▽第20話 猛進する重火力

 私とホトバの模擬戦。

 始まろうとするカウントダウンは止まらない。

 緊張は高まり、殺気も高まる。


「来る……行く、殺す気で」


 そしてカウントダウンは0を示した。


「さぁ行きますわよー! アタクシのイズレットマシンガンが火を噴きますわー!」

「来た!」


 模擬戦が始まった。

 ホトバの構えた武器――イズレットマシンガンから重厚な発射音が鳴り響き、弾幕の如く次々エネルギー弾が飛んでくる。

 これに対してやることはまず避けること。人間から大きく離れた身体能力で寄ってくる弾をしっかり目視で捉え、走って跳んでを繰り返して避けていく。


「ほらほら、避けるだけじゃ終わりませんわよー!」


 それは百も承知。今は回避を優先して弾幕の隙を狙う。弾幕ゲーのような感覚では当てられて押し負けるだけだ。


「それともたくさん弾を当てられて喘ぎ散らかす方がお好みですのー? アルクはドMですのー?」


 弾幕をまともに浴びたら喘ぐどころか失禁からの気絶は間違いなし。

 ドMなところがあるのは否定しない。だけどまだ社会的に死ぬ訳にはいかず、ひたすらに隙を狙って避け続ける。


「弱まってきた」


 避け続けていれば、弾幕の勢いが目に見えて衰えてくる。

 よく見るとホトバの武器から煙が上がっていた。


「よく避けますわね、すっごいですわー! あなたの華麗に避ける姿を見て、アタクシのマシンガンはアツアツになっておりますわー!」


 声に出してくれて分かりやすい。つまりホトバの銃は冷却中で撃てないということ。

 こんなのにも分かりやすく隙が出来た。

 反撃のチャンス。


「今度はこっちから!」


 セレクターをRに変更、チャージなしでマルチプルエネルギーガンを連射。

 弾幕がなくなったところでホトバに一気に撃ち込む。

 しかしホトバはこちらのエネルギー弾に対して少しの回避動作もせず、まるで受け入れるかのように全弾命中した。


「あぁ……♡」

「!?」


 確かに全弾命中した。

 非殺傷モードでも当たれば相当な痛みがあるはず。私が体感し、バツザンでさえ三発で耐えられなかった攻撃だ。

 それなのにホトバは口角が上がり切った歪んだ笑みを浮かべ、痛みが最初からなかったかのように余裕で立っていた。


「アハハハハハ!」

「どうして……」

「バツザンの言っていた通りですわ! 来たばかりの素人な一般人なのにこんな本能的に獣兵個々の身体特性を活かした戦い方、確かに本物ですわーっ!」


 ホトバは微動だにしていない。こちらの攻撃を全て受け切り、ニコニコで声を大にして話している。


「本物と分かった以上は小手調べの手加減はもうやめですわ! あなたのことをたくさんいじめていじめていじめ抜いて、あなたの中にアタクシの煮えたぎる熱血をドップリぶち込んで差し上げますわ!」


