第162話 解離性同一性障害

「落ち着いたか?」


「うん。ごめんね、迷惑かけて」


「いや、迷惑って程の事じゃないけど何があったのか教えて欲しい」


 しばらくして泣き止んだ瑠奈に俺は事の顛末を聞くことにした。

 今日はそれを聞きに来たのだから。

 瑠奈がこんなにあの時と変わっているとはさすがに思ってなかったから俺自身多少戸惑っている。


「うん。そうだよね。空と天音さんはそれを聞きに来たんだよね」


「それだけじゃあないけどまあ、聞きたいかな」


「私の症状は誰かに聞いたりした?」


「いや、誰からも何も聞いてないな。差し支えなかったら教えてもらってもいいか?」


 症状なんて何も聞いてないぞ? 一体瑠奈に何があったっていうんだ。


「解離性同一性障害ってやつらしいよ。難しい名前だよね」


 解離性同一性障害……聞いたことが無い病名だな。一体どんな病気なんだ?


「簡単に言うと二重人格みたいな? そんな感じらしい」


「……二重人格?」


「そう。お医者さんには過度のストレスによるものって言われたよ。浮気しといてストレスなんて何言ってんだよって感じだよね。ごめん」


 瑠奈は自嘲気味に目を伏せている。ストレスが原因で二重人格になることがあるとは聞いたことがある。


「別に謝る必要は無いんだけど。そのストレスの原因とかは聞いてもいいか?」


 八割以上の確率で俺が原因だとは思う。いや、悟という可能性もある。まあ、どちらにせよ俺に関わってしまったがためにそうなってしまったのだろう。


「空が無実だって証明された後に私はクラスメイト達に責められた。そのあとは悟君に捨てられた。お母さんには絶縁を宣言された。きっとその時私の心は耐えられなくなってもう一人の私を生み出したんだと思う。もちろんだからといって私は取り返しのないことをした。言い訳するつもりはないよ」


 ハハっと諦めたみたいに瑠奈は笑っていた。その顔は昔一緒にいた幼馴染である彼女のものだった。

 懐かしいと思うと同時にやっぱり俺にとって瑠奈は簡単には切り捨てられない大切な存在だったんだと再認識する。


「そっか。その時の記憶はあったのか?」


「うん。なんていうんだろうね。私は映画館に座って流される映像を見ている観客みたいな感じだったんだと思う。自分がしていることのはずなのにどこか自分の事には思えないみたいなそんな感じだった」


 もしかしたら、俺が一年前に永遠に出会っていなかったら瑠奈みたいになっていたのかもしれない。


「いつくらいから二重人格の症状が出てたのかわかるか?」


「悟君に捨てられた時くらいからかな。自分の感情を抑制できなくなったというか。あの時くらいからおかしくなってたんだと思う。半年前くらいにやっと収まった感じかな。お医者さんにもそう言われた」


 半年前というと俺は入院してたくらいの時か。意外と最近なんだな。


「もう一つ教えてくれ。一度精神病院から脱走したときに何があったのかを」


「それは……」

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