1-16

【……こちらの、私の後ろに見えますこのビルの屋上から転落、死亡しました……】


  

 2hilの転落事故を伝える夏服姿の女性リポーター、その背後には山と積まれた花束が。


 ワイドショーの映像を背景に落ち着いた女性の声のナレーションが流れる。



【2hil……謎に包まれたアーティスト。ある日、彗星のごとくに現れ、アッと言う間に散っていった……】


 走馬灯のごとく、2hilのチャンネルに投稿されていた動画が流れていく。



【……転落事故から3年がたった今年4月。2hilがよみがえった……】



 新宿アルタ、渋谷スクランブル、109、原表参道、池袋パルコ……各地の大型ビジョンが瞬きする間で次々に映しだされていく。大型ビジョンにはすべて同じ映像が映し出されている――若い白髪の男。男の目は「2hil」と書かれたバナーで覆われ、「ニューアルバム『復活』発売」とのテロップ。




 画面には行く雲がごとくに白い文字が流れていく。


「ニューアルバム?」「2hilって誰?」「新譜なわけない」「どうせリマスターとかだろ」「死んだよね??」「マジか」「どういうこと?」「え? 2hil?」


 SNSで発信された「復活」のニュースに対する反応だ。「どうせ偽物だ」というコメントを明神は見逃さなかった。


【あなたは誰ですか?】

【2hilだよ】



 画面外にいるインタビュアーの女性にむかって2hilがこたえる。濃いアイシャドウ、アイラインでぐるりと取り囲まれた目はカメラ目線だ。




【2hilは死にましたが】

【よみがえったのさ】

【よみがえった、そんなことがありえるのでしょうか】

【信じたくなければ信じなくていい。でも、誰が何と言おうと、ボクは2hilだ】

【証明できますか?】

【……いいだろう】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る