第17話 私の武器 (1)


自分の口で言うのも何だが、いろいろと大きな収穫があった。


一応、十日余りの時間の間、筋トレがかなり進んでいた。野球部活動に熱心だった頃よりも、より密度の濃いエクササイズをしたせいか、感覚的にはあの時よりむしろ力がついてるんじゃないかと思うくらいだった。


筋密度や体脂肪を測定できる体系的な機材どころか、簡単な体重計すらないここでは(秤はあったが、当然日本とは単位も違うしサイズも小さかった。)単純に感じに頼るしかないのは残念なだけだった。


もう一つの重要な進歩は、私に『ヒーリング』を使い続ける過程で瀬戸先生の能力に対する理解が深まったことだ。


アブサラから受けた力も立派なスキルだから、瀬戸先生もそれなりにコツがつくと、あれこれ応用が可能になった。いわゆるレベルアップになったというか。


治療の強さや深さを調整したり、別の2つの部位を両手で同時に治療したりすることも可能になった。


「もう少し練習すれば、もしかしたら遠隔でも 『ヒーリング』が使えるようになるかもしれませんね。」


もしそれが可能ならばいわゆる『広域ヒーリング』や『範囲ヒーリング』も可能になるだろう。これは私の筋トレに劣らず…いや、もしかしたら私たちがここで生きていく上でさらに重要なマイルストーンになるかもしれないという気がした。


「私はどうなの、法次?」


「おお、沙也もずいぶん上達したじゃん?」


料理の腕が。


いや、冗談ではなくて、本当に料理がもっと美味しくなっていた。


この前『筋トレするならちゃんと良いもの食べないと。』と、あれこれ作ってあげると乗り出した沙也だった。


最初はどうしても喉を通せないものを何度か無理やり食わされたこともあったが、腕前がいい沙也はすぐに美味しくて健康にも良さそうなものを次々に作り出した。


「特にこの味噌スープは本当においしいんだけど?体に染みる…」


「えへへ。瀬戸先生の味噌のおかげだよ。 きちんとした味噌汁を作るのは大変だけど、こうしてでも日本の味を忘れないでいられるでしょ?」


「双美さんは頑張り屋で頭もいいですからね。私は覚えている通りに真似してやっとはんぱな味噌を作っただけなんですが、双美さんは優れたアイデアで素晴らしいレシピを作り出したから、私よりずっとすごいです。」


「えへへ。瀬戸先生、恥ずかしいですよ。」


ジャガイモの塊が浮いている味噌汁?味噌スープ? 厳しく言えば味噌シチューに近いものだが、とにかく飲んでいると体が温かくなる。


その時、公民館のドアをトントンとノックする音がした。残りのスープを飲み干して外に出ると、鍛冶屋のクレイさんが朝から元気よく立っていた。


「おはようございます、クレイさん。 どうしたんですか?こんなに朝早く?」


「おはよう。 食事中だったのかい?」


「ちょうど食べ終わったところです。どうぞ。」


リビングに入ったクレイさんは、布でぐるぐる巻かれた細長い何かをテーブルの上に注意深く置いた。


「クハハハハッ、朝から失礼だとは知ってるけどよ。これを伝えたくてじっとしていられんよ!」


「あ、じゃあ、もしかして?」


「そうだよ、ホウジ。あんたが頼んだやつがやっと完成してね。まったく、鉄屋して30年間飯食ってるけど、こんなものは初めて作ったぜ。」


私は注意深く「それ」をまとった布をほどいた。 まっ最初に目に入るのは、鋼鉄の重厚な金属感だった。


「法次、それって?」


食事をかたずけて出てきた沙耶は、『それ』を見て目を丸くした。後から出てきた瀬戸先生も、口をあんぐりとして呆れた顔で私を見ている。


「ああ、クレイさんに頼んでいた武器だよ。」


「いや、武器というか……それは…」


片手で握られるほど細いグリップ

しかし、剣なら必ずあるべきガードがない。


上の方に向かうにつれてだんだん刃が立つのではなく、むしろ厚くて太くなるボディー。その先端は拳を握ったように丸く仕上げられている。


また、柄の先に目を向けると、そこには柄頭ポンメルに当たるものがついている。

しかし…


「そういえば、こんな小石のように丸くて平らなポンメルは初めて作るよ。本当にこれでいい?」


「はい。そうです。これはポンメルじゃなくて、ノブ(knob)ですから。」


「ノブって、こんな変な形のメイス(mace)で本当に大丈夫なのかい?」


「これは…メイスじゃありません。」


クレイさんはどうしても納得できなさそうな顔をしていた。

でも私の口元には切ない笑顔が浮かべた。もうちょっといい顔がしたかったけどな。涙が出そうじゃない。


「これはバット、というもんです」




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