 ホトバは高揚しながら本気を宣言。一歩踏み出し、徐々にこちらへ近付き始める。


「熱烈じゃん?」


 セレクターを2に変更。

 ホトバはエネルギー弾に対して耐性があるのか、それとも痛覚を消しただけのスーパーアーマー状態か、どちらにしてもフルチャージを当てれば一撃必殺のはず。


「あなたがその気にさせてくれるんですのよッ!」


 そう考えている間にホトバが走り始めた。

 人間より遥かに速いスピード。ランニングした時のシエルより速い速度で迫ってくる。


「寄られる!?」


 少し反応が遅れただけで交戦距離が一気に縮まる。もう目の前だ。

 これで発砲、目の前で連射されようものなら流石に全弾は避けられない。ここは後ろに全力で跳躍、一気に離れて敵弾を避けられる距離を作る。


「流石は猫型ですわ。回避重視の高機動な身体特性ですぐ距離を離されますわね。でも逃げるなら追い回してあげますことよー!」


 しかし距離を離してもホトバが再び距離が詰めてきた。しかもイズレットマシンガンの冷却が終わり、弾幕を放ちながら走ってくる。


「チャージを……!」


 距離を離しつつ弾幕を回避。マルチプルエネルギーガンの引き金を引きっぱなしにしてフルチャージを維持、攻撃タイミングを見る。

 撃ち続けていれば冷却するはず。その隙に撃つ。


「さっきのは手加減だと言いましたわよ!」


 ホトバの攻撃パターンが変わった。

 連射し続ける派手な弾幕を止めて、まるでこっちの動きを読んでくるような丁寧な射撃をしてくる。


「くっ!?」


 当然と言わんばかりに進行方向に弾を送り込んでくる。そんな偏差射撃に対応して回避しても、直後に弾幕が送り込まれて回避を何度も強要される。反撃の隙なんてない。


「隙を探さないと、一瞬だとしても……」


 弾を見て何度回避しても反撃の隙は見出せない。

 だから今度はエネルギー弾だけでなく、ホトバの動きも見る。隙を見出すにはこれしかない。


「目があった。アタクシを見ましたわね、弾ではなく!」


 意識を向けるべきはホトバとホトバが撃つ弾。敵弾に意識を向け過ぎるのはダメ。意識を回避重視から攻撃にも振り分ける。


「本当にすごいですわ! たった三日の素人が半年以上も鍛えたアタクシと対等に戦えるなんて!」


 私に迫ってくる弾を見過ぎず、ホトバを視界から外さない。

 そして見えてくるものがある。

 彼女は私を追い回して攻撃してくる。つまりは猪突猛進。

 先ほど全弾当たったように回避する素振りはなく、私やバツザンみたいに弾を目で見ていなかった。


「やれる」


 回避しながら撃てばいい。難しいことじゃなかった。

 早速実行に移し、回避した直後の次弾が来ないコンマ数秒の間に猪突猛進してくるホトバ目掛けてフルチャージし続けたマルチプルエネルギーガンを放つ。


「当たった!」

「オッ!?」


 やはり猪突猛進で回避する素振りは全くなく、回避しないホトバにフルチャージが直撃した。

 ゲームでは一撃必殺のフルチャージ。非殺傷だけど大ダメージのはず。


「ホホホホホホッ!」

「ちょっ!」


 確かにフルチャージを当てた。でもホトバは止まらない。

 止まる気配が一切なく、また私に突進してくる。


「それならもう一回!」

「逃がしませんわー!」


 距離を離そうとするが、進行方向に弾幕が置かれて移動を妨げられる。別方向に逃げようとしてもまた弾幕で移動を妨げられる。


「捕まえましたわ」


 移動を全力で遮られて逃げられない。

 私が足を止めてしまった間にホトバが数秒とせずに目の前まで迫ってくる。

 手を伸ばしてくるホトバ。私が反応するよりも速い。


「ぐぁ!」


 捕まった。

 私の首をホトバの手が掴んでくる。しかも片手で、この容姿から全く想像出来ないほどの馬鹿力。

 彼女の腕を掴んで引き剥がそうとしても離れず、暴れても離してくれない。

 それならとマルチプルエネルギーガンのセレクターをRに変更、銃口をホトバの脇腹に向けて引き金を引きっぱなしで連射する。


「屈せず反撃してくるなんて、とっても懸命で・す・わ!」

「がぁ! ぁぁ……!」


 首を一気に絞められる。息が苦しい。何度も撃っているのにまるで効いていない、手を離してくれない。彼女の力に押し負けて中腰にさせられる。


「さて大きな猫ちゃん」

「ごほっ……ぁ……」


 ふとももに寄ってくる熱気。そんな熱気を放つ、彼女がもう片方の手に持った銃。煙を出している銃口がふとももに迫ってくる。


「お口を大きく開いてくださいまし!」


 その熱気――銃口が一気にふとももに接触してきた。


「あぁぁぁぁぁ……ッ!」


 ふとももから駆け上がる熱、痛み。口と脳が叫ぶ。銃が手から落ちる。


「良い音色♡アタクシ好みの成熟した可愛い声♡」


 熱が離れていく。痛みがふとももにジンジンと残る。


「お顔も素敵ですわ♡必死で、可愛くて、下品で、これがアヘ顔というものですのね」


 息が出来ない。舌を出してでも息をしようと本能で体が動く。


「さぁアタクシの熱血を早速ぶち込んで差し上げますわー!」

「んぉぉぉ……!」


 ホトバの顔が近付いてきて、舌と舌が絡み付く。

 ねっとりと激しい絡み付き。色気の混ざった漏れる吐息。唇が重なって、私の初めてのキスを奪われる。

 息が苦しくて感情も考えも纏まらない。

 ホトバの熱く、少々長い舌が私の口の中へと入ってくる。

 彼女の長い舌が私の根本まで激しく絡み付く感触。私もホトバも唾液を垂らし、勢いが止まることはない。


「ぁぁ……あぁぁ……」


 私はホトバに貪られている。

 段々と苦しくて眠たくなる。


「んぅ! はぁッ!」


 そしてホトバの貪りは終わった。

 長い舌が私の中から出て来て、たっぷりの唾液が糸を引きながら垂れ落ちる。


「勝負は付いたわね」


 戦いが終わったという宣言。

 私は首絞めから解放された。


「はっ……ごほっ、ごほっ……」


 ようやく息が出来る。呼吸が出来る。

 四つん這いになって呼吸を整えようとすれば、口からどっぷりと唾液が垂れ落ちた。

 段々と感情も考えも纏まってくるとエロいという感情が湧き上がる。


「引き分けよ」

「はぁ……はぁ……引き分け?」


 何発も撃ち込んだとはいえ、私はホトバにメチャクチャにされていた。

 引き分けなんて到底思えない。


「どういう、こと?」

「アタクシは興奮することで痛覚を完全に無くすことが出来ますの。でも痛覚がなくなるだけで身体にダメージは蓄積しますわ。捕まえるまでに散々撃ち込まれてますし、これが実戦だったらアタクシはあなたを道連れにして死ぬだけでしょうね」


 ホトバの種明かし。

 つまるところは興奮時限定の痛覚を消したスーパーアーマーか。こちらの攻撃が効いていない訳ではなく、痛覚を消して耐えていたのが正解だ。


「さて、戦いは終わり。アタクシは戻ってくる痛覚に耐えるために少し休んでいますわ」


 そう言ってホトバは休む。私も少し休もう。

 ちょっと濡れちゃったし、変に湧き上がる気持ちを抑えなければならない。

 そうやって二人で休み、二度目の模擬戦は終わりを迎えた。

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