手に入れた力

 気がつくと、ベッドの上で横になっていた。ボクはゆっくり体を起こし、周りを見る。


 床に、リオが座っていた。足を組んで、背中を棚につけている状態だ。リオはボクの視線に気づいたのか、目を開けてこちらを見る。


「起きたか」

「うん」

「体はどうだ?」


 言われて、体を確かめる。痛みは綺麗さっぱりなくなっていた。体の底から、じわじわ温かみが浸透していくような、不思議な感覚がある。


「ウルフスピリット。唱えてみろ」

「そんないきなり」

「唱えればいいだけだ。難しくはない」


 なんでもないことのように、リオが言う。


「ウルフ、スピリット」


 息を吸って、名唱をする。


 ――力が溢れ出した。


 突然、胸に火が点いたかのように熱くなり、それが全身に巡る。重さの概念が自分の中から消え去った。


 両手を見る。オレンジ色の魔力が自分から出ていた。リオほどじゃないけど、間違いなく魔力のオーラだ。


「魔法が、使えてる……!?」

「百聞は一見にしかず。感覚を刻めばこの通りだ」


 今までろくに魔法を使えなかったのに、使えてる。その感覚に、思わず拳を握りしめてしまう。


 これがボクの、魔法?


 不思議と、使い方がわかる。魔法の切り方もそうだけど、魔力の巡らせ方だとか、そういうのが感覚的に。


 魔法を解除する。


 ボクはベッドから降りた。そしてリオに頭を下げる。


「ありがとう、リオ」


 ボクじゃ何年費やしてもできなかったであろうことを、リオは1日でボクができるようにしてくれた。


「気にするな。オレにもメリットはある。魔力の性質を変えたからな」

「性質?」

「あぁ。オレに近い魔力の性質にした。これで直接魔力を分け与えても問題ない。オレも、ディアナも、だ」

「そんなこともできちゃうんだ」

「まぁ、こっちは2度目だからな」

「2度目?」


 リオはボク以外にそういうことをしたことがあったんだ。


「1度目はオレ自身だ」


 自分にやった……?


「何のために、自分にやったの」

「生きるためだ」


 真顔でリオは返した。


「前のオレは生み出す魔力が大きすぎて、逆に体が壊れかけていた。魔石の流す魔力量に体が追いついてなかったわけだな。そのせいで虚弱体質だと誤解されていた」


 人差し指を立てて説明をする。


「だから魔力の性質を変えることに魔力を消費し、更に体に流す魔力量をコントロールすることで虚弱体質を克服した。おかげで今はこの通りだ。痛かったぞ」


 簡単に言ってのけるリオ。でも、体験した後だからわかる。さらっと説明で済ませていいものではないと。


「凄いね、リオは」

「凄いのはディアナだ」

「ボク?」

「人は危険なことに手を伸ばさない」


 そういいながらリオは虚空に手を伸ばす。


「危険には必ず死が付き纏うからだ。ディアナは自分から手を伸ばして、力を手にした」


 手を掴んで胸のほうに引き寄せる。


「それはオレのおかげではない。痛みに耐えた、ディアナの力だ」


 笑みを浮かべながらリオが言う。


「だから自信を持て。そして存分に使うといい」


 リオは立ち上がると、軽くホコリを払う。


「さて、新しいものを手に入れたら試したいものだろう? ダンジョンに行こう。きっと今よりもっと強くなった自分を体感できる。面白いぞ?」


 今までで一番楽しげに、リオが誘ってくる。


 正直、ボクも試したくて仕方がない。ボクは強く頷いた。







 生まれ変わったみたいだった。

 ダンジョン一層の魔物が弱く感じる。ジンメンコンを斬ったときに残る手応えの感覚も、今はさほど残らない。


 体を動かすだけで無意識に魔力の巡る量が変わるのがわかる。


 リオがなんで魔力を節約する方法があるといったのか理解できた。魔法として消費し続けるのではなく、体を巡らせる魔力量の増減。これで、普段体力を使うのとほぼ同じ消費に抑えられる。


 すごい。


 これがボクの力なんだ。


 リオが示してくれた、ボクの可能性。


「ギャア!」


 ウドリザードと呼ばれる大トカゲの噛みつきを跳んで避ける。そして身をひねりながら回転斬りを繰り出した。


 硬い鱗をものともせず、両手の剣で体を斬り裂く。


 一撃で、勝負が決まる。今までは、何度も斬る箇所を考えながら攻撃していた相手なのに。


 これなら、もっとダンジョンを潜っても大丈夫そうだ。


 リオの方へ振り返る。


「ウィンドカッター」


 リオが手をかざすと風が飛ぶ。刃状に形成されたそれはウドリザードを真っ二つにした。


「ふむ。風魔法も悪くないな」


 本当、リオは何者なんだろう。魔法だって幅広く覚えてるし、魔力の質だってある。


 魔力密度は下からレッド橙色オレンジ黄色イエローと変わっていくけれど。リオはボクの橙色よりも上の黄色だ。

 

 こんなにも実力があるのにビギナーなんておかしな話だ。


 ――もっとリオのことを知りたい。


 リオの顔を見ながら、ボクはそう思うようになっていた。

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