誰も知らない。しかし彼の表情には何かを決意したような鋭さが宿っていた。
「やりますねぇ!」
彼は自らの拳を見つめ、独り言を呟いた。これから自分が挑む行動がどれほどの危険を伴うか、彼は理解していた。だが、それでも引き下がるつもりはなかった。なぜなら彼には使命があった。
その瞬間、遠くから電車の音が聞こえてきた。車輪が線路を叩くリズムが次第に近づいてくる。野獣先輩は深呼吸をし、足元を固めた。
――来た。「爆走ゴッドデストロイヤー」だ。
「先輩、やめてくださいよ! 危ないですよ!」
突然現れたのは、後輩のKMRだった。彼は先輩の行動を止めようと必死に叫んだが、その声は虚しく響くだけだった。
「焦るなって! 落ち着け、俺に任せろって。。。」
正義感儚く散った最愛の後輩、遠野の為に野獣先輩は一言だけそう呟くと、迫り来る電車に向かって全力で駆け出した。その姿はまるで獣そのものだった。
「ファッ!? なんでそんなことするんですか!」
後輩の声も届かない中、野獣先輩は両手を広げ、電車の前に立ちはだかった。その瞬間、運転士の緊急ブレーキの音が鳴り響く。だが、ブレーキが間に合うかどうかは分からない。
――ズガァァァァン!!!
衝撃音とともに、野獣先輩の体は電車の前で止まった。周囲の人々が驚愕する中、彼は力を込めて車両を押し返していた。
「止まれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
彼の声は地鳴りのように響き、筋肉が悲鳴を上げながらも電車の勢いを受け止めていく。その姿はまるで現代の伝説のヒーローのようだった。
数秒――いや、それは永遠のようにも感じられる瞬間だった。ついに暴走電車は完全に停止した。
「やりましたよ……!」
彼は膝をつき、息を切らしながらも満足そうに微笑んだ。その場に居合わせた人々は拍手喝采を送り、誰もが彼の勇気を称えた。
「先輩、すごいな……尊敬するわ」
後輩のKMRも、涙を流しながら先輩の肩に手を置いた。全身疲弊した野獣先輩は彼に微笑み返しながら一言だけ呟いた。
「大丈夫だ、問題ない」
こうして、彼の名は新たな伝説として語り継がれることとなった。
GOは一体どこに行ったのか。それはまだ見当もつかない。
迷宮入りだってハッキリわかんだね。
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