普通の高校生、異能バトルに巻き込まれたけど素の身体能力で無双してしまう
WING/空埼 裕@書籍発売中
プロローグ
俺の名は黒崎蒼汰。どこにでもいる普通の高校二年生だ。
今日は放課後に、友人のケンとタクと一緒にコンビニでアイスを買って、公園のベンチでのんびりしていた。
バカ話で笑って、宿題が多いだの、今度のテストがヤバいだの、そんな他愛もないことを話し合う毎日。平和な、普通の時間が続くはずだった――あの夜までは。
◇ ◇ ◇
「じゃ、また明日な」
俺はケンとタクに手を振って別れ、それぞれの帰路に着いた。秋の冷たい風が夜の街を吹き抜けている。
ふと、静まり返った路地裏で何かを感じた。金属音がぶつかるような、甲高い音が微かに聞こえる。
その瞬間、俺の前に突如、視界を覆うような激しい光が閃いた。「何だ、これ?」驚いて目を凝らすと、光の中心に立っている二つの影が見えた。
一人は長い髪を振り乱し、黒いローブを纏った男。もう一人はショートヘアで、スーツの所々が破けて血を流している20代の女性だ。
「『防衛省超常災害対策室』の課長さんの
低く響く声が男から放たれる。彼女は構え、鋭い目つきで男を睨みつけている。
そこから始まったのは、現実離れした光景だった。
彼女が一瞬で数メートル先の男へと迫る。男は片手を上げて防御の壁を作り、衝撃が音もなく夜空に響く。
おいおいマジかよ……夢じゃないよな?
非現実的な光景を前に自分の目を疑いながらも、足が勝手に向かっていた。
近づくと、彼女がふと俺の存在に気付き、表情が驚きに変わった。
「一般人⁉ マズい、早くここから逃げて!」
そう言われても、足は動かない。
目の前で繰り広げられる戦闘に、好奇心が沸き上がる。戦いの中で叫ばれる「異能」という言葉に、俺の鼓動はさらなる高鳴りを見せた。
俺は日常に飽き飽きしていた。常に面白いことを探していた。俺の退屈な世界を、変えてほしかった。
それが今、非現実的でファンタジーな光景が、目の前で繰り広げられているのだ。
彼女が男に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「がはっ⁉」
倒れる彼女は、立ち上がりながらも弱々しい声で、俺に逃げるように告げる。
だが、男は俺を見て笑った。
「高校生のようだが、これを見られて無事で帰れると思っているのか?」
「私が時間を……ぐっ」
痛むのか、脇腹を押さえつつも男を睨み付ける。
「ふん。つまらないな。儚い希望を抱いて溺死しろ」
男の手に水が集まり、彼女へと攻撃しようとした瞬間、俺の中に眠っていた何かが弾けたような感覚があった。気づくと、無意識に飛び出して彼女を庇うように男の前に立ちはだかっていた。
「邪魔をするな。先に死にたいのか?」
「……ハハッ」
「何が可笑しい。……怖くて壊れたか?」
思わず笑い声が零れ、男が不快そうに告げる。後ろの彼女も俺に逃げるように叫ぶが、今の俺には関係ない。
「くはっ、ははは!」
路地裏に俺の笑い声が響き渡る。二人は俺を不気味な者を見るような目で見ている。
しかし、そんなのどうでもいい。ああ、どうでもいいんだ。
だって、俺をこんなにもワクワクさせるものがあるのだから!
「不気味な奴め。死ね!」
水が刃になって高速で俺へと襲いかかる。しかし、俺はそれを、拳を振るうことで
その光景に彼女も男も唖然とする。
「……は? ま、まさか野良の異能者か⁉ クソッ!」
今度は無数の水の刃が俺へと襲い掛かるが、そのすべてを俺は拳一つで破壊した。
静寂が場を支配し、俺は口を開いた。
「そんなちんけな攻撃、俺には効かねぇぞ?」
「クソッ! 一体何者だ!」
「異能バトルに巻き込まれた、ただの高校生だよ。んじゃ、次から水遊びはプールに行ってやれよ?」
「まだ――がぁ⁉」
一瞬で男の懐に潜り込んだ俺は、男の両腕を折って使えなくさせ、続けて腹部目掛けて加減をした拳を振り抜いた。
俺が本気でやったら、この人の肉体が弾け飛んじゃうからね。
鈍く重い音が響き、男は地面に崩れ落ちた。
俺は男を見下ろしながら思った。
異能、いいなぁ……まあ、俺に異能とかないけど。
ならば、どうして勝てたのか。
それは、俺の素の身体能力が高いから。まあ、両親からは「お前は人間の突然変異とかだろ」と言われている。
別に家族との仲が悪いと言うわけではなく、むしろ仲が良い方である。
本気を出せば、一人で国家転覆できるだけの力はあるが、それでも俺は人間だと思っている。てか、人間でありたい。
救急車とか呼んだ方が良いかなと思っていると、彼女は俺を警戒しながらも一人で手当てを始めた。
うん、防衛省とか言っていたし、放置でもいいか。
異能とか漫画の中だけだと思っていたが、案外知らないだけで日本もファンタジーだった。
「つまらない世界だと思っていたが、面白くなってきたじゃん」
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