第37話 衝撃的な光景

「……え!?」


「……何だよこれ」


「大きな傷の治療はとりあえず終わっている。が、まだまだ治療が必要でな」


 部屋の中は、たくさんの小さな魔獣から大きな魔獣まで、怪我をした魔獣達で溢れ返っていた。そして床には大量の血がついたタオルやらガーゼやら、他には怪我を治すためのポーションが入っていただろうビンが散乱していて。


 ダンジョンでは時々、普段あまり目にしない高ランクの魔獣が現れることがある。そういう魔獣を倒すと、珍しい素材やアイテムが手に入ることもあり、高ランクのプレイヤー達は喜んで討伐に向かうが。


 その高ランクの魔獣が現れた時、もしそこに居たのが、明らかにレベルに見合わないプレイヤー達だったら?

 最近だと1年くらい前に、高ランクの魔獣が出現して、40人以上のペレイヤー達が怪我をして、大騒ぎになった。


 その時テレビに映し出された光景と同じものが、今俺たちの目の前に広がっている。あの時は残念ながら死者が出てしまったが……。


 まさかあの光景を自分が目にするなんて。今度はどれだけ高ランクの魔獣が出たのか。そう考えていたのは俺だけじゃなかった。晴翔が俺と同じ考えを康伸叔父さんに聞く。


「どれだけ高ランクの魔獣が出たんですか。死者は?」


「分からん」


「え?」


「だから相手がそんな魔獣なのか分からんのだ」


「は? 分からないって、これだけ被害が出てるんですよ?」


「そうですよ。だから父さん達だって、現場に呼ばれて行ったんじゃ」


「分からんことが多すぎるんだ。だから弟達や、他の高ランクプレイヤー達で、それぞれのダンジョンを調べてもらっている」


「それってどういう……」


「とりあえず話しはここまでだ。まだまだ魔獣達は苦しんでいるからな。それでだ、晴翔、お前は医療班に入って、魔獣達の治療に当たってくれ。どうにも普段だったらすぐに治る傷が、なかなか治らなくて苦労してるんだ」


「傷が治りにくい? 上級のポーションでもですか?」


「ああ。そのために大量にポーションを使うことになってな。足りなくなっていた魔獣用のポーションが、お前達がここへ来た同じ頃に届いた。それで完全に回復させてやってほしい」


「は、はい!!」


「拓哉、お前は傷の治療が終わった魔獣が落ち着けるように、癒し魔法をかけてやってくれ。何が起こったが分からずに、不安になっているのは人だけじゃない。魔獣達が皆怯えていてな。少しでも不安を取り除いてやりたいんだ」


「任せてくれ!」


 そうだ。話しは後だ。何が起こったのか分からないけれど、父さん達が調査に行ってるんだ。その分からない何かが分かれば、きっと父さん達が解決してくれる。


「よし、じゃあ晴翔は向こうにいる医療班の班長の所へ。拓哉は向こうに居る裕子の所へ。治療が終わった魔獣達は、あそこに集められているからな」


「「はい!!」」


「みんなは俺と向こうへ行くぞ。いいか、勝手に離れるんじゃないぞ。それとみんなの邪魔になるような事はするなよ」


『きゅい!!』


『ぷぷ!!』


『ぬにょ!!』


『みんなけが。ぼくおてつだいできるもん!!』


 そこからは各自で動いた。晴翔はすぐに医療班へ合流、俺もすぐに裕子さんの所へ。裕子さんの所へ行くと、小さな魔獣達が数匹集まっていた。


「裕子さん!!」


「拓哉君、来てくれたのね! 今の所治療が終わったのはこの子達よ。多分後少しすると、向こうにいる子達の治療が終わるはずだから、今のうちにこの子達を癒してあげて」


「はい! そうだな。ヒーリングとリフレッシュ、どっちもやった方が良さそうです」


 俺はすぐに治療を始める。まだラビ達のように小さな子魔獣達だ。それなのに調べてみると、不安や疲れなどの色は最大の赤色を示していて。こんなに酷くまでなるなんて可哀想に。すぐに俺が癒してやるからな。


 ただ、完璧に不安を取ることは……。俺はみんなの不安を癒してやることができる。そのためのスキルだしな。ただ全てが完璧に癒せるわけじゃない。

 今回は襲われたことによる不安だ。心が傷つき、そういう記憶に限って、いつまでも心に残り続けるからな。完璧に記憶を消せれば別だけど、そんなことができるわけもないし。そのせいでまた不安になってしまう。


 そういう時は家族の存在がとても大事だ。家族にしかない絆が、その心の傷と不安を癒すことができる。その力に俺の力なんて敵うはずないんだよ。


「裕子さん、この子達の家族は?」


「別の場所で聞き取りをしながら治療してるは。情報はなるべく早いうちに聞いておかないと。遅くなれば遅くなるだけ、人の記憶は曖昧になっていって、まったく違う記憶に書き換えられてしまう事もあるから」


「ですよね。それは分かっているんですけど、なるべく早くこの子達の元へ来てもらえたらって。色が真っ赤なんです。ここまでになると、やっぱり家族が側にいないと。何をしても最終的に落ち着けるのは、家族の側なんです」


「分かったわ。向こうに聞いてみるわね。他には何かある?」


「今のそれで大丈夫です」


「じゃ私は聞きに行ってくるわね。もし途中で何かあれば、他の白と黒の制服を着ている社員に言って」


「はい!」


 裕子さんが聞きに行ってくれて、俺はそのまま癒しを続ける。ラビ達も他の治療を待っている子魔獣達を、少しでも落ち着かせようと、話しかけてくれたり頭を撫でてくれたりしてくれている。


『きゅい! きゅきゅきゅ!』


『ぷ~ぷ~』


『みんなげんき! タクパパのまほうで、すぐにげんきだよ!!』


『にょお、ににょおぉぉぉ!!』


 ご飯と、昼寝を考える!! って。そうだなブーちゃん、楽しいこと考えるのも大事だよな。


 と、ブーちゃんに言われた子魔獣が何かを答え、少しだけ笑みが溢れた。何と言ったか聞いたら、ソフトクリークと言ったらしい。それから近くの子は、大盛り牛丼だと。


 その後は子魔獣達が、好きな物を言い合いだした。さすがブーちゃん、そしてラビ達。その調子で頼むぞ。俺もできる限りの事をするから!

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