▽第18話 お名前ですわー!
失言と土下座から始まったトレーニングから数時間後。
「はっ……はっ……」
一つ一つのキツい筋トレ、運動をこなした私は息を切らして疲労していた。
もう動けないと体が訴えている。そんな私に対して他は息を切らしてもまだ動ける人が多い。一方で私と同じく限界に達していて倒れている人もそれなりにいた。
「はーい、これで朝の部は終わりですわ! よくがんばりましたわ、みなさん!」
「この後は朝食及び午後まで休憩。昼食後の午後から次のトレーニングに移る」
「そういうことなので、みなさんは休憩に入ってくださいましー!」
こうしてキツいトレーニングは終わった。
疲労が頭と体を支配し、鍛えられているという感覚はあまりない。
「アルク、朝食行こう」
「はいはーい……ちょっと待ってね」
朝食に行きたそうなシエル。
私は呼吸を整えて姿勢を正す。淑女たるもの、しっかり応えなくてはね。
「新人ちゃん!」
「おっ?」
呼び声。
ずかずかと足音を立ててやって来るのはブタ耳の生えたホテル31だ。私たちと一緒に厳しいトレーニングをやっていたはずなのにシエルと同様に余裕で動いている。流石だ。
「先ほどの失言はビックリしちゃいましたけど、あなたの噂は聞いておりますわ。中々にお強いらしいですわね」
「いやいやぁ、それほどでも……」
「謙遜する必要はありませんことよ。実力があることは良いこと、後は体力を付けるだけですわね。実戦は体力勝負なこともありますから」
なにを言われるかと思いきや、お叱りではなかった。
抜山蓋世コンビやシエル、そしてこの人。ここは優しい人ばかりだ。
「そういうことなので、後であなたの実力を見てもよろしい?」
「えっ、まさか……模擬戦?」
「その模擬戦ですわー!」
優しい人かと思いきや、模擬戦の申し入れ。
しかもニッコニコ。確実に私のことを試そうとしている。
「昼の部はあなただけ特別に模擬戦! アタクシとバトれることを楽しみにしていなさーい!」
「は、はい」
今日も今日とて模擬戦ですわ。朝食食べた後はしっかり休んでおかないと。
「さて、アタクシも朝食一緒に行きますわー!」
「かもーん」
元気の良いホテル31と誘うシエル。
私はそんな二人と一緒に食堂へ向かう。
※
食堂に到着。今日は白飯ではなく、パンを中心にした朝食だ。
「アルク、席を確保」
「了解でやんす」
いつもの如く窓際、壁を背にした隅っこの席を確保。
いつもの流れでシエルが二人分の朝食を持ってくるに加えて、今回はホテル31も朝食を持ってやって来る。
「おまたせ」
「ありがと、シエル」
「オホホホホッ! 今日はパンですわー!」
席に座る二人。シエルが大人しいのに対してホテル31は騒がしい。
これはこれで賑やかで楽しいが、抜山蓋世コンビに続いて絵面がカオスだ。
「いただきます」
「いただきますですわー!」
私も「いただきます」を言って朝食をもぐもぐ。
パンとスープを一緒に食べると美味い。と、食べているとシエルの隣から騒がしい食べ音が聞こえてくる。
視線を食べ物からホテル31に移せば、まさにブタの如く夢中で朝食を貪り食う姿がそこにあった。
「わぁ……」
お嬢様らしくない食べ方。品がない。
でも心底美味しそうに食べて胃袋を満たしている様子は人間性に溢れている。
私は好きだ。
「あ、名前……」
「はまえ?」
丁度同席して食事しているから、ついでにホテル31に名付けしてしまおう。
「んっ、はぁ……名前ですの? アタクシの管理名はHOTEL・1-31・飛組ですわ。よく記憶に刻んでおきなさい!」
「あ、そうじゃなくてぇ」
「あら? じゃあ、なんですの?」
「名前を付けようと思って」
「な、名前!? まさか噂に聞く名付けをアタクシにも……!」
名前はどうしようか。
ホテル31の目は期待に満ちている。私の抜群のネーミングセンスで最高の名前を付けてあげなきゃ。
「じゃあ、ホー……」
「ホー?」
「少し待って」
ホテルと飛組から取ってホトバと言おうとしたが、安着な気がして今一度考え直す。
一瞬の内に熟考。イメージ数式とかたくさん頭の中に出しながら考えに考えを尽くして考え直した末にポッと頭の中に出てくる。
「スクロファとかどう?」
「それ、ブタの学名の一部から取りましたの?」
「えっ? が、学名?」
知らない内に完全に地雷を踏んだ。
まさかなんとなく付けた名前がブタの学名の一部だと思わないじゃん?
「ごめんなさい! 今のは没で!」
「まぁいいですわ。知らず、悪意がないでしょうから」
どうしよう。これ以上、名付けが思い付かない。
もうホトバでいいかな。
試してみるか。
「じゃあホトバはどうかな?」
「んー……素朴に聞こえるけど珍しい名前。特別感があって気に入りましたわ!」
「良かった。気に入ったようでなによりですわー」
「新人ちゃんにもお嬢様の言葉が移りましたわー! このまま新人ちゃんもお嬢様になっちゃいましょー!」
「ちなみに私の名前はアルク」
「アタシはシエル」
なんか上手く事が運んだ。
直感を頼りに試してみるもんだなぁ、などと思う朝食のひと時であった。
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