第26話 2人のために
ミミはジャクソンと2人で話せる場所へ移動した。人気のない安全な場所。とはいえ、エドワーズの城の庭園になってしまったのだが。
「突然押しかけて申し訳ありません」
「いえ、ちょうど手が空いている時間でしたので、大丈夫ですよ」
ジャクソンはミミに優しく微笑む。2人は庭園のテーブル席に腰を下ろした。
「お話はエドワーズ様とマリア様のことですね?」
「ええ……エドワーズ様はお元気でらっしゃいますか?」
「……眠れず食事もまともに取れてません。無理にでも召し上がっていただきたいのですが……」
ジャクソンは苦しげに顔を歪める。
「そうですか……マリアお嬢様も同じです。もし、今回お2人がご結婚出来ないのだとしても、一度2人でお話をしていただきたいのです」
「お話を?」
「ええ……。お2人が納得の行く形に収まるように」
「そうですね……ですが、状況は厳しいと思います。あれ依頼エドワーズ様は監視されていますので」
「監視ですか?」
「ええ……こっそり抜け出してマリア様の元へ行かれないように……と。国王様のご命令により監視されています」
「一国の王子を監視ですか?」
「おかしいことでも、それが国王の意向なのです」
「では、どうしましょう?」
「来月、婚約発表の式典があります。その時を利用するのはどうでしょうか?」
「そうですね。その時にお2人を引き合わせましょう」
* * *
ミミが城へ帰るとマリアが頼みがあると近付いて来た。
「私、刺繍を上達させたいの」
「刺繍……でございますか?」
「ええ……私、刺繍だけは苦手で……でも、エドワーズ様に気持ちを込めて刺繍をしたハンカチを差し上げたいの」
「それは素晴らしいですね」
「ここ何日かずっと辛かったわ……。でもね、私思いましたの。エドワーズ様の為に身を引いた私が不幸でいてはいけないって。だから、前へ進むためにもエドワーズ様に刺繍のハンカチをお渡ししたいの」
マリアは目線を伏せながら話続ける。
「こんなに誰かを好きになったのは初めてなの。きっと、エドワーズ様以外の殿方は愛せないわ。……でもね、それでも構わない。私は幸せに生きるわ。もちろんエドワーズ様にもお幸せになってほしいわ」
気付くとマリアの頰を涙が伝って行く。
「マリア様……」
マリアの健気な姿にミミは胸に込み上げて来るものがあった。
「……ミミ。ありがとう」
「なんですか? 急に」
「いつも私に寄り添っていてくれるでしょう?」
「当たり前です。お嬢様は私の大切な主なんですから!……勝手に妹のように思わせて頂いてます」
「ふふ、ありがとう。私もミミのことをお姉様のように思っているわ」
マリアはミミに向かって柔らかな笑みを浮かべた。
「光栄です。お嬢様」
それからミミに刺繍を教わりながら、ハンカチに刺繍を施して行き、完成した日の夜。疲れたマリアはハンカチを手にしたまま、寝落ちしてしまった。
* * *
マリアは目を覚まし辺りを見ようとすると、そこにいたのは真凛の母親と医師だった。
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