即興短編集
牧田紗矢乃
ホワイトシチューをブラウンにする画期的な方法/ホラー(制限時間15分)
今日は初めてのおうちデート。
丹精込めて作るのは、得意料理のシチューだ。
彼も気に入ってくれるといいんだけど……。
鶏肉を一口大に切り、続いてにんじんを乱切りに。
玉ねぎは存在感を残したいから櫛切りかな。ジャガイモは溶けてしまわないように、鍋には入れずレンチンで火を通す。
あとはじっくりコトコト煮込んで……――。
ピンポーン。
チャイムが鳴る。
玄関に出ると、買い物袋を手に下げた彼が立っていた。
「いらっしゃい、もうすぐできるよ」
笑顔で彼を迎え入れる。
彼は楽しみだなぁと言いながら、リビングのソファーにどっかりと腰を下ろした。
「お待たせ。お口に合うといいんだけど」
言いながら、食卓にシチューとバケットを並べる。
それを見た彼の表情が曇った。
「え、シチューってさ……」
「ん? なんかあった?」
「いや、普通ブラウンでしょ」
えっと……それは私が作ったホワイトシチューが嫌ってこと?
疑問に思いながら、食卓で湯気をたてているシチュー皿に目を落とす。
「ほら、ビーフシチューに合わせるのにこれ買ってきたんだからさ。作り直してよ」
そう言いながら彼が取り出したのは、赤ワインのボトルだった。
「そうだね。赤ワインには牛肉だよね」
頑張って笑顔を維持しながら、ワインボトルを受け取った。
「ったく、これだからお前は……ぐあっ!?」
彼が舌打ちをした瞬間。
私は考えるより先にワインボトルを彼の頭に振り下ろしていた。
彼はしばらくうめき声を漏らした後、動かなくなる。
皿の中のシチューは、彼の血が混ざって変色していた。
きっとこのまま置いておけば、彼の望むブラウン色のシチューになることだろう。
お題「シチュー」
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