八百万異戦ラプソディ~残念美人よ異能を尻に敷くがいい~

@kamulo

八百万マルチサポートのおなり①

2XXX年、日本。度重なる地震、台風、火山噴火の自然災害に国土は疲弊しきっていた。経済も政治も膠着し、治安までもが悪化の一途を辿る。

先が見えず袋小路に陥ったこの国で、人間という存在に特異点がもたらされることとなった。


東京、池袋。三階建てビルの三階、とある事務所。ドアには「八百万マルチサポート」の掛札。その中の一室に、キングサイズのベッド。若い女性が四人寝ている。真ん中の女性が身を捩る。


「うぅ~ん、ねむぅ……」


既に日は高いが、誰も起きる気配は無い。そこへ、


びゃくさん!起きてください!仕事ですよ!」


少女が勢いよく部屋に入ってきた。


「……zzz」


しかし誰も起きない。少女は仕方なくベッドに近寄り、真ん中の女性の足を叩いて、


「百さーん!起きてー!」

「zzz」

「おーい!痴女ー!」

「zzz」

「はぁ……もう!」


少女は一旦引っ込み、どこからともなく拡声器を取り出して、


「起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろーーー!!!」


ビルが揺れるほどの大音量の目覚ましを披露した。


「「「きゃぁっ?!……いやぁー!」」」


端の三人が跳ね起き、身体を隠しながら少女の脇を抜けて部屋を出ていく。最後に残った一人が今ようやく身体を起こす。


「ふぁ~あぁ。何よもう、うっさいわねぇ。優しく起こしてよぉ。女の子たちもいなくなっちゃったしぃ。」


頭を掻きながら気だるげにそう言う。

彼女は八百やお百尼びゃくに。長い銀髪と百八十センチを越える身長が特徴的な美女。右のうなじに「鏖」のタトゥーがある。八百万マルチサポート主人。


「優しくしても起きないじゃないですか。女の子だって勝手に連れ込んだんでしょ。それよりさっさと着替えてください。依頼人さん待ってますよ。」

「はぁーい。」


百尼を急かす少女は六波羅ろくはら千尋ちひろ。八百万マルチサポート助手。ハッキングが得意。どんな情報にもすぐアクセスできる。

八百万サポートはいわゆる便利屋で、あらゆる依頼を引き受けて生計を立てている。


「今日は何なのぉ?楽なやつぅ?」


赤のバイクジャケットに身を包み、サングラスをかけながら尋ねる百尼。


「半グレに盗まれたバッグを取り返してほしいんですって。」

「げぇ。面倒くさぁ~い。気分じゃなぁ~い。」

「選り好みしてる場合ですか。ほらシャンとしてください。話聞きに行きますよ。」


応接室に移動すると、若い男性が落ち着かない様子でソファに座っていた。


「お待たせしました。こちらが主人の八百百尼です。」

「どうもぉ。」

「あ、はい、よろしくお願いします……」

「それでバッグを取り返してほしいとのことですが、詳しくお聞かせいただけますか?」

「はい。昨日のことなんですが、彼女の誕生日プレゼントに、銀座で高級ブランドのバッグを買いに行ったんです。数量限定のレア物です。長いこと列に並んでようやく買えたんですが、その帰りに……」

