I'm Not Like Everybody Else
「でもさぁ、やっぱ違うんじゃないかな?」
いつものようにケチを付け始めたゲン。
うるせぇなぁコイツと耳を傾ける3人は、心の片隅程度には今日のテーマはなんだろなとも思いつつも次の言葉を待つ。
「…………?」
「え、それだけ?」
「え?なにが?」
「やっぱ違うとか言ってじゃん」
「ああ、それ?ほらこの曲さ、僕はほかの誰とも違うんだってことじゃん?でもさ、人は皆違うからあってはいるよなって」
珍しくそれっぽいことを言い納得させたが、すかさずケイが返す。
「でもこの曲ってそんな前向きな感じじゃなくて俺は違う……コイツラとは違うんだ……!みたいな厨二病的な曲じゃない?まぁ恋人か誰かに向かって俺は違うぜって言ってる……いや、じゃあ同じか」
「言えば言うほど平凡になっていくな……」
「これ恋人じゃなくて告白する相手とかに言ってたらもっと怖えな」
「ホラーじゃねぇか……」
「いや、僕は他の曲の解釈とは違うんで……」
「たぶん同じ解釈してるやつ腐るほどいるわ、検索のトップページにでてきてないだけだろ」
「いや、僕は他の曲の解釈とは違うんで……」
「だから同じやつだよ!」
「僕は皆と違うって、同じセリフの子どもも学生も青年も中年も老人も言ってるけどたいてい言ってるやつは……年が上になるにつれてだんだんやばいやつになってくからな」
「職場でもいるんだよなぁ……俺は君たちと違ってとか言う……」
「新入社員?コネ入社?」
「社長が」
「そりゃ経営する側だからたしかに俺達とは違うわ、正しいわ」
「本当に違う事例出してきやがった」
「でも仕事がきついのは社長の割当がヘタクソだからだし、人手が足りないのも社長のせいだし……」
「まぁ、社員たちとは違うからね」
「無能という意味では俺達と同じだと思うんだ」
「俺達?」
「自作曲のないバンド」
「じゃあ俺にだけ作らせるな!」
「自作曲無いバンドいっぱいいるだろ、なにがお前をそこまで敵に回すんだ。そもそも今の俺達はファンからもオールディスのカバーバンドの認識しか持たれてないぞ」
「やはり自作曲を作ってもらうしかないな」
「自作曲って意味わかってるか?」
「バンドのメンバーが作れば自作曲だ」
「わかってねぇけどわかってるようなこと言いやがった」
「名義は絶対俺にするからな」
「なんで……」
「当たり前だろ、作曲してる俺はお前らと違うからな」
「いいやがったよ」
負けた3人は大人しく引き下がった。
だが、じゃあ俺が作ってやるよとは誰も言い出さないのである。
「本当にお前らとは違うんだってあんまり良い使い方少ないな」
「言葉がもう良くないよ」
「たまに飲食店でも俺を誰だと思ってるみたいなこと言うのいるしな」
「ああ、キツ……知らないわ、いや……知ってたらもっと嫌だな。やってそうなやつでも嫌だしやらなそうな人でも嫌だ」
「こんなリーズナブルな店でそんな大物がイキってるんじゃないって思うね、飯が不味くなるし……。まぁ知らない人だけど」
疲れ果てたようなトラの言葉に次々と理解の賛同が上がる。
「コンビニで俺が未成年に見えるのかって爺とか」
「あるある、良いから早くしろよって思うな」
「精神年齢はもう未成年だよ」
「もう酔ってるんだろう」
「横入りしてくるババアとか」
「うん……?まぁそうだな」
「急いでるんで!俺が急いでないっていうのかって感情がやってくるな」
「そういうやつに限ってめっちゃ買うものがあるから困る、そして俺が飲み物一本とかな」
「試奏させてくださいってギター10本くらい持ってStairway To Heaven全部弾くやつとか」
「クソ迷惑だな、1時間20分同じ曲でワンマンショーかよ……」
「もうレコーディングだろ、それとも配信してたのか?どっちにしろ迷惑だな」
「そしてすごい下手」
「ヘタはしょうがないがもっと短い曲にしろ!」
「逆に勇気あるな」
「なんかアンコールかなみたいな顔で見てくる」
「しねぇよ!一周回ってヘタウマとかサイケサウンドになってるとかそのレベルじゃないと無理だよ!」
「苛つくな……」
「いや、なんか意外と癖になった」
「和製The Shaggsか?」
「一周回って上手いんじゃないか?」
「それがコイツだ」
「どうも、ゲンです!」
ギターを響かせながらポーズを決めたゲンに呆れるトラとケイ。
「お前かよ!」
「道理で途中からしゃべらないと思った!」
「こうして俺達ペー&ゲン改め、レノン=マッカートニーが結成されたというわけだ」
「曲作れ!あっちは17で作ってただろ!」
「それを語るなら才能を発揮しろ」
「「…………」」
「「黙るな!」」
「いや、作詞作曲を任せて……最悪編曲やるから」
「おれはギター弾くから」
「多重録音だと俺もギターできること忘れてねぇか?」
「キーボードやるから!」
「俺も弾けるんだよ」
「なんなら俺もピアノ弾けるよ」
「ボーカルやるから!」
「いや皆ボーカルなんだよ」
「なんで自作曲お前に歌わせるんだよ、全員ボーカルなのに」
「俺が歌いやすい曲にしてくれれば俺が歌うしかないよね?」
「なんの脅しだよ……ゲンが歌いやすい曲にしなければいいだけだろ」
「…………」
「何も言い返せねぇのかよ」
「俺はお前らとは違う……」
「下回って違うのは、もう……それこそ違うだろ」
「1時間20分楽器店で試奏ライブしたアホは違う」
ゲンのダメさに恐れをなした2人は流石に自分のほうが間違ってるのかとすら思い始めた。
「そもそもさ、メジャーデビューもなければでかい箱でやってない時点でよくいるバンドしかないだろ、俺らはそこらにいるやつと同じ。誰とも違うのは仕事しながらバンドやってるとこだけ、バンドの中で平凡なんじゃねぇかな」
「……おつかれー」
「また来週」
「うっす」
ケイのセリフに失意の3人は帰宅を選んだ。
「これでヘコむようじゃ俺等も誰かと同じだろうな」
ケイも片付けを始め口笛でその曲を奏でながら帰宅した。
バンドが無意味に駄弁ってるだけの話 @masata1970
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