第24話 短剣のありか
美浜町の外れにある、喫茶『グレーテル』にて、まりんちゃんと綾さんが話をしている一方、日本海側の海側に面する、海山町にシロヤマはいた。堕天使を封じるのに必要なあるものを、捜しにきたのだ。
生前、江戸時代から続く、由緒ある屋敷に住んでいた長者からこんな話を聞いた。
『――万が一、屋敷の地下にある祠に封じられた堕天使が復活を遂げた時、再び封じることができるよう、予備の短剣が、この屋敷のどこかに隠されている。短剣のありかを知っているのは、先祖代々受け継がれる長者のみだ』と。
秘密保持のため、それ以上のことは、長者の口から語られることはなかった。
なので、長者が生前に語っていたこの話を頼りに、シロヤマは再び、町外れに聳える、長者屋敷の跡地へと赴いたのである。
「う~ん……屋敷の中に入って捜してみたけれど、ノーヒントじゃやっぱり、見つかんなかったな」
廃墟と化す、長者屋敷の跡地を背にして佇むシロヤマは、腕組みしながらも、眉間に皺を寄せて難しい表情をする。
堕天使を封じることのできる短剣のありかを知っているのは、先祖代々受け継がれる長者のみ。だが、短剣のありかを知る長者は閉口を貫き、秘密を保持したまま逝去。
今から十年前にこの町の長者が病死したことで、強大な霊力を持つ、由緒ある退治屋家業が絶たれてしまった。ゆえに、短剣のありかを知っている者はいない。
もっか、長者の跡を継いで、堕天使の祠を管理する者がいるが……その者の正体を知るシロヤマにとって、短剣のありかを訊くのは容易ではなかった。
跡地となった長者屋敷に短剣が隠されているのは分かっているのに、その隠し場所が分からない。さて、どうしたものか……
「ガクトくん?」
その呼び声に反応を示したシロヤマが顔を向ける。長い茶髪を一つに結んだ、私服姿の女性が一人、不思議そうにシロヤマを見詰めていた。
「あぁ……えっと……」
いきなり声をかけられ、シロヤマが返事に困っていると、
「びっくりした……まさか、こんなところで再会するなんて」
女性がそう、控えめに微笑みながら話しかけてきた。
「ごめん……俺……きみのこと……」
「ああ、そっか! 私と会うの、十四年ぶりだものね……」
そのことに気付いた女性は改めて自己紹介をする。
「私は、
女性が名乗ったことで、ようやっと思い出したシロヤマの顔が明るくなる。
「子供の頃、白船町で一緒に鬼ごっこをして遊んでいたの、今でも良く覚えていますよ。お久しぶりです、みさきさん! すみません……あの頃と、雰囲気が変わっていたので……」
「いいのよ。思い出してくれればそれで……だけど、どうしたの? その格好……」
これから、葬儀場に行くつもり?
みさきさんに服装のことを訊かれたシロヤマは、曖昧に笑って返事をした。
「いやぁ……実は今、葬儀場に行って来たばかりで……」
「幽霊なのに?」
「あははは……」
みさきさんに痛いところを突かれ、適当に言ったことを軽く後悔しながらも、シロヤマは笑って誤魔化した。
「相変わらず、霊感が強いんですね」
「そうなのよ……なんだか、前よりも霊感が強くなったような気がして……でも、そのおかげで、ガクトくんと再会できたから嬉しいわ」
困ったように笑いながらも、みさきさんはそう返事をした。
今から十四年前に命を落とし、死神へと転生したことには触れずに黙っておこう。
霊感があるがゆえ、こうして対面するシロヤマのことを幽霊と思い、接してくれるみさきさんを不安がらせたくはないから。
「今日は、なんでこちらに?」
気さくに問いかけたシロヤマに、切なく微笑むとみさきさんは返答。
「……夢を見たの。まだ、廃墟になる前のこの屋敷で、生前の
庄一さんとは、かつてこの場所に屋敷を構えていた長者の名前である。みさきさんはどうやら、庄一さんとなんらかの関係があるらしい。跡地となった長者屋敷を見上げながら、みさきさんは懐かしむように口を開く。
「私ね……生まれつき、悪質なもののけに取り憑かれやすい体質なの。結婚を機に、この町に越してきたのも、それが関係しているからなのよ。
夫が、知人関係にある庄一さんを紹介してくれて……それからというもの、私は屋敷へと赴き、庄一さんの霊力で以て、この身に取り憑くもののけを
庄一さんが他界して十年……私の夢枕に立った庄一さんは、あの頃と変わらず優しかった。夢から覚めた今でもそれが懐かしくて、会いたくなって……久しぶりにここを訪れたのよ」
みさきさんが、庄一さんとの繋がりがあることを知り、短剣のありかが訊けるチャンス到来と、意を決したシロヤマは出し抜けに口を開く。
「みさきさん。庄一さんのことで、ちょっと訊きたいことがあるんですけど」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます