第19話 水車の回る音(1)
クレイさんが作ってくれたバットは文字通りの鉄の塊、それも鋼鉄で作られたから、とんでもなく重かった。
考えてみれば、野球部で使っていたバットは、同じ金属バットでも最先端の合金技術と鋳造技術を使って耐久度と軽量化を極限まで追求したアルミバットだった。
私の記憶を頼りにして作ったから長さや厚さはほぼ似ていても、重さだけは比べ物にならなかった。
野球部時代、練習用に重りをつけてバットを振ったことが思い出すくらいだった。しかしこれはそれよりもはるかに重くて、初めてバットを握った時は、まともに振るどころか、むしろ私がバットに振り回されるほどだった。
そんな私を助けてくれたのが、他の誰でもないオルソンだった。彼は村の仕事で忙しい最中でも、時々訪ねてきて戦い方を教えた。
「右!左!今度はまた下!」
オルソンにはコーチの資質もあったみたいだった。戦いの素人である私を彼はとても上手に指導した。
本当に器用な人だ。
「少年が元の世界でどんな運動をしていたのかは知らないけどさ。他のことはともかく目と手の協応力(ハンド・アイ・コディネーション)だけはとても優れている。
これをしっかり鍛えれば、並みの剣士には相当負けないだろうね。」
そう言いながらも、オルソンは私を木刀で容赦なく殴り倒した。
「だとしても、運動と戦いは全然違うぞ!
多くの素人剣士たちが死んでいくのは、実力が足りないためでもあるが、死に対する恐怖がもっともの原因なんだ。
真っ直ぐに相手の剣先を見るべきなのに、目を閉じてしまうんだよ。
このようにな!」
「あっ!痛い!うぅっ…」
「ほら、見た? これでまた一本だよ。 だから何があっても目を閉じたり逸らしたりすんな。
怖いのは分かるけど、死ぬのはもっと嫌だろう?」
「そうです。」
「じゃあ、死んでも目を開けたまま死ぬ覚悟で戦えよ。沙也の嬢さんを未亡人にするんじゃね!」
「違いますってば!」
こんな感じだった。
それでも毎日筋トレと共にバッティングす練習をすると、少しずつ…いや、思ったより早く私は新しいバットに慣れていった。
「本当にそうなんだね。持って歩く様子が結構慣れてるみたいだわ?」
「そんなに練習をしてますから、マイヤーさん。」
そんな恥ずかしい訓練までして、警備の任務に努めており私だった。でも町中をうろうろしていたら、実は人手が足りないところに雑務で呼ばれることがもっと多かった。
先ほども、私は口笛を吹きながら通り過ぎていたところ、ちょうど製粉所のマイヤーさんに呼ばれてきたばっかりだった。
マイヤーさんは、亡くなった夫が経営していたコバフ村の製粉所を譲り受けついた活力溢れる女傑だった。
それに付け加えるとなかなかの美人さん。 オルソンがマイヤーさんに憧れていることは村人全員が知っている。 たぶんマイヤーさん本人も。
「ところで、この重い水車の歯車をいつも一人で手入れしているんですか?」
「たまにはオルソンが手伝ってくれるの。でも、ただでさえ村の仕事で忙しい人を毎回呼ぶわけにはいかないでしょう? だから私一人でやる時が多いわ。」
私が軸を支えている間、マイヤーさんは手入れの終えた歯車を一つ一つ元の位置に合わせた。
鋸歯がうまくかみ合うように調整する作業は非常に重要そうで、マイヤーさんは用心深く手を動かした。美しい眉間が少し顰められた。
「それでも一人でするよりは手伝ってくれる人がいる方がず…っと......楽だわ!
ふ、できた!もういいわよ。
ありがとう、ホウジ君。おかげであっという間に終わったわ。」
ギシギシする歯車掃除補助役という重大な任務を終え、今や本業である警備業務に戻ろう…としたらマイヤーさんが呼び止めた。
「どうしたんですか?」
「ああ、もしかしてこれが必要じゃないかと思って。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます