しゅらららば15/一人と三人
カケル目を覚ませば放課後であった、すっかり日は落ちていて放課後を通り過ぎて夜だ。
寝起きでぽやっとした頭のまま風花と別れ、心配そうな顔をする四十路独身男性な担任に下駄箱まで見送られながらそのまま下校。
思えば今日は授業を受けていない気がする、得したような、しかし気絶していた事を考えればマイナスそのものの様な。
――ぐっすり眠れたからか、体調はいつになく好調で。
(歩いてたら段々と頭も目覚めてきたな。うーん……事故から三ヶ月ぐらい経ってるけど、まーだ体は本調子じゃなかったってコトか? いや、ストレスとか心因性の? ……仮にストレスだったら心当たりは朝っぱらから三人に取り合われた修羅場とか? だったら俺ってば心弱すぎじゃね???)
男としてはむしろ誇らしいシチュエーションであるし、カケルとしても少しぐらいは心が踊っていた訳であるが。
――いつの間にか駅に着き、己が電車に乗らず裏手へ向かって歩いていることに気づかず。
彼は考える、考えなければいけない事しかない故に。
(俺は車に轢かれそうなリラを助けてアスファルトに頭を強打した、俺がその場に居合わせた理由は不明、リラが居た理由も不明)
仮にリラが恋人であった場合、彼女を探して、或いは姿を見かけて追いかけて、という可能性がある。
彼女とデート中であった場合、恋人である事やデート中であった事を明かしていないのが腑に落ちない所だが。
一方で、記憶喪失に強い罪悪感を覚えているが故に言っていないととも考えられる訳で。
(俺に恋人が居たことは確かなんだよな、やっちーが恋愛相談に乗ってた言ってたし、思い出してあげてって言ってたし)
現在、最有力候補がリラだ。
今日、そんな彼女に話を聞けなかったのは痛手であるとも言えるが、一刻を争う事態ではないとカケルは己を納得させて。
(――そっか、菫子も知ってるっぽい口ぶりだった気がするな。やっちーと菫子にも話は聞けるってことか)
そう考えると、案外に聞けるヒトが多いのかもしれない。
だが。
(親に言ってないってのが気になるんだよなぁ、わざわざ言う事でもないんだけど)
最近のリラを見ていると、恋人関係になっているならクラス全員が知っていそうだし、両親に挨拶していても不思議ではない。
それに、どうも彼女が恋人というのはしっくり来なくて。
カケルは忘れてしまっても体や心が、なんて夢物語はそれほど信じていない訳でもあるが、少しぐらいはあるのかも、なんて。
(ま、リラが恋人だったら毎日が楽しそうだよな。いつも明るくて元気で、何でも言い合える仲だし、一緒に居て気が楽だし)
などと考えていると。
「――――…………あれ? ここドコだ??」
気づけば知らない場所、目の前には見知らぬマンションのエントランスの前だ。
ぐるりと周囲を見渡せば、知っているようで知らないような光景。
少し遠くに見える明かりは、駅であろうか。
(ははぁ、考え事してる間に駅を通り過ぎたか。ま、念のためにスマホで地図を――)
カケルはスマホと周囲を見比べながら歩き出した、その時であるマンションの駐車場に一台の車が。
見覚えのある白い車、保険医であり先ほどまで面倒をみてくれていた八千代風花の車だ。
(あ、ここヤッチーの住むマンションか、なら事故現場は近くだし地図無しでいけそう)
安心ながらカケルは足を進めたが、ひとつだけ致命的な事を思い出してしまった。
頭痛で気絶する前、己は保険医に何をしただろうか。
修羅場から助けてくれて、気絶して迷惑をかけてしまったというのに――。
(――いくら好みドストライクだからって、確かに他の奴らよりも距離が近いって思ってるけども!!! 相手は教師で大人で、俺は子供で生徒ッッッ、なんでキスしたんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! しかもあっさり受け流されてるしいいいいいいい!!! あ、明日からどんな顔をして……っ、いやそうじゃない、今度こそ土下座して謝罪しないとッッッ!!! くっ、俺はなんてコトを、いつも美味しいお弁当を作ってきてくれてるっていうのにッッッ!)
叶うなら今すぐ謝りたい、背にしているマンションに入って今すぐ土下座したい。
だが、生憎と部屋番号を知らないし、そもそも家まで押しかけてなんて迷惑そのものだろう。
カケルが青ざめながら歩いている一方その頃、少し時間は遡るが菫子は駅前のスタバに居て。
「――お願いっ、カケルとデートしたいんだよ~~っ!」
「それ恋人のあたしに聞きます(ゴ)リラ先輩!? ストレート過ぎやしません!? キョミ先輩も一緒にいるなら止めてくださいよ!?」
どうしてこうなったと言わんばかりの表情で、ずずっとホットラテを啜る。
リラとキョミに呼び出されたとなれば、それはもう吊し上げに他ならないと、これは完全なる宣戦布告どころかその場でバチバチに戦う気なのだろうと思っていた。
だがどうだ? 行ってみれば待っていたリラはモジモジと頬を赤らめて。
「その、ね? わかるでしょ? ボクってウブだからデートの仕方も誘い方もさぁ……、キョミは役に立たないし、こんなコト聞けるのは在賀しかいないからさぁ、まさかカケルに直接聞くのもアレじゃん?」
「あたしに聞くよりカケっさん先輩に聞く方が早いでしょうがっ!? え、……なんて答えればいいの???」
菫子は非常に困惑したのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます