バンドが無意味に駄弁ってるだけの話
@masata1970
Whatever Gets You Thru The Night
「もう朝なんだよ」
リズムギターをメインにしているゲンが言う。
「熱い夜だったね」
ベースのペーはすっとぼけたように返す。ゲンは呆れたように。
「それで新曲は出来たっけ?」
「カバーでいいじゃん」
「やる気がない時好きな曲演奏し始めるは今に始まったことじゃねーだろ」
呆れたようにぼやくのはドラムのトラ、ロックバンドでロックはそこまでメインではない唯一の男。
「俺キーボードしか演奏してないけどな」
本業がリードギターのケイはキーボードを弄りながらつまらなそうに言う。
そう言われると3人は目を合わせないようにさーて、1時間仮眠して仕事行かないとと逃げるように片付けを始める。
「今日の夜、本当に演奏で新曲演るの?」
「いいかい、ケイ。俺達に才能があって5分で曲を作れてもだよ?練習時間が足りない。よって今回もカバーでいく」
「そうだぞ、ケイ。俺は練習は嫌いだ、だから一発で覚えられるようにしてるんだ」
「そうだぞ、トラは一回で覚えられるんだぞ。覚えても叩けないけど」
ペーの水差しに対してトラは脇腹をちょっと突くことで抗議する。
「いや、オリジナル曲作れよ。今更だけど……もしかして誰も作曲できなかったりするのか?」
「おいおい、馬鹿言っちゃいけないよ、ケイ。トラはジャズがメインだぞ、作曲くらい楽勝よ!な?そうだろ?」
「え?なんでジャズが出来たら作曲できると?俺ドラムだぞ?」
「ドラムだって作曲はできるだろ」
「その理屈で言ったらギターのお前のほうが出来ないとおかしいだろ」
「いや、今はその時ではない……」
「今だろ!ペー!もうお前に任せる!お前ピアノ弾けるだろ!」
「なんでピアノ弾けると作曲ができると思ったんだ?その理屈だったらキーボードできるゲンもできるだろ?」
「出来ないとはいっていない。だが、今その時ではないと言っている」
「うるせぇよ厨二病、今じゃなきゃいつだよ、今だろ」
「そこは今でしょって言え」
「その理屈だったらリードギターでキーボードやってるケイはできるんだよなぁ!できるんですよねぇ!」
「ゲン、それはお前が作曲できないと認めてるってことだぞ?」
ケイがその問いに答える前にトラの気遣うような、あるいはいたたまれない視線をセットにした言動を受けてゲンは言い返す。
「ああそうですよ!出来ませんよ!作曲ってなんだよ!もうAIに作らせようぜ!何がオリジナル曲だよ!カバーバンドでやってけばいいじゃないか!」
ゲンの逆ギレじみた言い訳にペーが冷静に返す。
「ゲン、いいか?もし、もしも契約できたら自作のオリジナル曲のほうが著作印税が50%貰えるから一発屋になっても歌唱印税とか色々含めてもだいぶ違うぞ、分配率は契約によるんだろうけど。仮に解散しても誰か一人がやって行けてライブで歌ってファンが増えたりバンド時代のファンになったりしたらそのたびに入ってくるし」
「曲作ろうぜ!売れようぜ!」
ゲンは清々しいほどあっさりと手のひらを返した。作詞作曲のできるバンドを目指すつもりのようだ。
自分はどちらもできないのに。
「だからその話ししてたんだろ!まず契約してからにしろ!」
「まずどうやったら契約できるんだ?オーディションか?スカウトか」
「まず曲作れや!完全カバ-でオリジナル性がないならセッションミュージシャンのほうがまだ可能性あるわ!」
「でもオリジナル性出したカバーって大抵は出来が悪いよね、ファン以外からなんだこれ……ってなりがちだし」
「オリジナル性出して成功したやつもいるから一長一短だろ。なんでこんなカバーがってのもあれば原曲のほうがイマイチなんてよくあることだしな」
ジャズ畑出身なだけあるトラのツッコミに全員が納得したところでゲンは再び口を開く。
「よし、会社に受かった後考えよう!」
「そうしたら提供曲で演ることになるぞ?最初っからオリジナル持っててもデビューは提供なんて珍しくもないし」
「カバー得意じゃん」
「提供曲をカバーっていい切るのすげぇよ、まぁ本当に作曲者発表済みでカバー曲のこともあるけどさ」
「じゃあ楽勝だな!コピーすりゃいいんだ!」
「流石にオリジナル性出したほうがいいだろ」
「そもそも、そしたら著作印税入ってこないぞ」
「じゃあ曲作ろうぜ!」
「もうお前寝不足で疲れてるから寝ろ」
「よし、今から作曲しようぜ!」
「この後仕事だよ、お前作詞も作曲も出来ねぇって自分で言ってただろ」
「サボろうぜ!」
「できるか!」
「誰も作詞作曲できないとは思わなかった、せめて作詞はできないか?」
「できねぇ……」
「ドラムにやらせることか?」
「ドラムでもやってるやつはいるだろ、逃げるな」
眠気に襲われる3人の無意味な会話にケイがおずおずと伝える。
「いや、俺は作詞作曲できるけど……」
「「「言えよ!」」」
「いや、新曲作るって言ってずっとセッションしてるし、ゲンが仕切ってるからゲンが作ってるのかなって……」
「俺に作曲ができるわけねぇだろ!」
「今知った新事実だったからだよ!」
「え、逆に自分で新曲持ち寄ってやろうってならなかったのか?」
驚愕するペーは片付ける手を止めて自分が言えたことでもないのに真剣な顔で聞く。
「え、そもそもカバーバンドだと思ってたし」
「「「……」」」
「むしろ、オリジナル曲出すバンドだと思ってたの?誰もオリジナルやってなかったし、定番のオリ曲が存在すらなかったのに?この2ヶ月で急に新曲作るって言って毎回個人の好きな楽曲カバーしてるだけで?嘘でしょ?平日の夜に徹夜してカバー曲やっただけなのに?」
話してる内にいらついてきたケイは不満を述べた。
「いや、ほら……演奏技術磨いてるのかなって、それにカバー曲増やしてるのかなって」
「俺もパターン覚えても体に叩き込むまで時間がかかるから、てっきり……」
「あれ?新しいカバー曲の練習したっけ?」
「「ゲン!」」
「じゃあつまり、仕事の前日にただ何も得ることのないいつもステージで演るような曲をカバー元通りに練習をしただけだと、そういうことか?」
「そういうことになりますね」
会見で報告書の通りのことを読み上げる人間のようにスンとした顔でゲンが答える。
流石にペーとトラは引いた。
「でも、作詞作曲できるなら土曜からは新曲いけるな!」
「そんな早く作れねぇよ」
「こいつ、もしかしてAIに作曲させてたけどうまく行ってなかったんじゃねぇか?」
「作詞も出来ないもんな、実験音楽かインストナンバーでも出来たんだろ」
「そこ、うるさい」
「図星だな」
図星を突かれたゲンはあっさりと敗北した。ちなみにAI作曲の曲を出さなかった理由は楽器の都合とアレンジの才能もあんまりなかったからである。
「でもこれで解決だな、新曲を作ろう、それで印税生活だ!著作だけで50%か」
「いや、俺の作詞作曲だから俺が著作印税50%だぞ?」
「えっ?俺達じゃないの?」
「まぁ、それもそうだな……。どんなバンドもたいてい印税で揉めるもんだけど作詞作曲同一人物だったら揉めるもクソもないな」
「だから揉めそうなバンドはバンド名義にしてるんだけどな」
「そうだよ!バンド名義にしょう!協力するぞ!」
「作詞作曲できないのに何に協力するんだよ?アレンジ能力期待できんだろ」
「いや、でも……」
「俺がレノンがやってもマッカートニーがいないのに存在しないマッカートニーに支払うのはおかしいだろ!」
「いや、それは俺達マッカートニーの成長を信じてほしい」
「レノンはお前を選ばねぇよ!」
「ナチュラルに無礼すぎるだろ、何がお前をレノンとマッカートニーだと誤解させてるんだ」
互いに自分の実力を過信しすぎてる発言をしているゲンとケイにペーは冷静に突っ込む。
「第一、俺の好みの曲作っても歌うの俺だけど……お前プログレとかメタル歌えんの?」
「俺が歌える曲描いてくれない?」
「全員ボーカルなんだから自分で作れよ」
「俺が歌える曲作って俺の作詞作曲にしてくれないか?」
「それロックンローラーじゃなくてただのクズだろ」
ゲンのあまりにもな言動にトラが呆れがちに口を挟む。
しかし、ゲンはめげずに叫ぶ!
