第12話

 英梨の真剣な目に対して拓真さんはからかうように話を続ける。


「ちなみにだ敬斗は今はわからんが昔は料理以外の家事がからっきしでな、誰かが定期的に部屋を見に行かないと汚部屋まっしぐらだった。ただまーキッチン周りだけは常にこれでもかってくらいキレイだったけどな。あのキレイにする気持ちをもう少し周りに使ってもらえたらと何度思ったことか」


「そうなんですか?でもこの前部屋に行った時はキレイでしたよ?」


 俺は英梨のその答えにマズイと思ったがそれに拓真さんは気づいたのか俺に問い詰めてくる。


「へ〜この前部屋に行ったときねー、俺はそんな話聞いてないな、なー敬斗どういうことだろうな?料理一筋で他人には目をくれなかったお前が」


「べっ別にいいだろ!ただその時は濡れながら泣いている英梨を見てほっとけなかったんだよ」


「ふーん、まっいいかこの話はこの辺で久しぶりにお前の面白い顔を見れたことだし、でだ家事があまり得意ではないけど料理だけは別だ。英梨さんは料理以外の家事はどうだい?」


「えっとその私は、実は敬斗さんとは逆で料理が全くダメで他の家事なら大抵の事はできます」


「なんだよ、それならちょうどいいじゃないか。敬斗は料理で英梨さんはその他家事でお互いを支えて行けばいい。こいつの料理食べたらその辺の料理じゃ満足出来なくなるぞ」


「そんな理由で婚約なんて納得出来るかよ、英梨さんもそうだろ?」


「えっあっそっその私は、わたしは」


「はー敬斗だからお前はダメなんだよ、ちゃんと英梨さんを見てみろ。この顔が嫌がってるように見えるか?そもそもあえて言わなかったがずっと手も握りっぱなしでお前は何言ってんだ。ここは、男のお前がハッキリ言わなきゃダメだろ」


 俺は英梨さんを見て考える、俺はなんて彼女に言った?俺は出来ることなら助けるんじゃなかったのか?覚悟もあるって言ったんじゃないか?ここがそれを覚悟を証明する場面なんじゃないのか?


「分かった、ただし条件をつけさせてくれ。婚約期間は英梨さんが成人もしくは妹と自立出来るまで。その間に好きな人が出来たら婚約は解消する。あと妹さんと今度三人で会わせて欲しい、それで妹さんもこの話を納得するならとりあえず仮にだが婚約をしよう」


 「……ま〜お前にしては頑張ったほうか、本当なら男らしく結婚しようと言わせたいがこれ以上は高望みだな。しかし、こう言っちゃなんだが敬斗お前はいずれその条件後悔することになるぞ」


 俺は拓真さんの言っている意味がわからなかったがこれが後に本当になると分かった時に過去の自分を殴りにいきたいと思うのだがそれはまだ先の話である。


「こんなところで納得してもらえるかな?他に聞きたいことがあるなら今のうちだよ」


「わたしは、敬斗さんがよろしいならむしろお願いしたいです。本当に私料理がダメで火を使う料理になると特に酷くてなぜかその………」


「その一体どうなるんだ?もしかしたらアドバイス出来るかもしれないから言ってみろよ」


「なんでか分からないけど炭みたいになっちゃうんです」


「炭みたいにか、まーどんなものか見てみないとちゃんと言えないから今度一緒に作ってみるか?」


「いいんですか?本当に酷いんですよ、敬斗さんみたいに美味しいの作れないですよ」


「それでも妹さんの為に今まで頑張ってきたんだろ?立派じゃないか、俺はそんな英梨を尊敬出来る。だから後は妹さんの反応次第だが」


「大丈夫です。妹は絶対に説得してみせます、だから妹にも敬斗さんのあの日くれたような心から温まるスープのような料理を作って上げてください」


「ならこれで決まりだな、英梨さんこいつは本当に料理以外はダメだから支えてやってくれ。こいつの両親には本当に世話になったんだ。その代わり俺からは身の回りに関していい結果を届けると約束しよう」


 コンコンとノックが鳴る、どうやらマスターが来たようだ。


「待たせて悪かったね、コーヒーとパフェを持ってきたよ。おや?どうやら話はいい結果だったみたいだね。お嬢ちゃんの顔が来た時は緊張とか色々あって暗い顔をしていたけど今は、幸せそうな顔じゃないか」


「えっそんなにちがいますか?」


「長年ここで色々な人を見てきたからね、人を見る目だけは確かだよ。内容までは分からないがその幸せを大切にしなさい」


「はい!大切にします。この幸せがずっと続くように」


「さっパフェが溶ける前に食べておくれ、今日のパフェは自信作だから」


 それからは、敬斗さんの黒歴史を拓真さんが敬斗さんに怒られながらも話して帰るまで笑いが絶えなかった。





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