第34話 書店の裏側

フェアが成功裏に終わり、真一は自分の言葉が人に届く喜びを改めて感じていた。それでも、アルバイトの日々はまだ知らないことばかりだ。本の並べ方やお客さんとのやり取り、書店という場所がどのように運営されているのか、少しずつ興味が広がっていった。


そんなある日、店長から新しい仕事を任されることになった。


在庫管理の仕事


「真一くん、少し複雑な作業になるけど、やってみる?」

店長が手渡したのは、在庫管理のリストだった。


「これから新刊が入荷されるんだけど、その準備と在庫の確認をお願いしたいんだ。この作業をやると、書店の裏側が少し分かると思うよ。」


在庫管理という響きに緊張しながらも、真一は挑戦することにした。


書店の裏側に触れる


普段はお客さんが訪れる明るい店内とは違い、バックヤードは商品がぎっしり詰まったダンボールが並び、静かで整理整頓が求められる場所だった。


「これが書店の裏側か……」

真一はリストを手に、棚の中にある本を一冊ずつ確認していく。ISBNコードという13桁の数字を読み取り、データと照らし合わせながらチェックを進める作業は、単調ながらも集中力が必要だった。


途中、少し汚れた表紙の本が見つかった。真一がそれを手に取ると、店長が声をかけてきた。

「それ、長い間売れ残ってた本だね。でも、こういう本が突然売れることもあるんだよ。だからどんな本も、大事に扱わないといけないんだ。」


その言葉に、真一は本の一冊一冊に込められた価値を改めて感じた。


新刊の入荷


次に取り掛かったのは、新刊の入荷作業だった。ダンボールを開けると、新しい本の香りが広がる。書店のスタッフたちが黙々と新刊を棚に並べる中、真一もその一員として作業を進めていた。


ふと、一冊の表紙が目に留まった。それは、「未来に迷う人へのメッセージ」と題されたエッセイ集だった。

「今の僕にぴったりかもしれない……」

そう思いながら、その本を手に取り、少しだけページをめくった。


本の一節:

「未来に迷うことは、可能性がある証拠だ。どんな小さな一歩でも、それは未来への架け橋となる。」


その言葉が、真一の胸に響いた。書店で働く中で、自分の未来が少しずつ形になっていく感覚があったが、その迷い自体も大切なのだと気づかされた。


学校での共有


翌日、学校で良平にその話をすると、彼は大げさに驚いてみせた。

「お前、なんかもうプロの書店員じゃん。バックヤードのことまで知ってるなんてすげえよ。」

「まだまだだよ。でも、裏側を知ると、もっと本に愛着が湧くというか……この仕事がもっと面白くなってきた。」


真一の言葉に、良平は少し真剣な表情で言った。

「お前、本当に本が好きなんだな。それってすげえことだと思うぜ。」


その言葉に真一は胸が温かくなるのを感じた。


夜空に浮かぶ光


その夜、真一はアルバイトの日々を振り返りながら夜空を見上げた。本を並べる、管理する、勧める。その一つ一つが、自分の未来に向けた確かな歩みだと感じられた。


「どんな小さな一歩でも、それが未来を作っていくんだな。」


そう呟きながら、真一は新たな一日を迎える準備をしていた。星たちの光が、少しずつ自分の進む道を照らしているように感じられた。

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