第19話 ペットスペース
竹包の注文を確定させると「チリリン」と音が鳴った。
初日にメニュースタンドを設置した時と同じ音。
マジジャンに慣れていたので、部屋に取りに行く必要があるかと思っていたが、こちらは店舗アプリでの操作。店舗内で、完結した。
作業台の上に現れた竹包を掴み、一応汚れ等の問題がないか見る。
確認結果は、もちろん大丈夫。
あまり時間をかけるわけにもいかないので、まずはササっと各容器へと塩おにぎりをのせ、終わったら最後にまとめて紐を結んでいく。
それが終わると販売スペースへと戻り、五つの竹包をジョーさん達へ商品を渡す。
「お待たせしました。一つの包みに四つ入っています。それが五つで、合計二十です。五千ウィッチお願いします」
「おう。釜が五枚だ」
「ありがとうございます。確かに。これから狩りなんですよね? お気をつけて」
「そうだな。まあ、オレが怪我するわけもねーけどな! あんがとよ。また頼みに来ると思うから、そん時はよろしく! じゃあよ」
ジョーさん達は、話しながら竹包を袋にしまうと出かけて行った。
次の予定は、いつもの子供との交換。
少し時間が空くのと、朝食が慌てていて少し少な目だったので、ホットショーケース上段の少し古い塩おにぎりを取り出し食べる。
海苔と具の入った物のあとに食べるとわかる。シンプルだが、こっちも悪くない。というか美味い。
丁度食べ終わって水を飲み、販売スペースに戻ったところに子供がやって来た。
召喚できる量も増えた事だし、気前よくおまけをつけて塩おにぎり二つ渡してやった。
去り行く子供を見届けて、厨房へと入りながらふと考える。
あの子供いつも百枚も用意してくるけれど、この葉っぱはそんなにたくさん採れるものなのだろうか。しかも一人で。
朝と夕方頃と考えると、時間は結構空いているので無理ではないと思うが、どうなのだろう。仲間とかいるのだろうか。だとすれば少し余裕が出てきた今なら、多めに塩おにぎりを渡すこともできる。
しかし以前トリスさんに言われたように、関わりすぎるのもトラブルの元。
外はどうなっているのか等と考えていたら、突然タブレット端末が「にゃあにゃあ」鳴りだした。
慌てて確認してみると『タツルが呼んでいます』と表示されていた。
急いで部屋に戻ると「ギィア! ギィア!」と鳴いている。
抱きかかえ、あやすように腕を動かしゆっくりと揺すってやる。
「よーしよしよし。ほっといて悪かったな」
困ったと思いながらも、可愛くてしょうがない俺がいる。
ただ、あまり頻繁に呼ばれるのも問題。
何か解決方法がないかと考えるが、衛生面を考えると店舗へ連れて行くのも、やや躊躇してしまう。
これは食品の衛生の問題もそうだが、厨房の床が調理していないとはいえ、地球での印象のせいかなんとなく汚れているイメージがあり、タツルにとって良くないかもしれないという考えからだ。
籠から出ないのなら良いだろうが、小さいながらも案外元気に動く。
困った時のタブレット端末さん!
ということで、何かないかと確認してみる。
店舗のところに新着マークを発見。
期待半分、嫌な予感半分といった気持ちで見てみると「ペットスペース」という項目が追加されていた。
内容としては、店舗内にキッズスペースみたいなペット用の場所を配置できる機能のようだ。閉店時なら設置しなおして、移動させることも可能となっている。
大きさは、一辺二メートルの正方形でちょっとした木のアトラクション付き。もちろん逃走防止用の柵も込み。あと小さな水場とトイレもある。
問題の設置費用だが、なんと驚きの一万ウィッチ!
