第10話 S級予備役おめでとう会
前略。ステラちゃんがS級予備役になった。
「まあ、説明は後にして、早く食べましょう?」
目の前には、たくさんの料理がある。これを前に長々と説明するのもふさわしくあるまい。
「……そうですね、細かいことは置いといて! 遠慮なく、いただきまーす!」
「いただきまーす」
手を合わせて。命の糧となるユニークモンスター(イカ)に祈りを捧げ。
いただきます。
これだけでも、ここが日本に連なる文化を持った世界にいるのだと、感じさせられる。
少しだけ、感激してしまうのだった。
「「おいしーい!」」
「うふふ……嬉しいですわね」
***
「改めて、S級予備役就任おめでとうございますわ。本当は、ギルドのでっかい会場で料理パーティでもして、S級冒険者の皆様にお披露目もしたかったのですが……」
「いやそこまではいいですまだ恐れ多いです……」
まあ、ここでS級冒険者を紹介されてもすぐに関わる事もあるまい。
今はまだ目の前の事を片付けるだけで精いっぱいだ。
「さて、S級予備役と言う物に関しての説明ですが……ステラさん、あなたは自分にS級の実力があると思いますか?」
凄い首を振る。
「逆に、ナシさんは私にあると思います?」
「ないですわね」
「やっぱりないかー」
肩を落とすステラちゃん。
こればっかりは仕方があるまい。ステラちゃんは根本的に、スキルが足りない。
優秀なエネミーガードスキルと、人からスキルを借りられる友情バトンがあったから、数が足りない。
もっと多種多様な耐性と、攻撃手段が欲しい所だが……
「そんな首を振るほど、S級冒険者って実力のいる危険な仕事なのか?」
「危険というか過酷と言いますか……冒険者としての表の顔とは別に、強大な悪の組織を倒すための裏任務に参加させられたり、裏ダンジョンってのにめっちゃ強いモンスターがいてそれを倒すのに駆り出されたり」
「それユニークより強いん?」
「……どうなのかな?」
「現状、S級冒険者もユニークの対応に手間取られているようですわね」
「倒せてるん?」
「倒せてなかったら多分もうダンジョンバーストが起きてシン日本は滅んでますよ」
なるほど。一応自力で対処できるだけのなかなか骨のある奴がいるって訳だ。
少しでも俺の出番を減らすために、頑張って欲しいものだが。
そう思いながら、ゆでイカの醤油焼きについてたイカ骨を取る。
このイカも醤油の味が深くしみこみ、五臓六腑に染み渡る暖かさとおいしさだ。
異世界にも醤油はない事はなかったが、自分で作ることは困難であったし、結局遠くの日本に似た東洋の国から輸入する他なかった。
現代日本の様な国に遭遇したのは初めてだが、日本風の国と言う物は比較的見かける。
結局、日本とは程通いファンタジーの国なのだが。
「というわけで、今の段階は予備役という事で。任務に仮参加という立ち位置になりますわ」
「あっ仮参加……しちゃっていいんですか!」
「ええ。その代わり……紗城さん?」
「はいっ?」
少し嫌な予感する。
「紗城さんも、付いてってあげてくださいね♡」
「あーうん、はい……」
少しためらいながらも承諾する。
こればっかりはしょうがない。
「あと、わたくしもついて行きますから♡」
「はーい……えっナシさんも配信来るんですか!?」
「ええ、コラボいたしましょう?」
「久しぶりですね、コラボ!」
テレレテッテッテー。
小鳥遊さん仲間になった。
「そのかわり、監視ですわ監視。ステラちゃんを育てるのもいいんですが、もっとじっくり実力をつけてからレベル上げるってできなかったんですか?」
「それは時間かかるけどレベル上げんのは一瞬だし一番手っ取り早かったし」
「まあ細かい指導方針までは口にできる契約でもありませんが……まあ、大きく動くとそのたびこういう後処理がありますよという事ですわ」
「気を付けまーす」
気を付けるだけで、自重する気はないが。
「えーい、まあでもいい感じの立ち位置に落ち着きそうなので元気出すために食べます! 食べます!」
ガツガツとステラちゃんが一気に食い始める。
「ちなみに俺の立ち位置は? 何級?」
「保留中といいますか……「上」が今はまだ立場をはっきりさせるな、と」
「上っていうのは、ギルドの事?」
「いえ、ギルドの上、実質的な新日本の政府機関--「
「読みがなっげ」
適当にシン日本政府とか読んでたが、そんな長ったらしい名前があったのか。
そのJJJJとやらは。俺の待遇について介入したいみたいだ。おそらく報道などで俺の存在を隠してるのも「上」が何とかしている、という事なのだろう。
どんな事情があるにせよ、こちらには好都合だ。余り詮索しないことにした。
まあそんなことはどうでもいイカ。
小鳥遊さんのイカうっめ。
「ごはんうっめー」
「うふふ、そうでしょう、そうでしょう?」
「毎日でも食べたいくらいだ」
「そうでしょうそうでしょうそうでしょう?」
小鳥遊さんが嬉しそうにする。
「しかし、相当な料理の上手さだが、どこで覚えたんだ?」
「ええ、生まれた時から料理LV1はあったのですが……育ちの、孤児院でかなり厳しく教えられまして」
「孤児院……親いないのか」
「ええ、冒険者なんて、そんなのばかりですよ。支えのない人が、自分でお金を稼ぎたくて冒険者に手を出す」
「私も親いないですしね! 中学生の頃に居なくなってからずっと!」
明るく言うんじゃねえよ。シリアスな話だろ。
ステラちゃんも小鳥遊さんも親いないのか……シン日本ではよくある話なのか?
