第23話 あの女のせいで私は…~キャサリン視点~
「貴様、自分の立場を分かっているのか?伯爵令嬢でもあるアンネリア様を刺すだなんて!とにかく、ここで反省していろ」
乱暴に私を牢にぶち込む騎士たち。昨日まで私にへこへこしていたくせに、今日はやけに強気だ。
まさかこんなに早く、バレてしまうだなんて…
そう、私は今さっき、あのにっくき女を亡き者にするため、腹部をナイフで刺してやったのだ。
本当はあの後数回あの女を刺して動けない状況にした後、貰うものだけもらって、ひっそりと屋敷を出て行こうと思っていたのに…
あの女が遺体で発見される頃には、私はもう、この国を出ていないという計算で、わざわざ人気の少ない場所まで連れてきて、あの女を襲ったのだ。
それなのに、どうしてあんな場所に、護衛たちがいたのかしら?護衛たちのせいで、私の計画は水の泡よ。
そもそも、あの女がお飾りの妻として、アレグサンダーの元に嫁いで出来たのが、運の付きだった。
アレグサンダーはすっかり私に惚れこんでおり、私の言う事は何でも聞いてくれる。そう、侯爵家は私の言いなりで動いていたのだ。アレグサンダーも侯爵家も私のもの。
そんな中、あの女が現れたのだ。たとえお飾りであったとしても、アレグサンダーの妻という事が気に入らなかった。さっさとあの女を追い出したい、そんな思いで、あの女に嫌がらせをした。
あの女は腐っても伯爵令嬢だ。平民の私に指図されるだなんて、耐えられない苦痛だろう。きっと怒り狂い、私に危害を加えてきたら、すぐにアレグサンダーに言って、追い出してもらおう。
そう思っていた。それなのにあの女、嬉しそうに私の言う事を聞くのだ。何なのよ、この女、平民にこき使われて、文句も言わないだなんて。こうなったら、徹底的にこき使って、本人が出て行きたくなるように仕向けてやる。
そんな思いで、あの女を朝から晩までこき使ってやった。皆が嫌がる飼育小屋の掃除も1人でさせた。食事だって、使用人ですら食べないような、固いパンとスープのみにしてやった。
平民上がりの使用人ですら、音を上げて逃げてくほどの仕打ちを与えたのに、あの女は一向に音を上げない。それが私のイライラを誘った。
一体どうすれば、あの女はこの屋敷から出ていくのだろう。そう思っていたのに…
追い出されたのは私の方だったのだ。つい最近まで、私の虜だったアレグサンダー。いつの間にかあの女に奪われたいただなんて…
私を捨てるだなんて、許せない。アレグサンダーもあの女も、不幸になればいい。そう思ってあの女を亡き者にしようとしたのに…
それにしても、いつまでこんな陰気くさいところにいないといけないのかしら?
「ちょっと、そこのあなた。さっさとここから出して頂戴。私、こういう陰気くさいところは嫌なの。お望み通り、この屋敷から出て行ってあげるから」
近くにいた男に、そう伝えたのだかが…
「貴様、何をいっているのだ!侯爵夫人でもあるアンネリア様を殺そうとしたのだぞ!貴様がここを出るときは、裁きを受けるときだ!」
「私が裁きを受けるですって?ふざけないで。そんなこと、アレグサンダーが許さないわ!ねえ、あなた。アレグサンダーを呼んで頂戴。今すぐよ、早くしなさい!」
さすがにアレグサンダーも、私には情が残っているだろう。もう二度と侯爵家には近づかないと約束したら、きっとここから出してくれるはず。もちろん、餞別もしっかり頂かないと。
そんな思いで叫んだのだが、男はため息をつき、どこかに行ってしまったのだ。本当に使えない男ね!
いつまでこんな陰気くさいところに、私を置いておくつもりなのかしら?
どれくらいこの場所で過ごしただろう。いい加減ここから出して欲しいわ。
「ちょっと、いい加減ここから出しなさいよ!私はもう、侯爵家には二度と近づかないと言っているでしょう?アレグサンダーと話をさせて頂戴!」
戻ってきた男に、声をかける。すると…
「相変わらず傲慢で我が儘で、自分勝手な女だな…僕はどうして、こんな女に…」
この声は!
「アレグサンダー。お願い、早くここから出して。あなたの望み通り、この家から出て行ってあげるから。もちろん、餞別は頂戴ね」
アレグサンダーが私を心配してきてくれたのだ。
「何が餞別だ、ふざけないでくれ。でも、君のお望み通り、ここは出してあげるよ。君はこれから、王都にある収容所に向かうんだ。そこで正式に裁判を受ける事が決まった。君はビュッファン侯爵夫人殺人罪で正式に裁かれることが決まった。先ほど、手続きもすませてきた。もうすぐ、収容所の人間がやって来るはずだよ。君を迎えにね…」
「私が裁判にかけられるですって!ふざけないで、平民でもある私が、貴族を殺害したとなると、極刑は免れないじゃない…て、あの女、死んだのね」
殺人罪という事は、あの女は死んだのだろう。いい気味ね。そう思ったのだが…
「アンネリア嬢はまだ生きているよ。ただ、君は明らかに殺意を持っていたからね。殺人罪で起訴する事になったんだ。どのみち、平民が侯爵夫人を傷つければ、極刑は免れないがね。本当に僕は、なんて女に惚れたのだろう。心底自分が嫌になる」
「ちょっと待って頂戴。私、死にたくないわ。アレグサンダー、私達、あんなに愛し合っていたじゃない。それなのに、どうしてこんな酷い仕打ちをするの?お願い、助けて」
嫌よ、死にたくないわ。そもそも、平民でもある私が、貴族を傷つけたとなると、どんな恐ろしい事が待っているのだろう。考えただけで、恐怖で震える。それくらい、平民が貴族を傷つける事は、この国では重罪なのだ。
「酷い仕打ちだって?僕は君に金も住む家も手配すると約束した。僕なりに誠意を見せたはずだ。そんな僕を裏切ったのは、君だろう?そもそも、平民が貴族を傷つければどうなるか、さすがの君でもわかっていたはずだ。僕は法にのっとったまでだよ」
「そんな…お願い、もう二度とあなた達の前には姿を現さないわ。だからどうか…」
「悪いが見逃すつもりはない。それじゃあ僕はもう行くよ。さようなら、キャサリン」
そう言うと、足早に去って行ったアレグサンダー。
「待って、お願い。行かないで」
必死に叫ぶが、姿が見えなくなってしまった。
「そんな…」
どうして私がこんな目に…イヤよ、私はこれからどうなるの?何とか逃げないと!
すっと立ち上がった時だった。
「貴様がキャサリンか。迎えに来た、さあ、来るんだ」
怖そうな男が複数人、目の前に立っていたのだ。
「いや…来ないで…私に触らないで」
必死に抵抗するが、乱暴に引きずり出された。
「イヤ、お願い。だれか助けて!お願いよ」
既に極刑が決まっている私は、絶望の中外に連れて行かれたのだった。
※次回、アレグサンダー視点です。
よろしくお願いします。
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