「高っ!」
そう高い。高いのだ。
だが今なら払えてしまう。所持金は、およそ一万五千ウィッチある。
少し迷ったが、腕の中で「ギィア! ギィア!」と鳴くタツルに負け、結局設置することを選択。
一度部屋にタツルを残して、店舗側に移動しオーニングを閉める。
それが終わると部屋に戻り、設置。
場所は、とりあえず対応しやすいレジ側にした。
物理的にスペースが足りないはずなのだが、そこは魔女の不思議パワー。店舗に移動してみると、全体的に店舗内が広くなっているようで綺麗に設置されていた。
時計をみると八時を過ぎていたので、タツルを籠にいれてペットスペースへと連れて行く。
中で放すと、こちらが見える範囲に居れば安心するようで、特に鳴くこともなく大人しい。畳のような植物で出来た床の匂いが気に入ったのか、頻りに嗅いでいる。
「タツルよ。お前、俺より金かかるな」
返事を期待してなかったが、こちらをみると「ギィア!」と鳴いた。
一先ずこれなら大丈夫そうかと思い、再度オーニングを上げ営業を再開する。
開けて少しすると、いつもより早いがトリスさんがやって来た。
一瞬ペットスペースの拡張で、あちら側の店舗に食い込んでしまっているのかと、怒られることを予想し構えてしまったが、違った。
「おはよう。トーヤ。さっきチラッと見たら、閉めてたから驚いたぞ。何かあったのか?」
「トリスさんおはようございます。ちょっと店の中の配置変えたんですよ。そちら隣ですけど、何か不具合とかないですか? 大丈夫ですかね?」
「ん? そうなのか? うちの方は問題ねーけど、見た感じ変わったのがわかんねーな。どれどれ」
そういうと、トリスさんは店舗の中を覗き込んできた。
「なんだぁ? ありゃ魔獣の子じゃねえか。店で飼い始めたのか?」
「いえ。今日一日預かってる感じですかね」
「ほおん。魔女の店だし色々大変だな」
「ははは。そうかもしれません。朝から大騒ぎですよ。あっ! そういえば、用意出来る商品が増えたんで良かったら試していただけませんか?」
「おっ! んじゃ、一つ頼むわ。いくらだ?」
「あー。そうでした。値段決めてなかったな。でも、トリスさんにはお世話になってるので、今回は初回無料ってことで!」
「そうか? わりぃな」
厨房に入り鮭おにぎりを一つ召喚し、葉っぱで包む。
「お待たせしました。新商品の『鮭おにぎり』です。是非感想をお願いします」
「ありがとよ。んじゃここで食ってくか。ってこの黒いのなんだ? これ外して食えばいいのか?」
「それは海苔って言いまして、海藻、海の草で出来た紙のような物ですね。ちゃんと食べられる物です」
「この黒いのが食えるのか? また変なもん売るんだな」
「ちゃんと加熱されてるので、大丈夫のはずです。中の具は、魚です。出来れば海苔ごと食べて欲しいですが、心配なら外してもいいですよ」
「いや。食えるなら食うぜ。んじゃいくか。ん? パリパリしてていいな! 味も心配してたのと違って悪くねぇ! 魚も入ってて随分贅沢なもんだな。見た目がアレだけどよ!」
トリスさんは最初は躊躇していたが、食感と味が気に入ってくれたのかそのまま一つ食べきってくれた。
「うん。こいつも前の塩おにぎりと一緒で、何個も食えそうだ。食べ慣れると癖になるだろうな。ただ、さっきも言ったが見た目がなぁ。とりあえず、またコレみたいなの作って商品説明書いておいた方がいいぜ。んじゃ、ありがとな」
「そうですね。メニュー作っておかなきゃ。ありがとうございました」
トリスさんが戻って行ったので、言われた通りメニューを用意しようと店舗アプリを開く。
そして残金と金額を見て絶望する。
そういえばメニュースタンド追加費用が五千ウィッチ。手持ちが五千百ウィッチ……。
設置するためにタブレット端末をタップする指が止まってしまう。
端末から一度視線を外し、チラリとレジ横を見ると無邪気に遊ぶタツルが目に入る。
「タツルゥゥゥ」
金欠の原因となっているかわいい従業員さんへ近づき抱き上げて、しばし現実逃避をした。
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