第20話 1461日への確信

夜間高校に通い始めて数か月が過ぎた頃、真一は少しずつ自分のペースで生活を送ることに慣れてきた。それでも、未来への不安や自分の居場所への違和感は完全に消えたわけではなかった。


そんなある日、学校で「目標設定の日」という授業が行われた。各自が紙に、自分の目標や夢を書き出し、それを発表するというものだった。


紙に書くべきもの


先生が用意した白い紙が真一の机に置かれた。周りの生徒たちは、すぐにペンを動かして目標を書き始めている。

「将来は資格を取る」「独立して自分の店を持つ」など、次々と発表される具体的な目標に、真一は焦りを感じていた。


「僕には、何を書けばいいんだろう……」

手元の紙を見つめながら、真一は悩んだ。何も思いつかないわけではないが、それを形にする自信がなかった。


良平の言葉


「真一、お前の番だぞ」

隣の良平が小声で教えてくれる。真一は小さく息を吐いて立ち上がった。手元の紙には、たった一言しか書かれていない。

「僕の目標は……『自分を見つけること』です」


クラスの中が静かになった。その空気が重く感じられて、真一は続けた。

「正直、僕にはまだ明確な夢とか、やりたいことがありません。でも、夜間高校に通う中で、少しずつ自分の得意なこととか、やりたいことを探してみたいと思っています。それが僕の目標です」


話し終えると、先生が静かに拍手をした。それに続いてクラスの生徒たちも拍手をしてくれる。真一は少しだけ肩の力が抜けた。


「いい目標だね。見つける旅路はきっと君を成長させてくれると思うよ」

先生の言葉が真一の心に響いた。


帰り道の光


放課後、良平と一緒に帰りながら、真一はぽつりと呟いた。

「自分を見つけるって簡単なことじゃないよね」

「まあな。でも、お前の目標、結構いいと思うぜ。俺もさ、自分のことなんて全然分かってないしな」

良平はそう言って笑った。その軽い口調に、真一は少しだけ救われた気がした。


帰り道の夜空には、雲の隙間から星がいくつか見えていた。まだ暗闇の中にいるような気がしていたが、その先に小さな光があることを感じていた。


未来への決意


その夜、真一は机に向かい、ノートを開いた。目標設定の日の出来事を思い返しながら、自分の気持ちをノートに書き始めた。

「僕の目標は、自分を見つけること。そして、その先に何かを作り上げたいと思う」


夜間高校で過ごす1461日間が、自分を変えていく時間であると確信できた瞬間だった。


未来はまだぼんやりとしているが、その日々を積み重ねていくことで、自分の答えが見つかるのだと思えた。真一は1461日間を精一杯生き抜こうと、心に決めた。

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