TS転生した俺が身体で稼いでいると知った幼馴染が病んだ

冬織神 歌檻

第1話 幼馴染はツンデレ時々、甘えん坊

 TSとは、主に性転換のことである。男性が女性になること、又は女性が男性になることを指す言葉だ。


 つまり、俺の置かれている状況を一言で表すなら『TS転生』したということになる。俺は元々男子高校生だったが一度死んで、目が覚めたら女性として新しい生を受けていた。


 最初は多少戸惑ったが、二度目の人生が始まって十五年がたった今となっては、このおかしな状況も完全に受け入れられた。


 なにも、悲観的になることはないのだ。


 死んじゃったのに、二回目の人生をスタートする権利を得られたのだから、ラッキーだと思うことにした。


 まぁ、多少の不満はあるが、人生に不満は付き物なのだから、気にするだけ時間の無駄だ、今回の人生では気楽に生きよう。


 俺ぐらいの年齢だとね、色々悩みが尽きないんですよ......


 ______うん?精神年齢??


 ......何歳になっても、若々しい心を持つのって大切だよね!?


 ______はい、そんなこんなで絶賛思春期&反抗期な俺は今日高校の入学を迎える。


 時間的にはそろそろ隣の家に住む、俺にはもったいない超絶美少女な幼馴染が迎えに来る時間だと思うのだが___


 『ピンポーン』


 あぁ、噂をすれば______


 『ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン』


 あいつ、ホントに短気だな。少しくらい待てないのだろうか?


 我が家のインターホンを壊されてはたまらない。俺は急いで階段を駆け降りる。


 階段を下り切ると目の前には玄関。そして、その向こう側には、この騒音の元凶である幼馴染が膨れっ面をして待ち構えていることだろう。


 俺は玄関の鍵を解除して扉を開ける。ついでに、愛する幼馴染に文句を一言投げつける______


 「ちょっと絵麻えま。うるさいッ!」


 「かえでが最初のワンプッシュで出なかったのが悪いんでしょう?」


 「そんなにすぐ出られるわけないじゃん」


 俺の反論を受けて、目の前でツンツンしているのが幼馴染の『石橋絵麻いしばしえま』だ。ちなみにツンデレ。


 「もうすぐ準備終わるから、リビングで待ってて」


 「わかった、楓の部屋で待ってる」


 「なんでやねん」


 「幼馴染だし」


 まったく、絵麻は幼馴染なら何をしても許されると思い込んでいる節がある。


 まぁ、そこが絵麻の可愛いところなんだけど。


 俺がそんなことを考えてるうちに、絵麻が階段を登って部屋に向かっていく。


 「んー、別にいいか......」


 俺から見た絵麻の性格は、ツンデレで、それでいて我が強い。言い換えると、自分勝手ともいう、自己中心的とも。


 二階から絵麻が「準備、終わったら呼んで。楓のベットで寝てるから」なんてことを言ってくる。


 「いや、人のベットで寝るなよッ!」


 「......」


 『______ガチャン』


 俺の叫びに対する返事の代わりに、部屋の扉が閉まる音が聞こえてきた。


 絵麻が俺の言うことを全く聞いてくれない......いったい、どうしてこんな風に育ってしまったのだろうか?昔はもっと可愛げがあったのに......


 【ここは、読まなくてもいいよー】

 小さい頃の絵麻は、それはそれは可愛くて。まぁ、今でも十分可愛いんだけど、今とは違った可愛さと言うか......現在の絵麻を猫のような可愛さだとするならば、昔の絵麻は犬のような可愛らしさがあった。何をするにも「かえでぇ〜、待ってよ〜」なんて言ってついてきてくれて。天使のような笑顔の女の子だったはずなのだが......一体、何が絵麻をツンデレに進化?させてしまったのだろうか?皆目見当がつかない......はぁ、あの頃の甘えん坊な絵麻に会いたいよぉ〜。「妹がいたらこんな感じなのかなぁ〜」なんて考えていたのに、すっかり私の方が妹のような扱いを受けている。あいつ、私以外の前では猫被ってるから、しっかり者だと思われてるし......実際にしっかりしているのだが、私の前ではやりたい放題だ。邪智暴虐の石橋絵麻いしばしえま。かの幼馴染を必ずや分からせてやらなければいけないと上材木楓かみざいもくかえでは決心した!!まぁ、甘やかしすぎた俺にも、すこぉ〜しだけ責任があるのかもないのかもしれないし......絵麻のためなら家族の結婚式に出席した直後に何キロも走るくらいどうってことないが......というか、絵麻のためなら結婚式とか欠席するし。おれ、エマヌンティウスのためなら頑張って走るよ!!結局、いつの絵麻も最高ということだ。今の絵麻のことも大好きだし、ツンデレ好きだからね、俺。小さい頃の絵麻の事も愛している(断じて、ロリコンではない)というか、小さい頃の絵麻は依存体質なところがあったから、現在のように自立しているところを見て喜ぶべきなのだろう。そういえば、かなりヤンデレが見え隠れしていたような気がする。病みの素質ありだ。今ではすっかり、太々しくなり、鳴りを潜めたが......その太々しさがまたいい、猫っぽくて!猫耳とかつけたら似合いそうだな......?今度、お願いしてみようかな?「猫耳つけてぇ〜」って、いや、怒られるというか、呆れられるというか、残念な子を見る目で見られそうだ、やめておこう。______え?照れ顔?照れ顔......あるな、確かに、猫耳お願いしたら照れ顔を見せてくれそうな感じはある。いいな、すごく。猫耳、買うか______


 閑話休題。


 そんなこんなで、幼馴染の傍若無人な振る舞いに圧倒されながらも登校の準備を進めること十五分、やっと支度が済んだ。


 「絵麻、行くよー!」


 「......」


 俺が呼びかけても絵麻からの返事がない。仕方がないので部屋まで起こしに行く。


 階段を上がりながら、どうしてこんな我儘な子に育ってしまったのかと考える。俺の育て方が悪かったのだろうか?


