4. 硫黄の匂いと農場の守り
1675年の初夏。エリアスが研究所で黄鉄鉱を砕き、硫黄を分離する実験に没頭していると、扉を叩く音が響きました。手を止め、扉を開けると、年配の農夫が帽子を脱いで立っています。日に焼けた肌と厚い手のひらが、その労働の厳しさを物語っていました。
「エリアスさん、助けてほしいことがある。」
農夫の声には切実さが滲んでいました。
エリアスは椅子を勧め、話を聞きます。農夫の名はヤン、村外れの大規模な農場を営む男でした。ヤンの話によれば、近頃、野ウサギやイノシシが頻繁に畑を荒らし、作物が根こそぎ食い荒らされているという。
「硫黄の粉を分けてもらえませんか?」ヤンは真剣な表情で頼みました。
エリアスは少し驚きながら、首を傾げた。「硫黄が害獣避けになると?なぜそう思われたんですか?」
ヤンは頷き、語り始めました。「昔からこの辺りの伝承で、硫黄を撒けば獣が寄りつかないと言われていてね。あの鼻の効く奴らには、この匂いが嫌なんだ。何度かやった農家もいるけど、効果があったと言ってたんだ。」
エリアスはその話を興味深く聞きました。硫黄は彼の研究に欠かせない物質ですが、害獣除けに使うという発想は彼にはなかったからです。
「試してみましょう。」エリアスは立ち上がり、作業台から硫黄の粉末を小さな袋に詰めて手渡します。「これを畑の周囲に撒いてみてください。ただし、風や雨で流されることもあるので、様子を見て追加が必要になるかもしれません。」
________________________________________
硫黄の効果
数日後、ヤンが再びエリアスの元を訪れました。彼の顔は興奮で赤らんでいました。
「エリアスさん、硫黄が効いたよ!」
ヤンは手を広げながら畑の成果を伝えます。「撒いた翌日から、畑に獣の足跡が全然見当たらないんだ。これで作物が無事に育つよ!」
エリアスは微笑んで答えました。「それは良かった。硫黄の匂いが獣を避けさせる効果があるなら、この方法は継続的に使えそうですね。ただ、風や雨で匂いが薄れる可能性があります。撒き直しが必要になるかもしれません。」
ヤンは深く頷き、「もちろんだ。追加で硫黄を頼みたいんだが、いくらでも分けてもらえるかい?」
「在庫はあります。他の農家さんたちにも必要になったら、まとめて調整しましょう。」エリアスはそう答え、必要量を用意する約束をしました。
________________________________________
地元での評判
ヤンの畑での成功は瞬く間に村中に広がり、他の農家たちからも次々と硫黄の注文が舞い込むようになりました。エリアスの作業場には、農家たちが硫黄を求めて訪れる日が増えていきます。
「おかげで、今年の収穫は期待できそうです!」
「エリアスさん、また硫黄を分けてください!」
農家たちの感謝の声が、エリアスの研究所を温かい空気で満たしました。
________________________________________
エリアスの感慨
エリアスは夜、作業台に座りながら考え込みました。愚者の黄金と呼ばれる黄鉄鉱から得られる硫黄は、これまで彼の研究対象でしかなかったものです。それがこうして人々の生活に役立つ存在になるとは、想像もしなかったことです。
彼は日記にこう記しました。
「愚者の黄金が、人々の畑を守る盾になるとは。研究材料としてしか見ていなかった硫黄が、こんな形で役立つとは思わなかった。この発見は小さなものかもしれないが、確かに価値のある一歩だ。」
エリアスは硫黄の粉末を手に取り、その黄色い結晶の輝きをランプの光で眺めました。それは、彼にとってただの研究素材ではなく、農場の守り手として新たな意味を持つものになったのです。
************************************************
害獣よけの硫黄の粉は、日本のホームセンターでも普通に売っているはずです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます