第21話 これでよかったのかしら?
「アンネリア、さっきはありがとう。それにしても、まさか旦那様があの女を追い出すだなんて、驚きね」
興奮気味に話しかけてきたのは、マーサだ。さっき、あり得ないことが起きたのだ。なんと侯爵様が、奥様をお屋敷から追い出すと言い出したのだ。私と契約結婚をするほど、奥様を愛していたはずなのに、あんなにあっさり追い出すだなんて…
「ねえ、マーサ、いくら奥様に我が儘なところがあるからって、こうもあっさり追い出すだなんて、さすがに酷いと思わない?」
「何を言っているのよ。ちょっとどころじゃないわ。今までどれだけの使用人があの女に傷つけられ、辞めさせられたか。旦那様の決断は、英断だわ。あの女がいなくなるだけで、沢山の使用人たちが救われるのよ。旦那様に感謝しないと」
確かに奥様は少し傲慢なところがある。使用人たちの事を考えると、奥様が屋敷を出ていくことが決まって、よかったのかもしれない。
ただ…
侯爵様と契約結婚をした私としては、複雑なのだ。奥様がいなくなることが決まった今、本当に私はこのお屋敷にいてもいいのかしら?確かに侯爵様がおっしゃる通り、私が侯爵様の傍にいれば、アッグレム伯爵が我が家に手出ししてくることはないだろう。
でも、私を傍に置いても、侯爵様には何のメリットもないのだ。それなのに、私がずっとこの屋敷にいても、いいのかしら?
「アンネリア、難しい顔をしてどうしたの?もしかしてあなた、このお屋敷を出て行こうと考えているの?もうあの女はいないのよ。もう誰も、私たちを虐める人はいないの。ずっとここにいればいいじゃない」
「別に私は虐められていないわよ。確かにここにはマーサやリアナもいるし、使用人の方たちは皆いい人だし。何よりも我が家の為には、形だけでも私が侯爵様の妻でいたほうが、都合がいいのよね。でも、侯爵様にとって私をこのお屋敷に留まらせても、何のメリットもないでしょう?そう考えると、やっぱり私は、屋敷を出て行った方がよいのかと思って」
もしかしたら、侯爵様は私への罪悪感から、私をこの屋敷に留まらせようと考えているのかもしれない。それならやっぱり、しっかり断って私は実家に帰るべきだわ。だって侯爵様には、莫大な援助をして頂いているのですもの。これ以上、負担をかける訳にはいかない。
「アンネリア…あなた、本当にそう思っているの?どう考えても旦那様は、アンネリアを…いいえ、何でもないわ。多分旦那様は、あなたが実家に帰りたいと言っても、のらりくらりとかわして、帰してくれないと思うわよ。アンネリアには分からないかもしれないけれど、旦那様にとってもあなたが屋敷に残る事は、大きなメリットになるの」
「私が屋敷に残るとこで、旦那様のメリットになるですって?一体どういうことなの?」
「今のアンネリアに説明しても、理解できないと思うわ。とにかく、あなたが屋敷に残る事を旦那様は望んでいるのだから、大きな顔をしてここにいればいいのよ。それでもあなたがどうしても実家に帰りたいというのなら、その時は旦那様に話しをしたらいいのではなくって?」
「そうね、そうするわ。でも私、侯爵様に莫大なお金を援助してもらっているから、あまり我が儘は言えないのよね…もっともっと働いて、返さないと」
契約は不履行になったものの、なぜか私はこのお屋敷に引き続き置いてもらえる様になったのだ。もっともっとしっかり働いて、侯爵様に恩返しをしないと。
ただ、奥様が出ていくとなると、お世話をする人は侯爵様お1人になるのよね。私なんか、必要ないだろうに。
やっぱりある程度時間が経って、侯爵様の私に対する罪悪感が消えたら、このお屋敷から出て行こう。私が1人いるだけで、食費はもちろん、お部屋だって取ってしまうものね。
よし、そうしよう。
「アンネリア、私はメイド長に話しをした後、もう上がるわ。あなたもあの意地悪な女が出ていくことが決まったのだから、今日は早く休んだ方がいいわよ。あなた、働き過ぎで最近顔色が良くないし」
「ありがとう、マーサ。でも私は元気よ。ここをもう少し片づけてから休むわ」
「もう、アンネリアは働き者なのだから。それじゃあね」
「ええ、おやすみなさい」
さてと、私はもう少し仕事をするか。それにしても、この家には高そうな壺や絵画が飾られている。さすが侯爵家だ。我が家にも昔は飾られていたけれど、生活の為売れるものは全て売ったのよね。
お父様やお母様、アランは元気にしているかしら?侯爵様がさらりとおっしゃっていたけれど、少しずつ伯爵家も軌道に乗り始めている様ね。
そういえばこの2ヶ月、一度も実家に帰っていなかったわ。手紙も書いていなかったし。そもそも私、手紙を書く事も外出する事も、奥様に禁止されていたのよね。
もう奥様もいないし、手紙くらいなら書いてもいいわよね。早速今夜にでも、家族に手紙を書かこう。
その時だった。
「アンネリア様、少し宜しいですか?」
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