「それに、前話したでしょう? わたくし、紗城さんに助けられたと」
「ああ……」
本当にぜんぜん覚えてないんだよな。助けた子供は数多くあれども。
「わたくしは実は召喚者でしてね……子供の頃、まだ物心が付きたての頃に、異世界に来たのですわ。なのでほぼ異世界育ちみたいなものですが」
「マジで!? 召喚者!? いたんだ! 全然遭遇しなかったけど!」
「ええ。転生者、召喚者も普段からはそんな話しないのが普通ですし」
「ナシさんにそんな過去が、知らなかった……」
ステラちゃんまで! 大分、秘密にしていた話なのだろうか。
「それで一人寄る辺もなく、凍えたところを人さらいにあって、大変な目にあっていたところを紗城さんがかっこよく……紗城さん?」
俺は、その話を聞いて……非常に罪悪感を覚えていた。
「本当に申し訳ない……そんな大変な目にあったのに、覚えてやれなくてすまない……」
「いえ、そんなそれは本当に仕方ない事なんで……本当に気にしてないですよ?」
こちらの方が気になるんだよ……しっかし、いくらたくさんの子を助けたとはいえ、ここまで思い出せないものか。異世界での生活も長くて、大分記憶も摩耗してきたしなあ……
「まあ、覚えてないものはしかたない。その分これから……積み上げていけばいい」
「わたくしの身の上話をしたかった訳でもなく、料理の話をしたかっただけなのですが……」
「ああ申し訳ない。それで続きを」
「それで助けられた後、シン日本の人に会って、こちらに来て孤児院で育てられたのですが……そこが結構厳しくてですね、自給自足できるようにと自分で畑を耕したり、身一つでサバイバルしたり、料理の技術も教えてもらいまして……」
随分アグレッシブな孤児院だ。
異世界の過酷な環境ならともかく、シン日本なら自給自足までする必要はなかったと思うが……
「そのおかげで冒険者にもなれたわけですわ」
「それでも料理LV3まで行けるって事は相当な才能があったってことだな……」
「ええ、そうでしょう?」
小鳥遊さんは、俺の手を掴む。
「この料理も、いつか、紗城さんに食べさすための物。一瞬出会ったばかりで、ずっとあえていませんでしたから……どうです、少しでも、お礼になったでしょうか」
「お礼って、このシン日本に連れてきてくれただけでも、十分嬉しかったよ」
「それだけではありません! 命の恩人に、今まで何も返せなかった分、何でもして紗城さんにお返ししますから!!!」
「お、おう……」
随分と重い感情をぶつけてくるな……恩人相手となれば、そうなるのでしょうか。
「それで、まずは料理を毎日三食作って食べさせてあげるくらいはしてあげますわ」
「そこまではしなくても……」
「栄養管理はしっかりとしなくてですわ。ところで紗城さんは、普段どんな料理を食べてますので?」
「カップ麺」
「はぁ!?」
キレられた。
「おい待てよ、カップ麺美味いんだぞ! 異世界にはねえんだぞ! 元の世界のかたよった栄養と違い完全栄養食になってたりするから健康面でも問題ないし……!」
「紗城さん」
「はい」
「わたくしが毎日お家に通って、ご飯作ってあげますわ。いや作ります」
「いやあの……そこまで手間かけさせるのは申し訳ないかなって」
「毎日食べたいって言いましたよね?」
「いやまあ、はい……」
「それに……またステラさん絡みで変なことをしないか監視もしないといけないですしね……うふふ……手の先足の先までじっくり変なことをしないか見させてもらいますわ……!」
恍惚そうに笑う。
……。
まあ、俺に不都合はないからいっか。
ご飯食べさせてもらった後追加でカップ麺食えばいいだけだし。
***
「あっそうですわステラさん!」
「ガツガツ……、ぐふぉっ!? あっはい!? なんですか!?」
二人が話していたところガン無視で料理食っていたところを、急に話しかけられ、食べ物が中に入りそうになりむせている。
「言い忘れてましたが、S級予備役に関してギルドからお呼び出しがありましたわ。明日、向かうようにとの事です」
「えー大丈夫かな、怒られないかな……」
「大変だなステラちゃん」
まあ、俺には関係のない話だ。
「あと、紗城さんもですからね」
「ええ!? なんで!?」
俺とステラちゃん、ギルドに呼び出し。
……マジかー。何言われんのかな。
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