「ロックンローラーはクズだろ!」
「私生活クズなのは結構いるけど本業部分に関してそこまでクズなやつはそういねぇよ!」
「俺達がその道を切り開く最初のアーティストだ!」
「そういないと言っただけでいないとは言ってねぇし、その路線で行くって公言してるでファンにもバレてるだろ」
「俺達は我が道を行く!どんなバンドでいこうといいのさ!そうだろ!」
「少なくとも作詞作曲一人なのに全員名義にしてるバンドは抜けるが?お前ら憧れてるミュージシャンが自作ヒットさせてるのに疑問に思わなかったのか」
「ゴーストライダーかもしれない」
「お前ハードロックが一番好きだろ、無理があるだろ」
ゲンの好みを考えるとやはりあり得ないであろう宣言にケイが切り返す。
しかもゲンが好きなジャンルにはパンクもある。なぜなのか?
「俺はジャズだぞ?」
「ああ、うん……トラはしょうがない」
新作より古典カバーのほうが腕を試される事が多いので仕方がないとはいえ、それはそれとしてトラはなぜこのバンドにいるのか。
一応ソフトロックやレゲエは好みではあるが……。
「俺もボードヴィルナンバーとかR&Bとかドゥーワップ系だから……前提として難易度がちょっとな」
「うん、まぁ……ペーも仕方ないといえば仕方ないか」
「作曲はまだしも作詞は難しいかもしれんな、やったこともないんだけど」
少しだけ希望が見える物言いにケイより先にゲンが食いついた。
「おっ!じゃあ手伝えるな!こればバンド名義に」
「だとしてもケイ=ペー名義になるだけだぞ?」
「諦めろ、お前の負けだ。ゲン、人としても負けるぞ……。これ以上醜態をさらすな」
「いったいどうしたら作詞作曲が出来なくてもバンド名義にして俺が作ったことにできるんだ?」
「1行で意味不明なこと言ってる、もうそれの会社でも作って買い切りで全部自分の名義出すことにしてるとかいえば?」
「それだ!じゃあ会社を作ろう!」
「資本金はまぁ、少額でもできるけど……作詞作曲できるやつに支払う給料と抱える資本力はどうする?」
「仕事で稼ごう!」
「お前それ本職で成功してるじゃねぇか……。どれだけ稼ぐつもりだよ」
「個人の限界があるだろ」
「じゃあ、まずバンドで成功しよう!」
「そこに戻るんだ、大人しく作詞作曲しろよ」
「できねぇ!」
「もう寝ろよ、お前頭がおかしくなってるぞ」
「くだらん会話のせいで寝る時間が減った、帰るね」
「じゃあ、ケイ!パンクソング書いてきてくれ!」
「俺パンク嫌い、ヒップホップくらい嫌い」
「なんでだよ!いいだろヒップホップ!」
「ドラマーっぽくないだろ」
「それっぽさで趣味で聞いてるわけじゃねぇよ!」
「それもそうか」
「なんで趣味が被らねぇんだよこのバンド、絶対空中分解するだろ」
「みたいな会話したけど空中分解しなかったね」
「もう朝だぞ?演奏して第一声がそれか?」
「何をして夜を過ごそうといいものさ」
「しなきゃいけないことをして過ごせよ、もう寝ろ……」
「俺は仕事に行くね……」
「俺は休みだから普通に帰るね」
かなしいかな根本的に変わらない人間達だった。
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