第12話 アブサラ (2)
予想外のことで日奈は慌てて両手を振った。
「いや、これはいったい…」
「あなたが今いるここは、次元と次元の間の深い狭間なんだよ。
次元は、自分のバランスと安定性を維持するために絶えず循環している。 そうするうちに歪みが発生することもある。そしてあなたのように関係のない人が巻き込まれることもなくはない。
本当に、本当に、ごくまれなことなんだけどね」
日奈は、日本でたびたび起きたりする地震を思い出した。マントルと地殻の動きの中で無作為に起こる自然現象。
アブサラは今、日奈と彼女の弟子たちがそれと似たような災難に巻き込まれたと言いたいのだろうか。
「しかし、三界万象は結局、運命の定めにより、本来あるべき場所に戻ることになっている。それを我々は道理に従うこと、つまり
「順理…」
「この次元の歪みもまた、本来あるべき姿に戻る。瀬戸日奈、あなたもまた、本来いるべき場所に戻ることになるわよ。」
日奈の耳には到底入らない大規模の話だったが、最後の一言だけははっきりと理解することができた。
「それは本当ですか? あるべき場所へ…ということは、私たちが元の世界に戻れるということですか?」
「うん、でも…」
アブサラは舞うように近づき、右手で日奈の左肩を撫でた。
「今すぐにはあなたを帰らせることができないわ、瀬戸日奈。
あなたが巻き込まれたことは、私たちとしても予想外のことだったから。対策を立てるには時間がかかりそう。」
「時間なら…どれくらい…ですか?」
「それは我々にも分からないわ。だが、最善を尽くすよ。君のようなイレギュラーは、我々にとっても大きな負担になるから。
でも一つだけ言っておくべきことがある。こっちの次元系の時間とあなたが体感する時間帯も同じじゃないから、正直なところ、どれだけの誤差が出るかは分からない。」
日奈は浦島太郎の話を思い出した。本当に元の世界に戻れば、どんでもないの時間が流れただろうか?
しかし、今はこのアヴサラの言葉に頼るしかなかった。
「その代わり、お詫びというには、物足りないけど…」
アブサラは今まで両手で握っていた杖を片手にもち、空中で何度か振り回した。すると、杖の先から白い光の塊が絡み合った。
その光が与える感じがまるで、教室で転移された時に見たその真っ白な光とよく似ていると、日奈は思った。
「これは私の力の…いや、私の一部よ。 これを今からあなたの中に入れておくね。」
アブサラが杖の先を日奈に向けると、その光の塊はゆっくり日奈のところへ移ってきた。まるでビー玉のように日奈は両手で用心深くその光を取り込んで包んだ。光は体の中で暖かい熱となって、体中の隅々まで広がっていった。
今まで感じたことのない優しい力が全身に溢れ出した。太陽に温まれた南国の海水に身を任せたような安らかさにしばらく感動していた日奈は、いつの間にか自分の前からアブサラの姿が消えたことに後になって気づいた。
「アブサラさま?」
「これで、日奈、あなたはもう私の力をある程度借りて使えるようになったわ。
私たちがあなたを助ける方法を見つけるまで時間を稼ぐことができるはずよ。きっとあなたなら、賢く私の力を使えるだろう。
そう、汝なら。」
アブサラの声が遥かに、こだまのように響き渡った。
……汝は私のアバタラ(Avatara)
……どうか汝自身を信じ、汝の歩みが導くままに進んで。瀬戸日奈
……すべては
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