第67話 永遠の激怒

「ありがとう。美空ちゃん。あとは私の方で何とかするわ」


「わかりました。うちのお兄が本当に申し訳ないです」


 そう言いながら美空は部屋から出て行った。

 薄情者め。


「さて、話は聞かせてもらったけど最初に弁明でも聞いてみようかしら? 何か言い分があるなら聞いてあげる」


 とても綺麗な笑みを浮かべているがその拳は握りしめられていて何ならプルプル震えている。

 何を言ってもぐーぱんが飛んできそうな状況だしそもそも言い分も何も俺の考えていることは七海さんの録音データとさっき美空に話したことがすべてである以上弁明もくそもない。

 俺は俺の起こした行動が間違っているとは思ってない。

 戻れなくなる前に、迷惑をかける前にそうならないように行動しただけだ。


「……ないです」


「そう。わかったわ」


 永遠がそういった瞬間右頬に鋭い痛みが走る。

 ビンタかと思ったけどこの痛みは……ビンタじゃない!?

 永遠が振りぬいたほうの手を見てみると完全に握りしめられた拳がそこにはあった。

 つまり……ぐーぱん。

 まさか、本当に飛んでくるなんて思わなかった。

 こういう時って普通ビンタじゃないのかな。


「もう一度聞いてあげる。何か言うことは無いかしら?」


「……ないです」


 どれだけ殴られようということは無い。

 本当に言うべき言葉が見当たらない。


「そう。あなたって本当にバカなのね」


「……ぐっ」


 同時にもう片方の拳が飛んできた。

 完全に容赦のないぐーぱん。

 このことから永遠が今までないくらいに怒っていることは安易に想像できた。

 今までどれだけ怒っても直接的な暴力を振るってこなかったのに今回は一切の情け容赦がない。

 それくらいには激怒しているのだろ。


「なんで、あなたは私に何も言わないのよ! そんなに私のことが信用できない? 勝手に私の考えを決めつけて勝手に私から距離を取って! 空は何がしたかったのよ! それをすることで何を得られるのよ!」


 永遠は俺の胸倉をつかみながら叫んだ。

 今まで見たことないくらいに自分の本心を叫んでいた。


「俺はただ……永遠に迷惑をかけたくなかったんだ。俺が俺を止めていられるうちに距離を置こうと思った。そうしないと、俺は俺を止めれなくなるから……」


 きっと、今以上に永遠に惹かれてしまったら俺は自分を制御できない気がする。

 ただでさえ、教室で永遠が可愛い一面を見ただけで嫉妬心が湧き上がるくらいだ。

 これ以上症状が悪化すればどうなるかわかったもんじゃない。

 だからこそ、俺は自主的に永遠から距離を置くことにしたんだ。

 大切な人を自分のエゴで傷つけたくないから。


「なにも言われずにいきなり距離を置かれるほうの気持ちも考えてよ! すごく不安だったし空に嫌われちゃったのかなって夜も眠れなかった」


「俺が永遠を嫌いにあることなんかあり得ない。天地がひっくり返っても絶対に」


「そんなの言葉にしてくれないとわかんないわよ! ずっと不安でそれに空は最近学校の女の子から人気があったから恋人でもできたのかなって不安だったんだから!」


「この際だから言わせてもらうけど俺は永遠のことが好きだ! 自分がおかしくなるくらいには永遠のことを考えてる。でも、こんな感情を抱いても叶わない恋に違いはない。俺みたいに奴と永遠はどう頑張っても釣り合わない。だから、この感情が暴走する前に君と距離を取ることにしたんだ」


 学園のマドンナと言われている永遠と一度すべてを失った俺。

 この字面だけ見ても釣り合わないのだからそれ以外も加味したらなおさらだろう。


「なんでそうやってすぐに叶わないって決めつけるのよ! 釣り合うって何? 恋愛って釣り合う釣り合わないでするのもじゃないでしょ!」


「それはそうかもしれないけど、」


「ごちゃごちゃ言ってないでまずは私から距離を置こうとするのをやめなさい! それといい加減そのネガティブ思考をやめなさい!」


「……そう言われても」


 治そうと思って治せるならここまで深刻なネガティブ思考にはなっていない。

 簡単に治せるものではないのだ。


「あなたが許されてる答えははいしかないのよ」


「……恋愛が釣り合う釣り合わないでするものではないのはわかってるけど俺なんかが近くにいたら永遠はまともに恋愛できないだろ……」


 苦し紛れの言い訳だがこうでも言わないと押し切られそうだったから。

 何とかこの場を乗り切ろうと言った言葉だったのだが……


「……もう本気で怒った」


「へ?」


「空のバカぁ!!!」


「ぐふぇ」


 いきなり顔面にパンチが飛んできた。

 威力は相当強くて俺の鼻っ柱をとらえた拳に俺は簡単に意識を手放した。


 ◇


「……こうなったか~」


 お兄が鈍感の朴念仁であることは知ってたけどここまで重症だとは思わなかった。

 永遠姉さんが怒るのも無理ない。

 私は仰向けに気絶しているお兄を見下ろしながらそう思った。

 会話の一部始終を扉の前で聞いてたけど、さすがにお兄が悪い。

 擁護できないくらいにはお兄が悪かった。


「ネガティブ過ぎて永遠姉さんがお兄のことを好きっていう考えが出てこなかったんだろうな~」


 途中にお兄が永遠姉さんのことを好きっていうカミングアウトしてたけど永遠姉さんそれに気づいてるんだろうか?

 熱くなりすぎて聞いてなかったとかあり得そうだな~


「はぁ~あの二人両想いなんだから早く付き合えばいいのに」


 でも、お兄が釣り合う釣り合わないとか言ってる間は無理なんだろうな~

 永遠姉さんも今回は本気で怒ってるっぽいし。


「全く今回はお兄が悪いぞ~」


 仰向けに寝ているお兄の頬をツンツンしながらそういう。

 もちろん返答はない。

 きっとさぞ素晴らしい一撃が決まったのだろう。

 完全に伸びてるお兄を見てそう思う。


「七海さんにも今日のことは報告するとして、問題はどうやって二人を仲直りさせるかなんだよね~」


 お兄は変なところで頑固だし永遠姉さんは本気で怒ってるっぽいからどうしようもなさそうだし。

 なんて面倒な人たちなんだろうか。

 お兄も釣り合う釣り合わないとか考えずに永遠姉さんに告白すればそれで全部丸く収まるのに。

 まあ、それができないのがお兄なんだろうけど。


「とりあえず、お兄が起きたらお説教かな。さすがに」


 私はここまで面倒な修羅場になってしまったことに頭を抱えながらお兄が起きるのを待つのだった。

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