第19話 乙女の恋

 少しだけ沈黙になり、再びパトリシアは話しかけて来た。


「お2人のこと聞いてもよろしいかしら?」


 その問いにマリアは一瞬戸惑ったが、すぐに笑顔を見せた。


「ええ……私達、許されない仲なんです」


「どういうことですの?」


 パトリシアは何故か凄く興味津々だ。


「親同士の仲が悪いんです」


「……まあ!」


「それでも、私達は諦めきれなくて今、一緒にいるのです」


「まあ! 素敵ですね!」


「え? 素敵ですの?」


「ええ、許されない男女の恋。その想いを貫き通す美しく若き2人」


 パトリシアは何故かうっとりしている。


「パトリシアさん?」


「パトリシアと呼んでくださらない?」


 鼻息荒くパトリシアはそう申し出た。


「えっと……では、パトリシア」


「はい、マリアさん!」


「もっとお話が聞きたいわ!」




* * *




 パトリシアの家へ着くとメイドが出迎えてくれた。庭に面した眺めの良い食堂へ通され、マリアは実家を思い出す。


――お父様にお母様、お兄様も……心配してるよね?


「……なんですか?」


 パトリシアがマリアに声をかけるも、上の空になっているマリアには届いていない。


「マリアさん?」


「あ……」


「どうされましたの? お食事がお口に合わないかしら?」


「いいえ、とても美味しいです」


「そう?」


「……実家を思い出しました」


「……ご実家を? そうよね」


 パトリシアは食べていた手を止め、マリアの顔を真っ直ぐに見つめた。


「ごめんなさいね。お辛い事情があるのに……」


「いいえ。私の方こそごめんなさい。せっかくお食事にお招きして頂いたのに、上の空になんてなってしまって」


「……分かってもらえる日が来ると良いわね?」


「ええ……ありがとうございます、パトリシア」


 マリアはエドワーズとの未来に夢を見つつも、真凛としては結末を知っている為、これから変えていく為に頑張りたいと思っていた。


「マリアさん、もしも奇跡が起きてお2人が結婚されるなら是非、私も呼んでくださいね」


「ありがとうございます」


 パトリシアに笑顔を向けるものの、マリアとエドワーズが結婚……そんな日が訪れるのか、本当にマリアとエドワーズの結末を幸せな結末に出来るのか?今の真凛には見当もつかなかった。


「さ、お食事が途中でしたわ! いただきましょう」


「ええ」



 数時間後、パトリシアは食事を終えワインを、マリアはぶどうジュースをたしなんでいた。



「私も、マリアさんとエドワーズさんのように運命的な出逢いがしたいですわ……」


 パトリシアはワインを飲んで酔って来たのか、先ほどからずっと同じことを繰り返している。


「パトリシアは美人ですもの。きっと素敵な殿方に見初めて頂けますよ」


「そうかしら? そうだと……良いわ」


 そう言うとパトリシアはテーブルに突っ伏して眠ってしまう。


「パトリシア?」


 すかさずメイドが近寄ってくる。


「お嬢様。いつものことですから、大丈夫ですよ」


 パトリシアのメイドはマリアに優しく微笑んだ。


「お嬢様はお酒が強くないんです。ですが、好きなので飲んでしまわれるんですよね……」


「マリア様」


「はい」


「まもなく夕方になります。暗くなる前にお帰りください。お嬢様には私からお伝えしておきます」


「ええ……ありがとうございます。では、失礼致します」


「お気をつけて」


 メイドはマリアに深々と頭を下げた。

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