勧誘/リオの返答

 オレがギルドでディアナを待っていたときのことだった。


「ねぇねぇ、新人くん」


 見知らぬ冒険者がオレに声をかけてきた。話しかけてきた女と男がひとり寄ってきている。どちらも若い。


「冒険者になったばかりなのに、Cランクに上がったのってキミだよね?」


 女は小柄だった。茶髪を短く切りそろえていて、声音が明るい。


「そうだが」

「えーすっごい〜。うちらもCランクなんだ」

「そうか」


 他がどうかなぞオレには関係ない。同じだからなんだというのだ。


「ね、キミっていつも亜人の子とダンジョン行っているよね。どうして?」

「冒険者のことを教わってる」

「へぇ、パーティーメンバーじゃないんだね」


 ……そういえばパーティーという概念があったな。オレは学園生活が控えているから固定メンバーを組めるわけがないと気にしてなかった。


「じゃあ、俺らでもいいわけだ」


 男が前に出て、口を開く。女と同様に茶髪だ。平均的な体格で、腰にはショートソードが下がっている。ふたりとも雰囲気が似ている。オレとリーンのように兄妹かもしれない。


「俺はイオルブ、剣士だ。こっちがアーチャーのメラナ」

「よろしくぅ」

「魔法使いのリオだ。よろしく。で、要件は」


 オレが名乗ると、ふたりは顔を見合わせて頷いた。


「俺らのパーティーに入ってほしくてね」

「勧誘ってわけ!」


 ……ほう。


「魔法使える人がいると色々便利だろうって思ってたんだ。俺らふたりだし、こっちに加わってくれれば、戦闘面でも互いに安定感出ると思うんだけど」

「亜人は誘わないのか」


 ディアナの名は出さず、亜人と言ってみる。すると女のほうが笑う。


「魔法使いがいてくれると嬉しいってだけで、亜人の子は別に……分け前へっちゃうし。パーティー組んでないのなら、私たちでもいいわけでしょ。Cランクの期間も私らのほうが長いし、いろいろ教えてあげるよ?」

「そうか。安全を取るのに人数が多いほうがいいと思うが」


 人間は弱いしな。


「バランスってものがあるんだよ。それに亜人だし」


 男が返答する。


「何か問題があるのか」

「だって、人じゃないし」


 女が言う。その言葉のニュアンスはわかりかねるが、見下しているようには見えなかった。


 未知の生物とでも考えているのか。アルテッタの話も考えると潜在的な恐怖があるかもしれない。


「……そうか。わかった」


 オレがそう言うと、ふたりとも笑みを浮かべる。オレがパーティーに加わると思ったのだろう。


「組む意味がない。他を頼ってくれ」


 きっぱりと断りの返事をする。すると女が驚いたように目を見開いた。


「組む意味がないってどういうこと」


 怒気を帯びた声で言われる。


「そのままの意味だ」

「なんでよ。こっちにいたほうが明らかにお得じゃない」


 胸に手を当てながら女がわめく。


「なに、バランスというものだ。気にするな」


 こいつらは明らかに主導権が自分にあると思っている。オレを引き抜いてやる、といった心理だろう。


 勘違いも甚だしい。


 オレはダンジョンで色々と試し、己を高めたいだけだ。冒険者として活動するのであればひとりでも構わない。


 ディアナには世話になっている。効率化のためとはいえ、オレが魔力の性質を変えてしまったという責任もある。


 魔力性質の変更は影響が強いわけでもない。悪魔であれば隷従化の儀式でもあったりするが、悪魔での話だ。ディアナの件は関係ない。


 したがって責任といっても大したものではないが、少なくともこんな適当な連中と組むことを理由に関係を希薄にする意味はない。


「納得いかないな。試しに1回、俺らと依頼を受けてみないか」

「くどいな。キサマらどれだけランクが高かったとしても組む意味はない。オレには必要ない。それだけの話だ。わかったら他に行け」


 手で追い払うしぐさをする。

 こういう輩に関わって都合の良いように使おうとされるのはごめんだ。


「人数が多いほうが安全って言ったのはそっちじゃない!」

「それはらの話でオレの話ではない」

「なっ……!」


 女が言葉に詰まる。


 オレは視線を動かした。


「そろそろ邪魔なんだが、諦めてくれると助かる」


 こちらを見ているディアナと目が合う。ディアナは慌てて目を伏せた。

 ふたりはディアナの存在に気がつくと、歯噛みした。


「行くぞ、メラナ。確かにこんなやつと組む価値ない」

「くっ……後悔しても知らないからね!」


 無意味な捨て台詞を吐いて離れていくふたり。入れ替わるようにディアナが歩み寄ってきた。


「リオ、良かったの」

「何が」

「勧誘受けなくて」

「どこから聞いていた?」

「ほとんど、かな? 話しかけづらくて……ごめん」


 どこにいたんだ。ふたりが邪魔で見えなかっただけか。

 亜人だから聴覚が優れているというのもあるかもしれないな。離れた場所で聞いていた可能性もある。


「聞いていたならわかるだろ。意味がない」

「ボクに気を使ってくれたのなら、気にしなくていいよ」

「使っていないぞ、全く」


 やつらに利用価値すらないだけだからな。


「リオはさ。亜人のことどう思ってるの」


 どうと聞かれても、亜人は亜人だが。


「どうとも思っていない。人と同じだ」

「同じ……?」

「そういう種族だ、というだけだ。どの生物だって得意不得意、役割というものがある」


 強さでいうのであれば、悪魔が圧倒的に上の存在だ。しかし、悪魔は魔王ですら現界に苦労している。人間のほうが下の存在であるのに、だ。


 悪魔オレにとって支配欲が欲求として強いからこそ、相手を屈服させやすい強さを上下の基準に置きがちだが、世界は強さだけでは成り立たない。


 強さや立場が上だとしても存在価値まで上とは限らない。


「肉食動物は草食動物を食らうが、草食動物よりも肉食動物のほうが存在価値があるわけではない。人間は家畜を飼う。その点で考えれば肉食動物より草食動物のほうが価値があるのかもしれないな」


 存在価値というのは無論個々で変動するものだ。


「オレにとって、やつらよりディアナのほうが価値がある。そういう話なだけだ」


 ディアナは俯く。


「……パーティー登録してないのに」


 震えた声で、ぼそりと言われる。


「オレの事情があってな。活動できる時間が限られている。登録しても迷惑がかかるだけだろう。単純に頭になかっただけだ」


 学園に行ってからも活動を続けられるかわからないしな。


「……そうなんだ。登録するのが嫌とかじゃないんだ」

「全くない。そもそも意味あるのか?」

「あるよ?」


 ディアナは服の腕部分で目元をこすってから顔を上げた。痒かったりしたのだろうか。


「パーティー名決められるし、それで実績積めば、指名依頼とか来るし。パーティー組んでないと同じメンバー集まるのに手間かかるんだから」

「……ほう、そういうものか。やはり活動に制限があるオレが登録するものでもないな」


 学園に通うようになってからは、適当にダンジョンに潜って攻略して、ディアナの手伝いができるのなら手伝えばいいだろう。


「その事情っていうのは、話してくれないの?」


 不安げにディアナが言ってくる。


「……そのうち言えると思うが、今はできないな。今、他人ひとに言えない状態というだけだ。事情自体は大したものではない」

「じゃあ、待つよ。だからちゃんと教えてね」


 そうしてディアナが笑みを浮かべる。


「あぁ」


 オレは悩まず頷いた。

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