第二話-2

 アントニーと幽灘が初等学校のクラスメイトであり、既に僅かながら面識があったこともあって、三人が打ち解けるのはかなり早かった。これは定期的に三人で遊ばせ、ぜひ交友関係を末永く持続させてほしいところだ。その方が、冬雪にとっても非常に都合がいい。


 なのだが、その前にどうやら、話をしなければならない相手がいるようだった。


 念のため契約精霊をその場に残し、冬雪は夢中で話している三人の少年少女のもとを離れる。そして木陰に佇む女性──というよりは少女──に歩み寄ると、一切の躊躇なく話しかけた。スチュワート兄妹を相手にした時とは真逆の、とても友好的とは言えない表情と声音だ。実力的には大抵の相手を恐れる必要がない彼が、有り体に言えば、警戒を示していた。


「ボクたちがここへ来たときから、ずっとこちらを観察していたようだな。大天使・・・がこの場に、一体何の用だ?」


 少女は、外見的には一七歳程度に見える。だがその肉体は人間のものではなく、白金色の髪とベルリンブルーの双眸そうぼうはラザムと同じ、大天使の容姿の特徴だ。


 魔力使用者には必ず、一人ずつ傍付きの大天使がいる決まりになっている。だが転生者には、そのような規則はない。より簡単に言えば、監視や制約がない。なので本来冬雪は傍に大天使が付くことはないし、現に転生してからこれまでの約半年間、傍に天使や大天使の影は一切なかった。


 それがなぜ、今更になってこの場に現れたのか。害になるにせよ益になるにせよ、その真意は確かめておく必要がある。害である可能性が益である可能性を上回っていれば、すぐにでも拳銃を抜いていたところだ。今はまだ、何とも判断がつかない。故に迂闊な敵対行動も避けるべきだ。


「《禁忌》の命令か?」


「ええ、そうね」


《禁忌の魔王》──転生と魔力使用者の管理を行う人外の存在。大天使を含む天使は《禁忌》によって作られ、また転生者の身体も《禁忌》によって作られる特注品。そのため転生者には、いくつか普通の人間とは異なる特徴がある。それは天使も同様だ。例えば今目の前にいる大天使だが、彼女が本当に、一七歳前後である確証はない。


 そして彼女は冬雪の質問を肯定した。彼女の派遣が《禁忌》の何らかの意思と目的によるものであることは間違いなさそうだ。それも、かなり重要な。


「あんた、名前は」


「第一世界空間や第二世界空間では、クリスティーネ・クルーザと名乗っているわ。クリスと呼ばれることが多い」


「クリスティーネ・クルーザ、ラザムに聞いたことがある名だ。天使名は確か……クリーシス」


 余計な問答で時間を稼ぎ、思考を整理する。


 天使というものはかなりの数がいるが、その中でも別格の魔術能力を持つ大天使に数えられる者は一三人に揃えられている。その内五名は魔力使用者の傍付きの任があり、一人は第一世界空間や第二世界空間の情報収集を担う。残る大天使の数は七名、決して多くはない。程度低い任務に対して、おいそれと軽々しく派遣できる存在ではないはずだ。


「何をしにギルキリアへ来た?」


 相応の目的があるはずだが、情報が少ない今は考えるにも限界がある。冬雪は単刀直入に、その真意を尋ねた。かくして返ってきたのは、


「あなたを監視するために」


 という、甚だ不本意な一言だった。



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