「半グレに遭ってしまったと。銀座だと『弩愚魔愚瑠ドグマグル』のテリトリーですね。ボスはこの人です。鮫頭さめがしら亀次郎かめじろう


千尋がパソコン画面いっぱいに鮫頭の写真を見せる。いかにもという悪人顔。


「そう!この人です!この人に盗られました!『並んでねぇからって買えねぇのはおかしい!俺の女が欲しがってるから寄越せ!』って、無理やり……」

「無茶苦茶ねぇ。かわいそ。」

「弩愚魔愚瑠は新橋の廃ビルをアジトにしてます。今の時間ならそこにいるんじゃないですかな。」

「そう、後になってどっかに行かれるのも嫌だしぃ、さっさとやった方が良いいかもねぇ。面倒だけどぉ……うぅ~ん。」


百尼が立ち上がり、背伸びをする。


「ですね。料金は十万円になりますけど、いいですか?」

「はい、大丈夫です。」

「ですって。じゃあ行ってらっしゃい。」

「ほいほーい。」


そのまま事務所を出ていこうとした時、


「え、ちょっとちょっと!あなたが行くんですか?!」


足を止めて振り返る。


「何よぉ、文句あるぅ?」

「え、いやその、こんな危ない仕事、女性だけでは……」

「八百はそこらの男性の百倍強いのでご安心ください。実績もありますから。」

「は、はぁ……」

「んじゃあ行ってきまーすぅ。」


今度こそ出ていった。


新橋。弩愚魔愚瑠アジト廃ビル前。百尼現着。


「ここねぇ。」

「はい。さっきから構成員が出入りしてますし、間違い無いです。四階建てで、どこかに鮫頭がいると思います。」


千尋はサングラスに内臓された超小型カメラとマイクで百尼をサポートする。


「どうします?屋上から潜入します?」

「いいわよそんなのぉ。結局力押しになるんだからぁ、最初から正面突破でいくわぁ。」

「分かりましたよ。ファイト。」


百尼が廃ビルにずんずん入っていく。


廃ビル一階。

男たちが十人たむろしている。


「はぁーい、ごきげんよう。」


元気に挨拶する。


「お?なんだネェちゃん。」

「すっげぇ美人……ボスの女か?」

「違うだろ。ボスのはもっと力士みたいな見た目だったろ。」

「それに美人でなくとも、世の中ほとんどの女に見向きもされねぇって。」

「ちげぇねぇ!ハッハッハッハ!」


構成員に笑いの輪が広がる。


「酷い言われようねぇ。それでそのボス、いるぅ?」

「上にいるけど、何か用か?」

「えぇ、ぶっ飛ばしに来たのぉ。」


百尼がそう言った瞬間、場の空気がひりついた。


「……ぶっ飛ばす、だぁ?冗談だよな?」

「本当だけどぉ。」

「おい、今なら笑って帰してやらぁ。冗談、だよな?」

「だから本当だってぇ。」


百尼は調子を崩さない。


「てんめぇ!舐めやがって!」


男たちに囲まれ、睨まれる。さっきまでの陽気な雰囲気とは打って変わり、はっきりとした敵意を向けてくる。


「さんざん陰口言ってたくせにぃ、忠誠心があるんだかないんだかぁ。」

「うるせえ!俺たちのは愛のあるイジリなんだよ!ボスは俺たちしかイジっちゃダメなの!」

「そんなボスをぶっ飛ばすなんて生意気言いやがって、許せねぇ!女だからって承知しねぇぞ!」

「痛い目見せて分からせてやる!俺たちがどんだけボスを想ってるかをなぁ!」

「血気盛んねぇ。望むところだけどぉ。」

「うぉぉぉ!かかれぇぇぇ!」

「「「「「「「「「「おおおおおおおおおお!!!」」」」」」」」」」


一斉に襲い掛かってくる。

百尼はにぱっと笑い、正面の一人に近づく。右手をかざし、中指を折り、親指で押さえ込んで力を溜める。そして相手の額目掛けて、ピンと放出。中指の先が額に当たり、そのまま額から身体全体を押し上げ、とうとう身体が宙を舞う。


「ぶっげぇっ?!」


とんでもない衝撃を受けた男は壁まで吹き飛ばされた後、なすすべなく倒れた。

他九人、唖然。


「……は?」

「どゆこと?」

「デコピン一発?」

「夢か?」


百尼は九人に向き直る。


「夢じゃないわぁぁぁ!どんどんいくわよぉぉぉ!」


パンチ、キック、肘うち、チョップ、ビンタ……あらゆる徒手空拳で男たちをぶっ飛ばしていく。


「ぐえっ?!」

「ぐはっ?!」

「げげっ?!」

「ぶべっ?!」

「ぶほっ?!」

「どうぇっ?!」

「たらばっ?!」

「ごべすっ?!」

「ぶるぼっ?!」


反撃する間もなく地に伏せる男たち。瞬く間に一階、制圧完了。


「上の階ですって。やっぱり屋上から行った方が良かったですね。」

「結果論よそんなのぉ。それに下から上なら逃げられなくていいじゃなぁい。」


鮫頭を探して二階へ向かう。

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