第16話 パン屋
エドワーズは奥さんから対面販売のやり方を教わる。
「あんた、見た目が綺麗だからお客さん増えるかもね」
奥さんは冗談めかしてそんなことを言う。
「僕目当てで来られても……」
「そうだね、うちはパン屋だ。パンで勝負しないとね。まぁ、でもお客さんが増えるのは良いことだよ」
奥さんはそんなことを笑いながらエドワーズに言ったのだが、数時間後それは現実になっていた。
数時間後。近所の御婦人達がエドワーズの対面販売に押し寄せている。
「順番に対応いたしますので、お待ち下さい!」
溢れかえるお客さんに奥さんが叫ぶ。
「うちのパンが先よ!」
「何言ってるの? 私が先よ!」
御婦人達が順番で揉めているようだ。
「美しいご婦人方! 並んで下さい。順番に対応致しますから」
エドワーズの美しい笑顔に御婦人方はうっとりしている。
「はい、分かりました」
目がハートになっている御婦人達は、すんなりと言うことを聞き、揉めていた御婦人達は譲り合うことになった。
「ありがとうございました!」
ごった返していた人も引いていき、エドワーズは一息付く。
「お疲れ様」
疲れを感じていると、奥さんが声をかけてくれた。
「お疲れ様です」
「疲れただろ? 今、ちょうどエドワーズさんにお客さんが来てるよ」
「え? 客ですか?」
「……恋人かい? 凄く美人じゃないか?」
その言葉にエドワーズはハッとする。
「マリア?」
エドワーズは店の奥へ行くと、マリアが椅子に座っていた。手には包を持っている。
「マリア!」
「エドワーズさん!」
エドワーズはマリアに笑顔で駆け寄ると、マリアもまた笑顔を向けながら立ち上がった。
「どうしてここへ?」
「これを……お昼ご飯を渡していなかったので、サンドウィッチを作って来ました」
「マリア……ありがとう」
エドワーズは優しい笑みを浮かべながら、包を受け取った。
「いいえ。沢山の女性がいましたね」
「ああ……凄かったよ」
エドワードはやや遠い目をしている。
「よく入れたね?」
「ええ……
「そうなんだね」
「……人気がありますね」
マリアは少し複雑な気持ちになる。
「人気ね……僕は君さえいてくれたら、他の女性なんていらないよ」
真剣な熱い眼差しと思いがけない言葉に、マリアは頬が熱くなり、戸惑ってしまう。
「え……」
「マリア?」
「はい」
「どうしたんだい?」
エドワーズは分かっているのかいないのか、隣にいるマリアの顔をのぞき込んできた。
ますます至近距離になり、マリアの心臓の鼓動は激しくなった。
――このままじゃ、心臓もたない!
「エ、エドワーズさん!」
「何かな?」
「そろそろ帰りますね!」
「そうか。送りたい所だけど仕事中だからね……。気をつけてね」
エドワーズは不思議そうにしながらも、マリアに柔らかな笑みを浮かべた。
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