第4話 平和という光
かおるとの間には、こんなことがあった。
十代最後の年、僕はそのころ、落ち込んでいた。それには理由がいくつかあったが、今となってはすべて覚えているわけではない。
大変だったとおもうことや、たいしたことではないと思えることなどいろいろなことがあった。その中でも僕が落ち込む理由の一番はこれだった。
自分は何者なのか?
若いころは誰でも一度はそんなことを考えるものだ。これから何をすればいいのか、何をすべきなのか、自分の役割をちゃんと果たしているのか、存在している価値はあるのかなどである。具体的にはそう思っていなくても、そのようなことで悩むことはあるものだ。
そんなある日、かおるが何を落ち込んでいるのかずくんと僕に聞いてきた。
かずくんどうしたの? 元気なさそうだね?
自分の名前が嫌い、平凡だから!!
僕はなぜかそう答えていた。父の家は、田中、母は星野、父が子供のころに養子にいった僕は、牛嶋、家の和光「かずみつ」だ。かおるの問いに対する僕の答えには、自分の価値について悩んでいる、という意味が含まれていたのだ。
かおるが真剣に答える。
田んぼの中に星が下りてくる野でそこには牛がいて鳥がいる島で、、、
えっ、、、何のことだよ?
山がある、九州のことだよ、、、
九州?何言ってるの?
そして星は平和な光で輝くのよ。いい、かずくん!!!かずくんは、その星なのよ。平和の光を出す星!
星?僕が光と平和?、、、、、和の光か!
そう。和光「かずみつ」っていい名前だよ。嫌いとか言わないで、かずくん、平和のために働いてね!!
かおるは全力を込めた真顔で僕を見つめていた。その顔つきを見たら、平和のためだなんてハードルが高い。それはちょっと無理、などとは言い出せないほどだったから、僕は覚悟した。
それにしても自分は何者なのか!
それは、平和な光を放ちながら、平和のために働く男。
わかった、力いっぱい頑張るね!
僕は答え、それでいいのだと、なぜか思えた!
かおるは不思議な女性だった。けして変わっているタイプではなく普通なのだが、それでも時々不思議に思うことがあった。今のような場合にその不思議さが表れる。ふざけているのではないのだが、いつもかおるは真剣なので、痛いほどのまじめさや気遣いが伝わってくる。ただ、どこかふわっとしていて、その感じが僕にはここちよかったのだ。
悩んでいたことが解消したわけではなかったが、気持ちはいつしか軽くなっていた。そうやって支えてくれる、かおるに、僕はほかの女性とは違うものを感じていたのだ。
その日から僕は平和について、経済や格差、生活の在り方や災害等を、考えるようになっていた。数年後、僕はこのことをまじまじと思い出すことになる。
今思えば、この時にもう始まっていたのだから、やっぱり、かおるはすごいや、と僕は思う。
今から二十数年前の五月、僕のアパートの固定電話が鳴った。
その昔電話といえば、固定電話のことだった。その持ち歩けない電話が深夜、突然鳴った。
かおるが交通事故で死んだという報せだっつた。
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