第39話 ドワーフからの逃走とエルフからは逃げられない
外側にいるドワーフの戦士たちによって、トモエの作り出した壁が崩れ落ちようとしていた。
トモエは俺の元まで下がってきており、俺の後ろを警戒している。俺たちは完全に囲まれているため、どの方向からもドワーフの戦士たちが襲いに来るだろう。
マリアはコガネと共にドワーフの戦士を迎え撃つ準備をしている。
「……妖精?」
トモエが急に顔を上げて、辺りを確認する。
何があった?俺には何も感じられない。
「マリア!どういうことです!?
どうして妖精がドワーフに敵意を向けているのですか!?」
トモエはかなり焦っているようである。ドワーフの戦士は俺たちの敵だから、妖精が俺たちを助けるために、敵意を向けてくれることはいいことだ。
しかし妖精はドワーフの守り手であり、ドワーフに攻撃をすることは決してなかったはずである。
トモエでなくても、この状況は焦っても仕方がないことだろう。
「簡単なことですよ。先程まで生み出していた妖精は、魔石を利用して生み出しています。
そして私は自分で作った魔石から生み出した魔物を、操る力を持っています」
「魔物?彼らは妖精でしょう?」
「トモエ、落ち着いたらどうです?
彼らは妖精ですが、私の言うことを聞く魔物でもあります。
流石にドワーフを殺したり、妖精と戦うことは無理ですが、ドワーフに対して牽制程度の攻撃なら行うことが可能です」
マリアはニッコリと笑っていた。
なるほど。妖精を生み出していた時から、こういう場合に備えていたという事か。
《もしくは別の機会に使うつもりだったが、今使わなくてはいけなくなったという可能性もあるな。
どちらにせよマリアは用意周到だったという事だ》
壁を壊そうとしているドワーフたちにも変化があった。少し混乱しているようだ。
「妖精同士は戦うことが出来ません。ドワーフを攻撃しようとする妖精に対して、妖精の防御は使用できません。
何故なら妖精同士の戦いになるからです。当然妖精に対しての攻撃もできません。
つまりこちらの攻撃は、防ぐことが困難という事です」
マリアの笑みがあくどい感じのものへと、変容していく。
しかしこちらもこれで勝機が出てきたという事だろう。
ついに壁が崩れ去る。
「コガネ!魔力放出!!」
マリアの指示でコガネの魔力が妖精へと注がれ、妖精からの攻撃がドワーフへと放たれる。
「ん?」
ドワーフは妖精による防御を使うことが出来ない。しかし防具は使うことが出来たようだ。
《なるほど。直接防ぐのは戦うことになるからできないが、防具を渡すだけなら戦うことではないから出来るという事か。
つまり妖精には、こういう使い方もあるという事だ》
妖精を使った攻撃は、防具によって防がれている。ドワーフの戦士は少しずつ、こちらへと近づいてきている。
まずいな。数が違い過ぎる。圧倒的に不利だ。
囲まれているため、逃げることも出来ない。
……どうしよう。俺はマリアを見る。
「トモエ!コガネ!主様の元に集合!
コガネは魔力の放出を続けて!
トモエは空気の壁を作ってください!」
マリアがトモエたちに指示を出す。頼りになるのば、やはりマリアだ。
俺は自分のできる回復に集中する。
「トモエ!空気の壁ごと空へ逃げることは可能ですか?」
「可能です。しかしここは外界から隔離された戦士の里です。
逃げて脱出するのは難しいです」
「妖精の力で隔離されているなら、あなたの専用の妖精の力で脱出はできませんか?」
マリアの発言にトモエは驚いた顔をしている。
「…………妖精に確認しました。
可能です。脱出可能です。ただし魔力の消費はかなり大きくなります」
トモエが俺を見るが、俺の魔力は底なしだ。問題ない。
俺は自信満々に頷く。
「行動開始!!」
マリアの一言で全員が動き出した。
コガネはマリアと共に、ドワーフの戦士たちを牽制している。
トモエによって球体の壁が作られて、その中に俺たちがいる。球状の壁は俺たちごと宙に浮かんでいく。
ドワーフの戦士たちは基本的に使えるのが、『火』と『土』である。そのため空を飛ぶことは難しいだろう。
例え出来たとしても、その数は少ない。そうすれば壁を壊すのが困難になる。
壁を壊すのに妖精の力は使えない。武器の作成くらいは出来るかもしれないが、直接の攻撃はできない。
なら空に浮かぶ球体を破壊するのは、ドワーフの戦士たちには無理になる。
俺たちは空を飛び、逃げることが出来るというのが、マリアの説明である。
「なるほど。そういうことか」
俺は球体の中から、下の様子を伺う。この球体の下にはたくさんのドワーフがいて、各自が叫んでいる。
距離があるため、何を言っているのかは分からない。
しかし知る必要のない事柄だろう。
こうして俺たちは、空を飛びながら戦士の里から脱出することが出来た。
******
戦士の里を脱出した後も、俺たちの旅は面倒なことになった。戦士の里は各地のドワーフの里と、繋がっている。そのためあちこちのドワーフの里で、俺たちに対する追手がいた。それだけ俺たちの力は魅力的だという事だ。
それだけではない。エルフの戦士も俺たちのことを追うようになっていた。
「お前たちの持つ妖精は素晴らしいものだ。
だから俺が精霊に進化させてやろう。そして俺のものになるがいい!」
目の間にいるのはエルフの戦士。彼は戦士の試練を受けていて、それを成すための最中らしい。
エルフの戦士の試練は、ドワーフとは違い妖精を見つけることから試練が始まる。
妖精を見つけて、その妖精を進化させて、精霊にする。その精霊が自分専用の精霊になる。
精霊は妖精へと進化する際に、強化することが出来る。しかし元が強いほうが、強い精霊になることは当然の事実である。
トモエの妖精はとても強い。他に類を見ない強さである。
その強さに目を付けたエルフが出ることは、ある意味当たり前のことといってもいいだろう。
特に妖精を持つトモエは女性である。ドワーフもそうだったが、エルフも男性が強い社会を形成していた。そのため女性であるトモエのものを奪うことが、当然と考えているのだ。
「誰がシップウとスイリュウを渡すものですか!
寝言は寝ていってください!」
トモエが空気の壁を作る。妖精は精霊の元になった存在だ。エルフは精霊から生まれた種族である。そのためエルフもドワーフと同様に、妖精の攻撃を行うことが出来ない。
魔石を使って生まれた妖精も、今は俺たちの周りにいない。妖精や精霊は自由を愛する。
マリアの支配下に置かれることを、妖精たちは望まない。魔石から生まれた妖精でも、マリアの制御下から逃れて、自由に生きることを望む。
戦士の里ではその場に留まっていたが、今は離れて自由に生きている。
そのためエルフに対する攻撃の手段も、ドワーフと同様に、制限されていた。
「空を飛んで逃げるか?」
俺は隣にいるマリアへと話し掛ける。
「難しいですね。エルフは『風』と『水』の属性の精霊の力を借りることが出来ます。
『風』の属性だと、空を飛ぶことも出来ますから、逃げるのも少し大変です」
『火』や『土』で空を飛ぶことは、かなり難しく、魔力の消費も多い。それに比べ『風』を使い空を飛ぶことは、比較的簡単で魔力の消費も少ない。
そのため空を飛んで、エルフを振り切ることは難しいという事になる。
「ならどうする?」
「幸い相手は一人です。倒すしかないでしょうね」
トモエを見ると、トモエは包丁を構えている。コガネとマリアも戦うつもりのようだ。
俺は回復魔法を使う準備を行い、戦いに備えることにした。
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