獣兵計画

@D-delta

▽第1話 猫になる日

 いつもの日常。いつもの生活。

 疲れて憂鬱な日々を送っていく毎日。

 でも今日はそんな憂鬱な気持ちが消える日。

 土曜日だ。


 ピンポーン


「はーい!」


 そして今日は私が待ち望んでいたものが来る日。

 今からワクワクしながら玄関に急ぎ、扉を開け放つ。


「お届け物です、こちらにサインをお願いします」


 爆速でサイン。配達員からダンボール箱を受け取り、玄関はちゃんと閉める。

 ダンボール箱の中身は一週間前に頼んでおいた代物。

 早速自分の部屋に戻って開けることにした。


「おおー……」


 同人ゲームのグッズとかで自分の好きなもので彩られた自室。

 そんな自分だけの宮殿でダンボール箱を開封。中身を取り出した。


「へへ……えへへ!」


 中身は茶色の猫の尻尾。

 手に触れて分かる、艶のある滑らかなで確かな質感。

 可愛い。でも愛でるだけのものじゃない。

 これは付けるものだから!


「親はいない、よし。窓のカーテン、よし」


 猫の尻尾を付ける前に家中を見て回って、指差しもして入念に確認。

 猫の尻尾を付けているところを親に見られでもしたら家族会議確定。近所の人に見られても気まずい空気が流れて、噂が立つこと間違いなし。

 どっちにしても厳しい両親との家族会議が始まってしまう。


「よーし」


 家には自分以外誰もいない。窓のカーテンは完璧に閉じている。

 指差し確認完了。

 猫の尻尾を付ける時が来た。

 事前に買ってあった尻尾と同じ色の猫耳カチューシャも付けて、私は猫になる。


「にゃあ」


 猫の耳と尻尾を付け。鏡に向かって鳴く。

 これが萌え。ちょっとした背徳感も混ざって楽しい。


「んー?」


 でも鏡に映るのが自分と認識すると一気に現実に引き戻される。

 鏡はダメな気がした。鏡からは目を背けることにして、踊ってみたり、ポーズを取ったりして楽しむことにした。

 それからキツさを隠す気持ちで顔を隠して写真も撮った。

 こういう時にメイクするんだなぁ……そんなことを思いながら楽しい時間が過ぎていく。


  ※


 あれから時間が経ってしまった。

 猫になったのを最大限楽しんだ後、ゲームに夢中になり始めたらもう夜だ。

 流石に眠い。


「ねむ」


 両親が帰ってきている気配はない。声もしない。

 家の中は静まり返っている。

 今日は出先のどこかで泊っているのかも。親のことなんて気にせず寝てしまおう。


「ふにゅ……」


 私はなにもかも置きっぱなしでベッドに横になり、おやすみも言う相手もなく、目を閉じるのであった。


  ※


 目を覚ます。

 開いた目に飛び込む、暖かい太陽の光。


「んん……!」


 とても気持ちの良い目覚め。

 土曜日の次の日曜日、休日で仕事がないからだろうか。

 それにしては穏やかな風が吹いて、涼しくて心地良い。

 私は外の風が入って来ているのだろうと視線を窓に向けた。


「え?」


 しかし窓はなかった。それどころか自室でもない。家でさえない。


「どこ、ここ!?」


 私はベッドに横になったまま森の中にいた。

 見知らぬ森。遠くを見ても舗装された道路や標識は見えず、森を離れることが出来ない。


「ど、どうしよ、なんでこんなところに!」


 慌ててベッドの上で起き上がる。

 心音がバクバクとして冷静でいられない。帰れずに死ぬかもしれない。

 普段なら気になる虫だとか気にしている暇もない。


「誰かー、誰かーっ!」


 誰か来てくれることを祈って、声を上げて叫ぶ。

 それに賭けるしかない。


「誰かいませんかー!」

「いるよ」

「!?」


 後ろから女の子の声。

 びっくりして後ろを見たら、なにやら機械や機材を身に付けたセーラー服の大人しそうな女の子が浮いていた。


「え、えぇ!?」


 更に驚いた。

 女の子が浮いているだけでもびっくりなのに、犬の尻尾と耳まで生えている。


「犬だーっ!」

「そういうあなたは猫でしょ?」

「ね、猫?」


 言われて部屋着姿の自分のお尻を見る。

 そこにあるのは猫の尻尾。艶のある滑らかな質感。色まで昨日買ったコスプレ用の猫の尻尾と同じだけど、コイツ自分の意思で動かせるぞ。


「てことは……」


 自分の頭を触る。

 茶髪の頭に生えた二つのふさっとした感触。耳の先の毛が少し長いけど、これは猫の耳確定である。

 しかもコイツも自分の意思で動く。


「猫だーっ!」


 衝撃だった。

 コスプレという領域を超えて、本物になってしまったのだから。


「こちらサーチャー1、荷物を発見及び確保。全員基地に撤収せよ」


 私が衝撃を受けている一方で、セーラー服の犬娘は無線でなにか軍事っぽいことを話している。


「えっと、君は……?」

「まずは一緒に来て。あなたを連れて行かなければならない」

「どこへ?」

「急いで。時間は待ってくれない」


 セーラー服の犬娘に急かされ、私はベッドの上から地面へと裸足で立つ。

 そして彼女に連れられてどこかへ、未知の場所を行く。

 私の猫化も、目の前にいるセーラー服の犬娘も、なにも分からないまま進行していく。

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