クエスト2:嫁アピールは当然です④
私、黒須小陽は勇者かもしれない。
砂浜でうっかり魔法を出して海を一刀両断してしまった後、バレたらまずいと思い、すぐに立ち去り、私の家に帰った。
ちょうど守宮さんのお父さんたちもゴルフから帰ってきたので、戻ってすぐの解散になった。
部屋に入り、布団を被る。
思い出すのは海が割れた光景。魔法の感触。世界が一変した空気。
「やばいやばいやばい、やばいって!」
真っ暗でも頭の記憶は鮮明だ。
守宮さんの言っていることは、真実かもしれない。
――私は勇者の生まれ変わり。
だって、魔法が使えてしまったのだ。
本当かもしれない。創作じゃないかもしれない。
魔法は、現実ではありえないのだ。普通の人間が使えるはずがない。ファンタジーでもなく、異世界でもなく、現代の日本社会の話だ。映画、漫画、アニメの話ではない。心のどこかではそんなことないと思っていたが、ありえてしまった。
現実世界なのに、一般人のはずの私が使えた。魔法が使えてしまった。
今までの世界は音を立てて崩れて、一変した。
「私は、勇者なの?」
ひとり呟くも誰も返してくれない。
過去の記憶はないが、魔法が使えたことが何よりの証拠だ。今まで使えたこともないし、詠唱したこともなかった。普通の高校一年生の女の子は魔法を使えない。魔法があってたまるか。
……あってしまったのだから、困る。
この小さな体には魔法を操る力があった。何の兆候もなく、今まで違和感なく過ごした我が身に、魔法の才があったのだ。
魔法を駆使し、戦っていた勇者なのだから転生して力があっても不思議じゃない。けど、簡単に信じられない。信じられるはずがない。
――私は転生者なのか?
記憶がない。
が、守宮さんのように徐々に思い出していくタイプなのかもしれない。生まれた時から覚えていることなんて無いだろう。
守宮さんよりゆっくりに、遅いほどに思い出していく。……ただ何もなさすぎだ。前世の嫁に会ったり、魔法を使ったりしたけど、一向に私の記憶に変化はない。変化の兆しすらない。ちっともない。過去に不思議なことが起きたことも、覚えている限りない。残念ながら守宮さんと出会うまでは何もない人生だったのだ。
今あるのは力と、魔法が使えた事実。
私は、ドラクロワ、通称:クロワで、勇者で、魔王を倒して世界を救った英雄で、守宮さんの前世のパートナーなのかもしれない。
「勇者、だとしたら」
本当だとして、これから私はどうしたらいいのだろうか。
この現代社会で勇者が活躍する場所はない。いや、世界は平和ではないし、戦争が起き、毎日誰かが悲しみ、傷つき、争い合っている。
しかし、個人でどうにかできる問題ではないのだ。勇者一人でこの世界を変えることはできないだろう。一人では無理だ。
それに、仮に何とかしようとして、科学で説明できない魔法を駆使する私を、世間は、世界はどうみるだろうか。
「……」
この力を生かして、世界を救う……なんて無理で、政府や謎の組織に捕まり、実験体にされる可能性だってあるだろう。魔法解明のために非人道的なことをされるかもしれないし、戦争の道具にされるかもしれない。
そして、これは私一人の問題じゃないのだ。魔法が知られれば、守宮さんも同じ目にあうだろう。
仮に守宮さんが無事でも私が捕まってしまったら、あの子は勇者さまのためなら無茶をしてしまうに違いない。
「それは嫌だ……」
守宮さんが傷つくことを避けなくてはならない。
だから魔法を使えることは、絶対にバレてはいけない。あんな迂闊に夕暮れの海でぶっ放していいものではない。断じてない。
あー……不安になってきた。SNSにはあがってないし、話題になってないが、防犯カメラとかに一部始終が映ってないだろうか。瞬間は見られてなくても、海に行く二人組は残っているかもしれない。あー……、明日から普通の高校生活を送れるのだろうか。
「……もったいないのかな」
絶対に使わない、と心に刻んでも、魔法を使えるなら使ってみたいという気持ちも隠せない。アニメや漫画の世界が、憧れた力が私にあるのだ。テンションが上がるのは仕方ないだろう。
「こはる、ご飯よー」
ぐー。
母の呼び声に答える前に、お腹が反応した。勇者だとわかってもこの身体は変わらないし、お腹は空く。変わっても変わらないなと苦笑いしてしまう。
何にせよ、私は普通の高校生ではなくなった。何か欲しい、『有』る人生になりたいと言ったが、過剰すぎる供給だった。
たった一日で、私の世界は一変したのだった。
私は普通じゃない。とんでもない高校デビューだった。
ご飯を食べた後は、気づいたら意識を失い、夢を見ていた。
しかし起きたら何も思い出せなかった。夢を見ていたことを覚えているだけ。
魔法が使えたことは夢でなかったのは残念であり、喜ばしいことだった。
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……何時ぶりだろうか。
あの人は、もう覚えていないかもしれない。随分と時間がかかり、そして世界が変わってしまった。
会いたかった、わけではない。
会ったら戦うことは避けられないだろう。傷つけてしまう、傷つけられてしまう関係。
けど彼女を救うためには、倒すしかなかった。宿命ではなく、世界のためではなく、ただこの腕の中の彼女のためだけだった。役目のためにと必死に偽ってきたが、この気持ちだけは本物だった。
彼女を愛している。
俺が冒険する意味はそれだけだ。愛する彼女を救うために、俺は使命を全うする。喜んで望むものになってやる。
重そうに見えた扉は、押したら簡単に開いた。
「やっと来たか、勇者」
「久しぶりだね」
ここで終わりにしようか。
その言葉に目の前の君は笑い、自分もやっと笑えた。
変わらない。
どんなに剣が血塗られても、絆は切れない。
最後の戦いが始まった。
長く、短い人生の終わりで、
そして始まりであった。
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