第35話 君とコラボ(下)
「見てください。この湯浴み着なんですけど、私の友達が作ってくれたんです。かわいいと思いませんか?」
〚かわいい〛〚みんな色違いなのがいい〛〚販売予定とかありますか?〛
「でしょう? 私たち三人の分は色違いになってるんです。ちなみに作ってくれた友達は、モデレーターもやってくれてます。だから、変なコメントしちゃダメですよー。販売予定はありませーん」
「あ、僕の分まで作ってもらってありがとうございます。男性用はこんなデザインです」
良太朗はカメラによく見えるように、湯浴み着をアピールして見せる。
〚男はいらない〛〚需要ない〛〚もっとりこぽんとか見せて〛〚ほのかちゃんすこ〛
「ちょっとひどくないですか……。女性視聴者さんは喜んでくれてたり……?」
〚ないですね〛〚女性ですけど、可愛い女の子の子のほうが良いです〛
「良太朗。私がほめる。かっこいー」
「そんな投げやりな言われ方しても……」
湯浴み着の紹介もおわったところで、りこはおせち料理に取り掛かる。昨日食べて減った分を詰め直して、重箱一段にまとめてある。りこが言うには、配信だとこのほうが都合いいらしい。
「見てください、プライベート温泉だからこそできる。温泉で飲み食いいっちゃいます。おせち料理と、ビールで乾杯です」
りこがカメラに向かっておせち料理を見せている間に、良太朗はクーラーボックスから瓶ビールとグラスを取り出す。もちろん、ほのかとリュカの為のソフトドリンクも忘れない。
「じゃあビールどうぞ。リュカとほのかは、こっちのジュースを飲んでね」
良太朗は人数分並べたグラスにビールとジュースを
「みんなあけましておめでとう。乾杯」
〚おめでとー〛〚おめでとー〛〚あけおめー〛〚乾杯〛
良太朗たちは乾杯をして、飲み物を一口飲んだ。そしておせちを取り皿に取って食べ始める。
「おせちって味が濃いから、おつまみに最適ですね」
〚海老美味しそう〛〚伊達巻伊達巻〛〚ブリでしょ〛〚俺は黒豆派〛
「ん、海老と鰤は私が焼いた」
〚りこぽんはどれ作ったのー?〛〚手料理いいな〛
「えっと私は……。どれも作ってません!」
〚りこぽん食べる係把握〛〚料理苦手なの?〛〚いや、料理得意でもおせちは難しいと思う〛
「そのかわり、餅つき頑張りましたから! その様子は後日動画アップしますね」
りこは煽るように一気に飲むと、良太朗にむかってグラスを突き出す。リュカは自分でおかわりを注ぎながら、夢中でお菓子を食べている。話をするつもりも無いらしい。
「おいしー。良太朗さん、おかわりください」
「温泉で飲んでると酔いが回るのが早いから量は気をつけないと」
「良太朗。私も飲んでみたい」
「ほのかちゃん、未成年飲酒はダメですよ!」
「一応、ノンアルコールのも用意してあるから、それを飲んでみる?」
〚え? この子未成年なの?〛〚ノンアルは未成年でも大丈夫?〛
「良太朗さんダメですよ! 法律的には問題ないでしょうけど、よくないです」
「そっか。そういうわけだから諦めて」
「むぅ……。残念」
こんな調子で、りこの正月配信は無事に終わった。良太朗のほうのチャンネルに上げる動画は、おせちとお菓子を食べながら、飲んで雑談するという、オフショットのような動画になった。これはこれでなかなかいい感じに仕上がった。
翌日からは、割とのんびりした日を過ごすことができた。ぐったりとしたメノウから、初詣客の身勝手な願掛けの愚痴をきかされたり、こたつから出てみかんを補充するのは誰になるか。の駆け引きをしたりといったことだ。
そんな事をやっているうちに、りこが帰る日になった。りこの荷物をワゴンに積んで、駅へと向かって走る。移動時間はたっぷりかかるけど、ここ暫くの楽しさを考えると良太朗は少しさみしさも感じる。
「良太朗さん。お世話になりました。楽しく過ごせて良かったです」
「りこのおかげで楽しい正月になったよ」
「ん。楽しかった」
「約束だったコラボも出来ましたしね」
「うん。目標達成できて嬉しいよ」
「じゃあ、次は春に引っ越してきますね」
りこの突然の宣言に、良太朗の思考はフリーズする。
「は? 引っ越しってどういうこと?」
「職業Vtuberですから配信環境だけあればどこでもできますし、良太朗さんの家、まだまだ空き部屋ありますよね?」
「ん。りこも一緒に住むと嬉しい」
「ほのかちゃんの両親と同じ金額。ちゃんと入れますから!」
「いやいや、そういう事を言ってるんじゃなくて」
「じゃあ、なにが問題なんですか? ほのかちゃんは良いけど、私はダメってことですか?」
そう言われて良太朗は返答に困ってしまう。
「いやほら、こんな田舎だし、世間体とかもあるし……」
「うぇぇぇぇぇん。私がいると世間体が悪いんですね。うぇぇぇぇん。ちらっ」
「良太朗。ひどい」
ほのかも援護射撃を始める。最近ほのかとりこが妙に仲が良いなと思っていたら、これも二人で相談していたのだろう。こうなった以上、良太朗がダメと言い張っても時間の無駄だろう。
「はぁ……。分かったよ。いくら成人してるといっても、女の子なんだし、ちゃんと両親の許可とってよ」
「はい! もちろんです。バッチリ説得してみせます」
りこは満面の笑顔でそう答える。ルームミラーに映るほのかもニコニコとしている。
「春からは沢山コラボできますね」
「ん。毎日コラボ」
「いやいや、毎日ってそれもうコラボじゃないだろ。別のチャンネルだよ」
「良いですね! 三人の動画チャンネルも作りますか?」
「ん。三人で料理するチャンネルがいい」
「いやいや。今以上に動画に時間取られると農業ができなくなっちゃうよ」
*
──シャラカード王国・鉱山町
この町には、鉱山から取れる高品質な金属を材料として、武器や防具を作るドワーフの
そんな工廠に駆け込んできた一人のドワーフが大声で叫ぶ。
「親方、聞きましたか? 王都に神竜リュカニアと、神剣を携えた英雄が現れたらしいです」
「なんだと? その話は本当か?」
親方と呼ばれたドワーフは、金床に乗せた真っ赤に焼ける剣を叩く手を止めること無く返事をする。
「ええ、武具を仕入れに来た商人が神竜を直接見たらしいですからね」
「で、神剣を持った英雄はどこへいった?」
「なんでも、神竜の縄張りにある獣人たちの村の代表らしいんで、その村に行けば会えるかと」
親方と呼ばれたドワーフは、再び火床に剣を差し込みフイゴを操作して熱していく。真っ赤に熟した柿のようになった剣を火床から引き抜き、隣に置いてある水桶の中に一気に入れる。バチバチという激しい音ともうもうとした水蒸気が上がる。
「よし、俺はその村へ行く。千年前にご先祖様たちが神剣を再現しようと生まれた鍛冶の技術。試してみてえ」
「俺達も行きますよ。俺達だって神剣を再現したい」
周りで作業していたドワーフ達も、神剣にかける思いは同じようで全員が神剣を一目見たいと願っているようだ。
「なら、この工廠は今日で閉鎖だな」
工廠が出来てからこれまで一日たりとも途絶えることのなかった槌音が、この日をさかいに聞こえなくなった。
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