第16話 親友からの厳しい意見【後編】~アレグサンダー視点~
「アンネリア嬢は、そんな女性ではない!現にメイド長を始め、他の使用人たちからの評判もかなり良いし。何よりも僕は、この2週間彼女をずっと見ていたのだよ。他の使用人はもちろん、動物たちにまで優しく微笑んでいた。その笑顔をいったら、まるで女神様の様で…」
「はいはい、惚気は結構だよ。とにかくまずは、キャサリン嬢をうまく追い出すことが専決だね。ただ、アンネリア夫人はお飾りの妻だろう?キャサリン嬢が事実上追い出されたら、自分はお役目御免だと思って、実家に帰るのではないのかい?」
コテンと首を傾げながら、あり得ない事を呟くキース。
「アンネリア嬢が、屋敷から出ていくだって?どうして彼女が屋敷から出ていくのだい?アンネリア嬢は、僕の妻だよ」
「アレグサンダーとキャサリン嬢が幸せに暮らすために利用されている、お飾りの妻だろう?君の話を聞いた限りでは、アンネリア夫人は、アレグサンダーと本当の夫婦になりたいとは思っていないのではないのかい?自分の役目が済んだら、家族の元に戻れる事を夢見て、今の辛い状況を必死に耐えているのかもしれないよ。早くアレグサンダーと離縁したくて、うずうずしていたりしてね。あっ、でもアレグサンダーも、別にアンネリア夫人の事が好きではないと、さっき言っていたね。それならいいか」
こいつ、僕の気持ちを知っていて、わざと意地悪な事を言って楽しんでいるな!
「いい訳ないだろう!僕はキャサリンを追い出した後も、アンネリア嬢にはずっとこの家にいて欲しい。もちろん、何もしなくてもいい。彼女が好きな事をしてくれたら、それでいいと思っているよ」
「好きな事をしてくれたらいいと思っている…か。結婚するときも、そう言って連れて来たのだろう。でも蓋を開けてみたら、君の愛人からは酷い仕打ちを受け、その上メイド以下の生活を強いられた。そんな彼女が一番望むことは、実家に帰る事なのじゃないかな?百歩譲って実家の為にアレグサンダーとの婚姻を継続したとしても、お飾りの妻として君との関係は望まないと思うよ。だって、そういう話で結婚したのだからね」
いつも以上に言いたい事をズケズケと言ってくるキース。正直腹が立つが、キースの言っている事はごもっともだ。たとえキャサリンを追い出せたとしても、僕がアンネリア嬢と幸せに暮らせる保証はない。
「それじゃあ、僕はどうすれば…」
「アンネリア夫人が一生困らないだけのお金を渡して、離縁してあげるのが一番良いのではないのかい?あっ、でも今、ファレソン伯爵家は伯爵と息子のアラン殿が、君から受けた援助を元に、必死に立て直しを図っている様だね。このままいけば、お金を渡す必要はないかもしれないね。ただ離縁さえしてあげたら、アンネリア夫人も喜ぶかと」
「キース…君は僕に恨みでもあるのかい?どうしてそこまで、僕とアンネリア嬢の離縁を勧めてくるのだい?」
「だって、親友の僕から見ても、君がやった事は最低だと思うからだよ。あまりにもアンネリア夫人が不憫だからね。せめてこんな最低な男から、早く解放されたらいいなと思って。話を聞いていると、アンネリア夫人、とてもいい子みたいだし」
にっこり笑って暴言を吐くキース。こいつが言っている事は、正論だ。ごもっともな意見だという事は、僕も重々承知している。それでも僕は…
「それでも僕は、アンネリア夫人を傍に置きたい。あわよくば彼女と、今後の未来を見据えていきたいと考えているみたいだね。本当に図々しい男だね、君は」
「キース、君の言っている事はごもっともだ。僕は最低最悪な男だ。あんな女にうつつを抜かし、何の罪もない心優しいアンネリア嬢に酷い事をした。本来なら、彼女の為に多額の慰謝料を支払い、離縁して家に帰してあげるべきなのだろう。でも僕は、もっと彼女の事が知りたいし、傍にいたい。あわよくば、このまま共に未来を歩んでいけたらと…」
自分でも図々しい事を言っている事は分かっている。でも、もっともっと彼女の事が知りたいし、傍にいたいのだ。僕の手で、彼女の笑顔を守りたい。彼女の喜ぶことをしてあげたい。辛い事から守ってあげたいのだ。
「はぁ~、本当にアレグサンダーは…それならまず、アンネリア夫人の事を知る事から始めないとね。もちろん、アンネリア夫人にもアレグサンダーの事を知ってもらわないと。アンネリア夫人がどんな女性で、どんなことが好きなのか。その為にはまず、交流を持つことが大切なのじゃないのかい?1日数十分でもいいから、まずは2人で話をしてみたらどうだい?」
「アンネリア嬢と、話しをか…確かに僕は、彼女ときちんと話をしたことがなかった。そうだ、一緒に晩御飯を食べながら、話をするのもいいだろう。可哀そうに、アンネリア嬢は、キャサリンの意地悪のせいで、夜ご飯を食べられていないのだよ。朝昼も、固いパンとスープしか与えられていないし。早速今日、夕食に誘ってみよう。美味しい料理を、お腹いっぱい食べて欲しい」
ふと時計を見ると、午後6時半をさしていた。今から帰れば、夕食の時間に間に合う。よし、今日はアンネリア嬢を夕食に誘おう。
「そうだね、でも、まだキャサリン嬢がいるのだろう。彼女が嫉妬すると面倒だから、キャサリン嬢を正式に追い出してからの方が…」
「キース、悪いが僕はもう帰るよ。今日は話を聞いてくれてありがとう。それじゃあ、また明日」
「えっ?待って、アレグサンダー、まだ話は終わって…」
後ろで何かキースが叫んでいたが、今はそれどころではない。早く帰って、アンネリア譲を食事に誘わないと。
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