 いや、まぁ、俺は一緒に育った側なのだが......


 「絵麻、入るよー」


 部屋の扉をノックしながらふと考える。


 何故、自分の部屋の入室許可を俺がとらなければならないのか。まったく、この幼馴染には振り回されてばかりだ。


 返事がないので、扉を開ける。


 部屋の中は、カーテンに光が遮断されていて、木陰のような、なんか、お昼寝に丁度いいくらいの薄暗さが部屋中を満たしていた。


 「えま~、起きないと遅刻するよ」


 「遅刻したことで被る労力より、起きる事に使う労力が勝ってるから......ねる」


 「おい、いつもの真面目な絵麻はどこ行った~?」


 「楓の前では大体こんな感じだけれど?真面目な私って誰なのかしらね??しらない、ねる」


 まさかこいつ、まじで入学式に遅刻する気か?


 冗談じゃない、高校生活は第一印象が大事なんだ。遅刻なんてできるか。


 「起きろって、起きないなら無理矢理起こすけど?」


 つい、口調が荒くなる。絵麻の前だといつもこうだ。


 「やってみればいいじゃない。猫被りがお上手で短気な楓くん(笑)」


 「君付けすんなって言ってるだろ」


 「また、口調が荒くなってる。ほんとに短気」


 「......」




 もうすでに、家を出る予定の時刻を過ぎたいる、時間がない。このままでは、本当に入学式に遅刻をして、初日からクラスで浮いた存在になってしまう。


 こうなったら、仕方ない。


 無理矢理起こすか......


 俺は絵麻のかぶっている毛布を剥ぎ取ろうと、そばによって毛布をつかむ。すると、絵麻が毛布をつかんでいる俺の手をつかむ。


 「お、おい何だよ。放せって」

 

 「......」


 「え、なんで無言?こわいこわい」


 「......」


 一体なんなんだ、マジで。顔が毛布で隠れているから、どんな顔をしているのか分からなくて余計に怖い。


 「絵麻、ちょっと痛いってば。わかった、一緒に遅刻してあげるから」


 「......」


 腕。痛い。握力、強過ぎだろ。恐怖で目に涙が滲んできた。怒らせるような事をした覚えはないのだが、何が気に障ったのだろうか?


 「え~まっ、はなして~」


 「......」


 「ホントになんなの~?もぉ~」


 「えま~、さすがに長くな___」


 絵麻につかまれた俺の腕が強く引かれる。そして、そのまま絵麻の方に倒れこむ。


 まさか、これは......


 俺は、絵麻のこの行為に合点がいき恐怖が吹き飛ぶ、そして代わりに、焦りが生じる。今日は、本当に遅刻する事になるかもしれない......


 「かえで、今日休まない?休んで一緒にゆっくりしましょう?」


 あぁ、やっぱりそうだ。これ、絵麻の甘えん坊モードだ!!


 でもなんで?別に絵麻を不安にさせたり、心細い思いをさせたわけじゃないのに。


 「楓、聞いてる?」


 何が原因なのかさっぱり分からない。


 「うーん、なんでぇ~?」


 「おーい、かえで~?」


 いったい何が原因で、こんな大事な日に甘えん坊モードが発動してしまったのだろうか......


 ん?いや、そうか。大事な日だからこそか??


 もしかすると______


 「絵麻、高校に入るの不安なの?」


 「......」


 「別に......そんなんじゃない」


 「やっぱり、変なとこで緊張しいだからね、絵麻は」


 「だって、違うクラスになったら?ほかの友達ができたら?楓、私のことなんて忘れちゃいそうじゃない」


 「中学の入学式の時にも同じようなこと言ってたけど、結局仲良しだったじゃん、大丈夫だって」


 俺がそう言うと、毛布から顔を出した絵麻が不安そうな顔をしながら問いかけてくる。


 「ホントに、なかよし?」


 俺は、絵麻の顔を笑顔に変えるために、絵麻の不安げな目を、じっと笑顔で見つめながら、自信満々に言い切る。


 「もちろん、ずっと仲良しだよ!」


 そういうと、絵麻も納得したのか、不安を心の奥底に追い払ったようで笑顔になる。


 「うん、わかった。いいわ、そろそろ行きましょうか」


 おぉ、なんとかツンツンモードに戻ってくれた。別に甘えん坊モードも悪くないのだが、正直に言うと、今なられては困る。


 「うん、行こっか」


 そうして、絵麻と二人並んで学校に向かう。


 途中で絵麻が手を繋いできたため、まだ少しだけ、甘えん坊モードが残っているようだった。


 


 


 

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TS転生した俺が身体で稼いでいると知った幼馴染が病んだ 冬織神 歌檻 @kaori0huyuorigami

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